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アグネスの家は王都から馬車で1日かかる。
出発日は途中の街で宿泊をして、その後、休憩を挟みながら馬車に揺られる事3時間。
辺りの景色が街から村へと変わり、緑の多い牧草地となってきたのだ。
標高が高く、王都よりも大分涼しく感じる。
馬車の中での会話も弾み、とても楽しい。
時間にしてお昼を過ぎた頃だろう。
「失礼します。そろそろ到着致しますので、ご準備をお願致します」
御者から声を掛けられ、もうそんなに経つのかと思った私達は、窓を開けて外を眺めたのだった。
メルティアが肺一杯に深呼吸をして口を開く。
「とても長閑なところね。空気が澄んでいて気分がいいわ」
私も窓から顔を出し辺りを見渡す。
「メル、見て!牛がいるわ」
「あら、本当ね。絵でしか見た事がなかったけれど、意外と大きいのね」
メルティアは牛を見た事がなかったのだろう。
目を丸くして驚いている。
そうして10分程馬車を走らせるとアグネスの家に到着したのだ。
「本日はお招き頂きありがとうございます。
私はフェアリエル・クリーヴランドと申します」
「私は、メルティア・マルティネスと申します。
3日間よろしくお願いいたします」
私達は出迎えてくれたムーア子爵家のご家族に挨拶をした。
それに、アグネスの父がにこやかに返してくれのだった。
「ようこそ。遠い中、お越しくださいました。
何もない所ではありますが、是非、ゆっくりとして行ってください」
アグネスのご両親に、快く迎えられてホッとする。
そして後ろを見ると、アグネスとアグネスにソックリな男の子がいた。
年は5歳くらいだろうか。
アグネスの裾を握り締めて、緊張している面持ちだ。
私は笑顔でアグネスに話しかけた。
「アグネス、一週間ぶりね。そちらは弟さん?」
「そうよ。リュカディと言うの。リュカ?ご挨拶は?」
アグネスはそう言って、リュカディの背を少し押し、私達に挨拶をする様に促したのだ。
リュカディは手をもじもじさせながら、唾をゴクンと飲み込んで口を開いた。
「はじめまして。
ぼくは、リュカディ・ムーアと、もうします。
よろしく、おねがいします」
ヤバい・・・。
可愛すぎて尊い。
私が可愛さに打ちのめされている間に、メルティアが先に挨拶をする。
「初めまして、私はメルティアと申します。
ご挨拶ありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願い致します」
私も、ハッとしてメルティアの後に挨拶をしたのだった。
そうして、リュカディは、ちゃんと挨拶出来た事をアグネスに褒められて嬉しそうにしていたのである。
そうだわ!手土産をお渡ししないと!
ギュウギュウに詰め込んだ箱と、メルティアの物を従僕に出してもらう。
それをご両親にお渡しした。
量の多さに、とても恐縮されたが『持って帰れないので是非』と言って受け取ってもらったのだ。
やっぱり手土産は、ありがたく受け取れる量がいいのだと確認できた。
次は普通の量でいい事を両親に伝えよう。
そして、その後は屋敷を案内してくれた。
アグネスの家は敷地がとても広く、赤い屋根のカントリーハウスだった。
なんと、先ほど見た牛はアグネスの家の牛だったのだ。
客室に案内され、メルティアは隣へと入って行った。
荷物を置き、少しゆっくりしていたら、『お茶の準備が整いました』とメイドに言われたのでメルティアと移動する。
扉を開けると、そこには雄大な高原が広がっていた。
(心が洗われる様だわ)
と考えて歩いて行くと、テラス席には既にアグネスが座っていたのだ。
「今日は来てくれてありがとう。遠かったでしょう?
疲れていない?」
「メルと一緒に話しながら来たから、あっという間だったわ。
それにしても、本当に良い所ね。空気が美味しいわ」
「本当にね。
アグネス、誘ってくれてありがとう」
3人で会うのは学園の休み以来なので8日ぶりだ。
色々と話したい事がいっぱいで話題が尽きる事はない。
そして、話の途中でアグネスが今後の予定を切り出して来たのだった。
「そうだわ!話したいことがあり過ぎて伝えるのを忘れてしまっていたわね。
観光だけど、今日はもう昼過ぎだし、明日、色々と案内できればと思っているの」
そう言うアグネスの言葉に頷いたのだった。
それからは茶会も終わり、各自部屋でのんびりと過ごす。
そうして、夕食の時間になったので食事室へと向かったのだ。
扉を開けてもらい中へ入ると既にアグネスのご両親と、リュカディが席に着いていた。
挨拶をし、席に案内される。
ウェルカムドリンクの牛乳が置いてあったので飲んでみると、なんと、ヨーグルトジュースだったのだ。
この世界では初めてだったので驚いた。
「あの、この飲み物は何と言うのですか?」
私の驚いた顔に、初めて飲んだのだろう、と思ったアグネスの父が、分かり易く丁寧に答えてくれたのだ。
「これはね、牛乳にガボの実をすり潰して入れたものです。飲み慣れない物かもしれませんが、とても身体に良い物なのですよ」
それって、ガボの実に乳酸菌が付いているって事なのかしら?
「そのガボとは、どんな物なのですか?」
「この地方特有の物でして、白い小さな実になります。
そのまま食べると、とても酸っぱいので、牛乳に入れて飲むのが一般的なのですよ。お気に召しましたか?」
「はい。とても美味しいです。
ガボは他領には出していないのですか?」
私が聞くと、残念そうな顔で口を開いたのだった。
「ええ。ガボの実は収穫後、日持ちしないのです。
他の場所での移植を試みた事もあるのですが、根付かない為、どうする事も出来ないのが現状なのですよ」
私は教えてくれた事にお礼を言い、ガボの実牛乳を飲み切った。
・・・なるほど。
私が知らないだけで、こう言う品が他にもあるかもしれないわね。
と、考えていると、メルティアとアグネスがやって来たので晩餐が始まる。
ガボの実牛乳を飲んだメルティアも、最初は驚いていたが、美容に良いと聞いたら、何回も御代わりをしていた。
「飲み続けるとクセになる味ね」
3杯目に突入したメルティアがアグネスに話しかけている。
「そうでしょう?
搾りたての牛乳で作っているから美味しいと思うわ。
いっぱい飲んでね」
そうして楽しいひと時を過ごし、明日が早い為、早めの就寝となったのであった。




