アディエル視点
次は決勝だ。
相手は途轍もない身体能力の持ち主である。
・・・普通に戦ったら負けるだろう。
どんな戦法で行こうかな?って考えていたら、対戦相手がやって来たのだ。
「君はとても強いね!戦える事を光栄に思うよ」
すると、彼は頷いただけで、何も話してはくれなかった。
それから、入場して位置に着き、気持ちを切り替える。
「始め!」
お互いに様子見の為、間合いを取る。
彼の体躯は小柄で、しなやかな筋肉をしていた。
どこにそんなパワーがあるのだろうか。
と相手を観察していたのだが、向こうは全く動く気配がない。
だから、こちらから行く事にしたのだ。
肩を狙い剣を振り抜く。
・・・すると、軽々と飛んだではないか。
思わず嬉しくなり、試合中なのも忘れて、話しかけてしまった。
「本当にすごいな!その身のこなしを是非、僕にも教えて欲しいよ。
・・・では、今から本気で行かせてもらう」
手加減なしで戦える相手を見つけた。
これは、心が躍る。
相手は僕が打ち込む剣を全て躱している。
・・・剣だけじゃダメか。
では、蹴りを入れてみよう。
そして蹴りを入れた後、後退した相手の帽子に剣が掠ったのだった。
その後も打ち込み続けるが、周りが煩い。
審判からも「止め!」と聞こえてきた。
・・・なんだ?
辺りを見渡すと、みんな彼を見ていた。
僕も彼を再度見る。
すると、彼の破れた帽子から灰色の動物の耳が見えたんだ。
・・・これは、飾りか?
そんな事を思っていたら、帽子が落ちて、顔が露わになったのだ。
そこには、可愛らしい顔をした青年がいた。
だが、明らかに人とは違う瞳をしていたのだ。
光のせいで瞳孔が閉じ、銅色の獣らしい目をしている。
そして、円らな瞳でジッと僕を見たのだ。
その時・・・
【そいつ、化け物だろう!人を殺しに来たんじゃないか?】
【あの変な生き物は一体なんなの!?】
数多くの心無い言葉が観客席から響いたのだった。
綺麗な瞳が、段々と翳っていくのが分かる。
彼は、とても傷ついているのだろう・・・。
と、そう思ったら、体が勝手に動いた。
僕が着ていた上着を彼の頭に掛け、手を引き僕の控室へと連れて行く。
彼は無言のまま、僕に付いて来てくれた。
そして控室へ入り、彼に椅子へ座る様に勧めてから話しかけたのだ。
「顔を見せるのが嫌なら、上着をそのまま使ってくれて良い。
君は、僕の言葉が分かるかい?」
「・・・うん。
・・・ボクの事、怖くない?」
「うん?どうして?」
「みんな、ボクの事を化け物って言って、嫌がってた・・・」
怯えた様子で伝えて来る彼に、心が痛くなる。
だから僕は、殊更優しく話し掛けたんだ。
「・・・。
僕は、君の事を化け物だなんて思っていないよ。
ただ、初めて会ったから君の事を知りたいんだ。
色々と聞いてもいいかい?」
「うん。いいよ」
そう言って、上着を取り、僕の目を見つめてくれたのであった。
「ありがとう。では、聞くね。
君には灰色の耳があるけれど、人とは違う種族なのかな?」
「ボクはね、獣人って言うんだって」
「獣人・・・。
初めて聞くな。出身は何処なの?」
「分からない。育ったのは、ここから少し離れた山だよ」
一生懸命に教えてくれる。
種族が違くとも、ちゃんと対話が出来る事に安堵した。
「君は、ちゃんと言葉が理解できて喋れるよね。
それは、誰かが教えてくれたのだろうか?」
「じいちゃんが教えてくれたんだ。じいちゃんはね、人間なんだよ!
ボクが赤ちゃんの時に拾ってくれたんだ」
「そのお爺さんは、今、何処にいるんだい?」
「家で眠ってるよ。ずーっとずっと起きないんだ」
僕は嫌な予感がした。
だから、一言『そうか・・・』としか返せなかったのだ。
とその時。
【バンっ!】
「お兄様、入るわよ!彼は大丈夫?」
エルが扉を壊すんじゃないか、と言う勢いで、部屋へと入って来た。
「エル・・・。
ちゃんとノックしないとダメだろう?彼が驚く。
・・・会場はどうなっている?」
エルは僕達2人に目を向け、ノックをし忘れた事を恥じる様に口を開いた。
「・・・ごめんなさい。
それと、今は大分落ち着いたわ。
お父様とお母様が、みんなを説得してくれたのよ。
メルとアグネスは、パニックになって怪我した方を救護室へと案内しているの。
そして私は、お兄様の元へ行く様に言われたわ。
・・・私に何か出来る事はない?」
僕はエルに『そうか』と返事をしてから、彼に向き直り口を開いた。
「この子は僕の妹なんだ。先ほど聞いた君の事を話してもいいだろうか?」
それに彼は、何の躊躇いもなく了承してくれたのだ。
「エル、彼は獣人と言う種族なんだ。
この国では、聞いた事も、見た事もないから、きっと、遥か遠い国から来たのだろう。
彼自身も、物心が付く前に、この国へ来た様なので、詳しい事は分からないそうだ」
僕はエルに伝えたあと、彼に、どうしても確認したい事があったので、目を見つめて問いかけたのである。
「それと、君に一つ、聞きたい事がある。君は、人に危害を加える気はあるか?」
「ううん。ないよ。ボクは人が優しいのを知っているよ。
だから、傷つけたりしない」
身体能力の高い彼が、本気で暴れたら、国一つ無くなるのではないか、と言う懸念があったのだ。
それが払拭された事に、本当の意味で安堵した。
そして僕は、何故、剣術大会に参加したのかを聞いたのだ。
「お金を稼ごうと思って、山から下りて来たんだ。
村で剣術大会が開かれるのを知って、賞金が出るって聞いたから、ここに来たんだよ!
剣術はあまり詳しくないけど、体術なら出来るから、大会に参加して賞金をもらえれば、喜んでもらえるでしょう?
・・・でも、約束を破ったからダメにしちゃった」
彼は下を向きシュンとしている。良く見ると、耳も垂れていた。
僕は『約束とは何だい?』と問いかけたのだ。
「ボクの目と耳と尻尾は、みんなが驚くから隠さなきゃいけないんだって。
でも、ボクは何もしていないのに、何故みんなに嫌がられたり、怖がられたりするんだろう?
試合も中止になっちゃったし。
・・・さっき、みんなから言われた言葉がね、心から抜けないんだ」
彼は胸を抑えている。
とその時。
「私は嫌じゃないわ!むしろ、好きよ!」
突然、力強く言い出した妹にビックリして『エル?どうしたの?』と目を向けて問いかけたのだ。
「あ、ごめんなさい。
つい、熱くなってしまったわ。
・・・貴方はとても素敵よ!だから、諦めないでほしいの。
確かに、理解をしてくれない人もいると思う。
けれど、貴方を好きだと言ってくれる人がいる事を、どうか忘れないで」
「うん。ありがとう。嬉しい」
彼の瞳から翳りが消えて、笑顔を見せてくれたのだ。
やっぱり、エルはすごいなと思ったのだった。
そして、もう一つ、質問をしなくてはいけない。
「君は、これからどうしたい?」
「ボクはね、じいちゃんの所に帰ろうと思うんだ。
賞金はもらえなかったけど、いつまでも、じいちゃん一人じゃ寂しいでしょう?」
それを聞いたエルは安堵の表情で『お祖父様がいるのね。であれば安心だわ』と彼に告げた。
・・・けれど、そうではない。
嫌な予感がするんだ。
だから僕は『エル。少し待ってくれるかい?』と伝えたのだ。
「君、名前は?」
「アルマ・ニコネスだよ」
「そうか。僕はアディエル・クリーヴランドだ。アディと呼んでくれ。
では、アルマ。君が帰りたいのは分かったよ。
だが、お爺さんはずっと、目が覚めないんだろう?どれぐらい経つんだい?」
「ボクが山から降りる時には3日ぐらい眠っていたよ。
それから今日までで10日くらい経っているから・・・。
もしかしたら、じいちゃんが起きているかもしれない!
早く帰らないと」
っ・・・。
エルの息を呑む音が聞こえた。
そして気付いたのだろう。
・・・既に亡くなっている可能性がある事に。
アルマに、どう伝えればいい。
そう考え込む僕を余所にエルが口を開いたのだった。
「アルマ、一先ず私達の家に来ない?
お祖父様の所へ帰るにしても、準備をしないと帰れないわ」
「うん。ありがとう」
「良かったわ。お兄様、いいかしら?」
「ああ。そうだな。いつまでも此処にはいられないしね」
話が纏まった時にドアのノック音が響いた。
「クリーヴランド様、今、大丈夫でしょうか?」
剣術大会の主催者がやって来たのだ。
「ああ。今着替え中なので、申し訳ないが、そのままお願いできるかな?」
「はい。審議の結果。アルマ・ニコネスは人ならざる者と判断致しました。
よって、優勝者はアディエル・クリーヴランド様となります」
「そうか。では、辞退で頼むよ」
僕はドア越しでも分かる様に明るく告げた。
「は、え?辞退ですか?」
「ああ。僕は彼に勝てていないからね。だから、優勝ではない。
そう言う事で、よろしく頼むよ」
そう告げるが、なおも、しつこく食い下がって来る。
「いや、でも、それでは勝者無しとなってしまいます」
「それで、いいんじゃないかい?
実際そうだしね。
それと、僕もそろそろ帰りたいし、いいかな?」
そう言い、無理やり話を切り上げたのだ。
主催者は『はい。失礼致しました』と言い残して帰って行った。
そして、これからの事を考える。
馬車は二台で来ている。
父、母、アルマと僕で乗り、エルには友達を送って行ってもらおう。と算段をつけ、エルに伝えたのだ。
「エル、悪いが先にみんなの元へ行ってくれるかい?
僕らは裏口から出て待っているよ」
「分かったわ。すぐに向かう様にお父様達に伝えるわね」
そう言って、エルは会場へと戻って行ったのだった。




