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「私、全く気付いていなかったわ。ごめんなさい」
2人きりになったテラス席で告げた。
「いいや。
ラウルは、ああ言っていたが、これは俺の問題だ。
それと、この前の様な事はしないから安心してほしい」
「あの、その事だけど、驚いただけで嫌ではなかったのよ。
私だって、ウィルに触れたいと思うもの」
すると、ウィルフォードから息を呑む音が聞こえた。
「そう言ってくれるのは嬉しいが、今はダメだ。
ここまで待ったんだから、結婚するまで待つよ。
だから、結婚後は覚悟して欲しい」
そう言うウィルフォードにドキドキしてしまう。
「私、心臓発作で死んでしまうかもしれないわ」
そう告げると『ははっ。だったら俺は、もう死んでいるんじゃないか?』と揶揄う様に言って来たのだった。
そうして場が和んだ時に、ウィルフォードが再び口を開いたのである。
「俺は、君が一番大切だからな。
だから、フェアリエルが笑うと俺も幸せなんだよ」
私は、そう言って笑うウィルフォードから目が離せなかった。
そして、そんなウィルフォードを見て、私の心が幸せだと感じている。
私はウィルフォードの手を取り『私達、似た者同士よね?』と問いかけたのだ。
「そうか?
でも、似ていると言われると嬉しいな」
「だって私も、ウィルの笑顔を見ると幸せだもの。
だから、私達、似ていると思うわ」
すると、ウィルフォードは目を丸くしてから微笑み『そうか』と呟いたのであった。
その後は、部屋へと戻り、街へと出掛ける準備をする。
「そろそろ行こうか?」
「ええ。準備出来ているわ」
私達は王宮の門を出て、変装用の指輪をはめた。
歩いて市場を巡る事にしたのである。
そして昨日も思ったのだが、アリステリアスは露店が多く、道の両端に軒を連ねているのだ。
前世で思い出す、お祭りの屋台みたいでワクワクする。
私達は、果物や、工芸品、装飾品と見て回ったが、一番はマジッククレーのお店だ。
やっぱり原産地なだけあって、お店の数も、品数も多い。
「ねえ、ウィル、見て!
見た事のないマジッククレーよ!」
「ああ。それは画像を映す物だな。店主、これをもらえるか?」
黄色いマジッククレーを指差して聞いているウィルフォード。
「毎度あり!彼女、美人だから、いっぱい撮ってやんな」
と、白い歯を見せて笑う店主から受け取っていた。
そこから少し歩いた所で、名産品のジェダンという、どぎついピンク色の果実ジュースを買い、一休みする事にしたのだ。
そして、ウィルフォードはさっきのマジッククレーを取り出して、魔力を流したのである。
すると、360度の静止画が撮れたのだ。
これ、写真だわ!
「すごいわね!これは何回撮れるの?」
「大体30回くらいだろうな。思い出を残すのに、丁度良いだろう?」
そう言ってニッと笑い、ジェダンジュースを飲んでいた。
私も飲もうと思うのだが、いかんせん、色がすごい。
恐る恐る、口を付けると・・・。
爽やかな風味が駆け抜ける。
え!?
予想外の味にビックリした。
前世のライムと似ている。それに、ミントを加えた感じだ。
暖かいアリステリアスでは、熱中症対策として、とても良い飲み物だと思った。
それからは2人で色々と市場を巡り、日も傾いてきたので王宮へと帰る。
明日は、マジッククレーが取れる山へ行くのだ。
ウィルフォードは食事を取った後、すぐに寝支度をしてソファで寝てしまった。
その事に私は(一緒に寝ましょう)と誘う事はしない。
その方が、ウィルフォードの為だからだ。
すると、疲れていたのだろう。
すぐにウィルフォードの寝息が聞こえて来たのであった。
私も明日に備えて、静かに準備をして、就寝したのである。
【ラウル視点】
ウィルフォードも大変だな。
僕なら耐えられないと思う。
本当、尊敬するよ。
僕らはテラス席から退出して廊下に出た。
「さぁミレット、帰ろう」
ミレットを見ると、顎に手を当てて思案していた。
僕は、前を見ていない彼女が危ないと思い、手を差し出したんだ。
すると、彼女は静かに口を開いたのである。
「あの、マティニア殿下と一緒に休む案は、結構良かったと思うんですけど、ダメでしたか?」
本当に、この子は・・・。
相変わらず、考える事がぶっ飛んでいる。
けど、仕事は出来るし、ちゃんとした場では空気も読める。
そして、いつも元気に僕を好きだと言ってくれる彼女。
最近、そんな彼女が可愛いと思ってしまう僕は、何かの病気に罹っているのかもしれない。
「それは、マティニア殿下もウィルフォードも苦行じゃない?
大の男が、同じベッドで寝るのはキツイって」
「けど、フェアリエルさんは安心して過ごせますよ?貞操を失う危険を、効率よく下げる事が出来ます」
まぁ、ウィルフォードも男だからな。
絶対大丈夫と言う保証はない。
効率重視の考え方に唖然としながら、廊下を歩いていると、聞き覚えのある声に呼び止められたのだ。
「ラウルじゃないか?どうして、ここに?
・・・ほう。
お前の婚約者候補も一緒って事は、ウィルフォードとその婚約者に会いに来たのだろう?」
マティニアがミレットをジロジロと見ている。
だから僕は、彼女を背に隠し、目線を遮らせたのだ。
「はい。
ウィルフォード殿下とは、仲の良い友人としてお付き合いをしております。
それでは、失礼致します」
僕はミレットの手を掴み、マティニアの横を通り過ぎようとしたら『なぁ、ウィルフォードの婚約者の名は、なんと言う?』と、問いかけられたのだ。
「・・・妖精ちゃんです」
と一言だけ告げて、その場を後にしたのだった。
そして、やっと馬車まで戻り、一息つく。
あの、マティニアの様子は・・・。
ウィルフォード。
これは、結構マズイかもしれないよ?
マティニアは節操が無い。そして、相手に執着もしない。
それなのに、妖精ちゃんへの執着心が見てとれた。
これは、どうしたものか?
と『はぁっ』とため息を吐くと、ミレットが話し始めたのだ。
「ラウルさん!私も、フェアリエルさんを守りますので、安心して下さい!」
・・・は?
いやいや、そんなの求めてないし。
それに、君に危険な目に遭って欲しくない。
「なに言ってんの?
危ないから止めて!分かった?」
僕がそう伝えると、嬉しそうに微笑み『はい。私、幸せです』と目尻から一粒の涙が溢れたのだ。
「え!?
なに泣いてんの?僕、何かしちゃった!?」
すると彼女は手で涙を拭い、話し始めたのである。
「私、ラウルさんに心配された事が、嬉しかったのです。だからこれは、嬉し泣きなんですよ。
心配は、ご無用です!」
と、いつものように明るく返すミレットの、いじらしい様子に心が痛くなった。
彼女はいつも元気だし、僕に対して無遠慮だったから、キツイ言葉を言っても、傷付いていないのだと思っていた。
・・・でも、そんな事はなかったんだ。
僕の何気ない言葉で泣いてしまう程に、不安で心細かったのだと、気付く。
「ミレット。本当にごめん」
「ラウルさん?どうしたんですか?
私は大丈夫ですよ!
それよりも、私の事を少しでも、好きになってくれましたか?」
毎度毎度聞かれるこの質問に、いつもは『僕は、君を好きにはならないよ』と返すのだが、今日はそんな嘘をつく事が出来なかったのである。
「僕は、君を少しだけ好きかもしれない」
すると彼女は目を丸くしてから、太陽の様に笑ったのであった。




