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十字架を架ける 【蒼碧の鎖-2-】  作者: 沖津 奏
第3章 プリンスと過去
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10 東の海賊

 数日後、シアーズはリーガに『アルバ』について尋ねた。好奇心なのかどうかは自分でも分からなかった。ただ、リーガがあの日うっかり喋っていたのが頭から離れなかったのだ。

 リーガは溜め息をつき、あまり喋りたくなさそうにしていたが、口を開いた。

「ローランドは見れば分かるが、東洋人だ。あいつは、プランス=ドゥレストゥ=ピラトゥ……ロワ=ピラトゥの、東の海賊王と言われていた奴の息子だ。『アルバ』っていうのは、海賊王の船に乗っていた、『北の王国』の人間が名付けたらしい」

 リーガはまた手に酒瓶を持っている。

「海賊王はほとんど、自分の帝国まで築き上げるくらいの力を手にしていた。拠点地の近隣諸国の王が恐れるくらいにな。それもこれも海の魔物を手なずけていたからさ。……お前がどこまで知っているかは知らんが、あいつが目も開かないような赤ん坊だった時だ。東の海賊王がエドモンド=ローランド卿とシアーズ伯爵の二人と戦った。そして、負けた」

 シアーズは驚いた。父の名が出ると思っていなかった。海賊はシアーズの表情に気付く気配もない。

「当然、海賊は古今東西、問答無用で縛り首だ。裁判くらいはするんだったか?とにかく、東の海賊王は死んだ。まあ、俺が知ってるのはあくまで噂だからな。シアーズ伯爵は幼い赤ん坊も殺そうとしたが、処刑される前に、海賊王がローランド卿に必死に頼んだのさ。俺の息子が何をしたっていうんだ、ってね。海賊行為なんてしていないのに、殺すのかと。あの冷酷無慈悲で、残虐の限りを尽くした海賊王が泣いて頼んだそうだ。シアーズ伯爵もかなり迷ったそうだが、その赤ん坊が大人になって何かあっては困ると思って、そのまま殺そうとしたらしい。だが、ローランド卿が救ったんだ。ローランド卿は息子がいなかった。跡取りにしようと考えたらしい。それだけなら親戚から養子をもらえばよさそうなものだがな……。まあ、あいつはもともと人間嫌いだったし、理由が理由だからな」

 段々とリーガの話は思出話に変わっていく。

「とにかく、ローランド卿が引き取って育てることになった。エドモンドはもともと、血筋をあまり重視しない傾向にはあったが。ああ、あの頃からかなあ。シアーズ伯爵とローランド卿がすれ違うようになったのは」

「じゃあ、もし東の海賊王が戦いに敗れていなければ……」

 シアーズが顔色を変える。

「そう、ウィリアム=ローランドという男は存在せず、代わりにアルバという名の海賊王がいた。あいつは海賊王の息子でありながら、プランスの地位を捨てて海軍に入り、本来なら仲間であったはずの俺達を滅ぼそうとしている。あいつが成長して士官学校を終えた頃、東の海賊の生き残りが、ウィリアムを迎えに行ったんだ。剣術も戦法も学んだあいつを王として迎え入れ、一族の再興を図った。東の海賊達は、父王を殺され、もともと仲間であったはずの海賊を殺すよう言われていた『プランス』なら、当然海賊側につくと思ったらしい。だが奴は、その生き残り共を殲滅した。海軍としてな」

 リーガは一呼吸おいて、ちらりとシアーズを見た。

「おかしいとは思わなかったか?」

「何が?」

 シアーズはリーガを見た。リーガは、真面目腐った顔でシアーズを見ている。


 プランス・ドレストゥ・ピラトゥは、東の海賊の王子って意味だと思って下さい。ロワは王という意味です。フランス語分からん。


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