勝手にアジトができました。
「こちらです、魔王様」
「待って、本当にどこ行くの?」
ルナリアに腕を引かれ、レインは王都の裏路地を歩かされていた。
騎士団から逃げた後、そのまま強引に連れてこられたのだ。
「安全な拠点です」
「俺の家でよくない?」
「魔王様の居場所を知られるわけにはいきません」
「だから魔王じゃないって……」
レインの抗議は今日も届かない。
しばらく進むと、巨大な屋敷の前でルナリアが止まった。
「到着しました」
「……誰の家?」
門がゆっくり開く。
中には黒い服を着た男女がずらりと並んでいた。
その数、およそ五十人。
全員が一斉に膝をつく。
「魔王様、万歳!!」
「闇の支配者様に栄光を!!」
レインは固まった。
「……え?」
ルナリアが誇らしげに胸を張る。
「私の元部下たちです」
「元部下?」
「昨日のうちに招集しました」
「昨日!?」
仕事が早すぎた。
レインが混乱していると、一人の大男が前に出た。
顔に大きな傷がある、明らかに強そうな男だった。
「俺はガルド。あなたの力を試したい」
「いや試さなくていいです」
「問答無用!!」
ガルドが巨大な斧を振り下ろす。
レインは反射的に影を伸ばした。
斧だけを影に収納する。
ガルドの手には柄だけが残った。
「……あれ?」
レインも困惑した。
「なんか斧だけ消えた」
ガルドの顔が青ざめる。
「伝説級の武器を……一瞬で……」
周囲もざわついた。
「武器の存在ごと消した……?」
「さすが魔王様……」
「いや後で返すから!」
誰も聞いていなかった。
その時、屋敷の奥から悲鳴が聞こえた。
「た、大変です!!」
メイド服の少女が駆け込んでくる。
「地下の魔獣が暴れています!」
「魔獣?」
「この屋敷で封印していた危険な魔物です!」
地面が揺れる。
地下から巨大な咆哮が響いた。
「グオオオオオオ!!」
床を突き破り、巨大な黒い狼が現れる。
部下たちが悲鳴を上げた。
「封印が解けた!!」
「逃げろ!!」
だがレインは首を傾げた。
「……あれ?」
黒狼はレインを見るなり震え始めた。
そして――
コロンッ。
腹を見せて寝転がった。
「……え?」
レインは恐る恐る撫でる。
黒狼は尻尾を激しく振り始めた。
「犬じゃん」
ルナリアが震えながら呟く。
「災厄級魔獣を……一瞬で従えた……」
部下たちが一斉に跪いた。
「魔王様!!」
「魔王様!!」
黒狼まで吠える。
「ワオォォン!!」
レインは遠い目をした。
「……パン屋に戻りたい」




