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時は少し経ち、剣術大会の日となった。
兄は準備がある為、先に出ている。
私は途中でメルティアとアグネスを乗せてから、会場へと向かう事になっているのだ。
そうして会場へ着くと、人の多さに2人とも驚いている。
今回は女性が多いわね。
「やっぱり、すごい人ね。席は前の方だから、行ってみましょう」
私はそう伝え、はぐれない様に2人の手を取りずんずんと進んで行った。
出場者の関係者席は前の方に区画が作られているのだ。
歩いて行くと、席には既に両親が座っている。
1番前の特等席で試合が良く見えそうだ。
そして二人と両親は挨拶をし、席に着く。
アグネスは『すごい熱気ね!女性の方が多くいる様に見えるわ』と辺りを見回し、興奮気味に話して来た。
「前回は半々くらいだったけど、もしかしたら、お目当ての人が、いるのかもしれないわ」
私が、そうアグネスに話すと、『アディエル様の出番はいつなの?』とメルティアが問いかけて来たのである。
「お兄様は三試合目に出るわよ。応援よろしくね!」
競技場を見ると、2つ横並びに作られている。一試合で4人が戦う事になるのだ。
そうして、一試合、二試合と続き、三試合目に入る前の小休憩となった。
「すごい迫力だわ!気迫が伝わって来て、こちらも、手に汗握るわね」
アグネスは剣術が好きな様で、とても高揚している。
「模造剣と分かっていても、やっぱり少し怖いわよね。当たりそうになると、目をつむってしまうわ」
メルティアは余り得意ではないのだろう。
試合中は顔に手を当て、恐る恐る見ていたのだった。
私も兄の応援で何回も来ている。
だが、大人の大会は初めての為、その力強さに驚いたのだ。
因みに、出場するには、予選を突破した18歳以上の成人男性と決まっている。
小休憩が終わり、三試合目に入るアナウンスが流れて来た。
すると、兄が出て来たのだ。
と、その時。
【キャー!!アディエル様―!カッコいいー!!】
後ろから、大きな黄色い声援が飛んだ。
女性が多かったのは兄のせいか、と納得したのだった。
そして、メルティアを見ると、ビックリし過ぎて開いた口が塞がっていない。
私も、今更気付いたが、兄は途轍もない優良物件だろう。
公爵家嫡男・眉目秀麗・性格良しと来た。婚約者がいない事の方が不思議なのだ。
・・・メル、負けてはダメよ。
そう思いながら肩を叩く。
するとメルティアはハッとして私を見返した。
何を言いたいのか、伝わったのだろう。
メルティアは頷き、それから、兄の応援を始めたのだ。
審判が『三試合目を始めます。両者位置について下さい』そう言うと、周りが静かになり競技場へと目を向けた。
兄の相手は大柄で騎士の様だ。
そして、兄がこちらを見てニコリと笑ったのである。
と、その時。
始まった!
深呼吸をした兄は、構えもせず、全く動かない。
相手も、どうしていいのか分からない様だ。
時間が過ぎ、耐えきれなくなった相手が、兄に斬りかかって行く。
そして、兄は相手の剣を受け流し、胴部へと剣を叩き込んだのだ。
相手は余程痛いのか、呻き声をあげて膝をついている。
10秒以内に試合へ戻れない場合は失格となる。
審判が数えるが一向に立とうとしない。
そして、10秒後
「勝者、アディエル・クリーヴランド」
その瞬間、地響きがするんじゃないか?と思う程の黄色い歓声が沸いた。
兄はそんな歓声をものともせずに、こちらへ向かって笑顔で手を振ったのだ。
そして、後で聞いた話だが、私達の席に近い女性が(私に手を振ってくれたんだわ!)と勘違いをし、失神した者が何人も出たらしい。
その後、失神したご令嬢からの釣書が殺到する事になるのだが、それはもう少し先の話になる。
そうして、第一回戦目は終わったのだった。
勝者は8人。
ここから4人、2人と絞られて決勝となる。
二回戦目に入る前に休憩があるので、兄の元へみんなで行くことにしたのだ。
出場者には一人一部屋の控室が設けられている。
「アディ、お疲れ様。次も頑張りなさいね。油断は禁物よ。応援しているわ」
「アディなら余裕だろう?優勝を取ってこい!」
母と父が控室で座っていた兄に話しかけた。
「ありがとう。もちろん頑張るよ。
みんなも応援ありがとう。
どうだい?楽しめているかな?」
兄は椅子から立ち上がり、私達の方に目を向け、笑顔で問いかけて来たのだ。
「はい。とても白熱していて驚きました!剣術がすごい物だと改めて実感しております。優勝、頑張ってください」
「ありがとう、アグネス譲。楽しめているのならよかったよ!
まだ、優勝までは長いが、応援よろしくね」
アグネスは『もちろんです』と笑顔で兄に伝えたのだ。
そして、頬を染めたメルティアが、兄に話しかける。
「あの、アディエル様。とても格好良かったです。頑張ってください。応援しております」
「ありがとう。メルティア譲にそう言ってもらえるなんて、嬉しいよ。
格好良い所をもっと見せられる様に頑張るから、最後まで応援よろしくね!」
その言葉に、メルティアは更に頬を染めたのだった。
そして兄は、これを素で言っている。
・・・なんて罪作りな人なのでしょう。
他の女性にも同じ事をしているのではないか?と、心配になるフェアリエルであった。
「お兄様。もうそろそろ始まりますよね?
私達も最後まで応援しますので、思う存分に楽しんでください」
「ありがとう。楽しんでくるよ!」
そう言って笑顔で手を挙げたのだ。
兄が剣術を始めたきっかけは【男らしくなりたい】だったが、今は違う。
剣術がとても好きなのだ。
生き甲斐と言っても過言ではないだろう。
そうでなければ、雨の日も、風の日も、毎日続ける事はできない。
・・・だから、楽しんでもらいたい。
応援席に戻り、辺りを見回すと、人が減っていた。
・・・あれ?
後ろで、すごい声援を送っていた女性達がいないわね。
お化粧室なのかしら?
・・・もう、始まるのに。
すると・・・
「第二回戦目を始めます」
と、審判の声が響いたのだった。
お兄様の試合は最後だ。
競技場を見ていたら、後ろからゾロゾロと歩いて来る音がしたので、振り返ると女性達が戻って来る所だった。
間に合った様ね。
・・・けど、あれ?
さっきとは違う女性陣になっているわ・・・。
「一試合目を始めます。両者位置について下さい」
お兄様の出番ではないで、両競技場を行ったり来たりと見る事にした。
すると、気になる選手がいたのである。
・・・あの人、小さいわね。
成人男性には見えないわ。
それに、動きがとても機敏だし・・・。
お兄様よりも小さいから、170センチくらいかしら?
この国の成人男性の平均身長は180センチ以上だ。お兄様も180センチはあると思う。
因みに、父は190センチ超えだ。
帽子を被っていて顔が良く見えない。
・・・気になるわね。
アグネスも気になった様で話しかけて来たのだ。
「あの人すごく素早いのよ!相手の攻撃が全く当たらないわ」
そうなのだ。回避力がすごい。
でも、相手をダウンか降参、又は、場外にさせなければ、勝利は得られないのだが、どうするのだろうか。
結構、時間が掛りそうな試合ね・・・。
とそう思っていたら、拳で相手の顔を叩きのめしたのだ。
!?
え?・・・剣は、飾り?
しかも、あの体躯では考えられない程の威力だ。
相手はそのまま吹っ飛び場外となった。
「勝者、アルマ・ニコネス」
「エル?剣を使わなくても良いの?」
メルティアが驚いて聞いて来る。
「剣技に伴う体術は、ありなのよ。
なので、剣を持ってさえいれば大丈夫なの。
・・・けど、私も初めて見たわ」
体術より、剣術の方が攻撃範囲が広い為、皆剣を使う。
なかなかに面白い戦い方をするものだ。
と思うフェアリエルだった。
そして、立て続けに二試合目が始まる。
お兄様が来たわ。
後ろからは、またしても、すごい声援が沸き起こる。
メルティアも負けじと応援していた。
アグネスは隣の一試合目がまだ終わっていないので、そちらを見ていたのだった。
兄がこちらに向かって笑顔で手を振ってくれる。
楽しんでいるわね。
とその時。
【バタン!バタン!】
え!?なんの音?
後ろから、もの凄い音がしたので、振り返ろうとしたら、『始め!』と審判の声が聞こえた為、意識を試合に戻したのだ。
次の相手は、兄と同程度の体格だろうか。
短剣を持っている。
・・・短剣?
体術を使ってくるのかしら?
兄は構えもせずに、相手へと近寄って行く。
相手も、普通にやって来る兄にビビリ気味だ。
とその時、相手が懐から何かを投げた。
手裏剣の様な円盤型の飛び道具だ。
兄は全く動じず、円盤を剣で叩き落したのだ。
・・・しかも、笑顔で。
相手は、さぞかし怖かろう。
だが、相手も負けじと、兄の懐へと入り込む。
その動きは速い。
でも、兄の方が上手だった。
相手をかわし、剣を振り抜いたのだ。
それが、相手の腹に入った。
倒れてはいないものの、相手は審判にギブアップを伝え、試合終了となったのである。
多分。いや、絶対!
兄が怖かったのだろう。
笑顔の相手に、叩きのめされるのだ。
想像に難くない。
そうして無事、準決勝へと進む事となったのだった。




