第9話. 大切なのは雰囲気とムード
[AI非使用]
城に戻り、私は速攻で祝宴のための細かい準備を済ませる。
ヴェスパのことを知るまで…スターユと行動を共にするまでの私は、ある程度この日のために準備を進めてくれていたのが幸いだった。
(これでつまんないのはおわりっ、こっからが本番──)
…
レオニウス城、衣装部屋──
(アリシア、さすがにそろそろかな。俺、心配になってきた)
アリシアの指示通り、衣装部屋で待機するスターユ。
俺にとっては、普段着は鎧。
『着替え』と言ったらほとんど戦闘の防具やアクセサリーの調整に等しい意味だ。
祝宴の衣装や準備など、それほど真剣に考えてみたことはなかったが、どうもアリシアによれば、今回は本気のチョイスが必要らしい。
というのも、今回の同盟国との祝宴で、この城に隠れて悪さをする敵を引きずり出すのに必要だという。どうせ戦うなら鎧じゃ駄目なのかと言ったら、敵を特定してから存分に着替えろと怒られる始末。一応、自分の所有している装備は、全身一式一種類までなら魔法道具で瞬時に呼び出すことが出来るため、防御性能の低いお洒落装備にしていて敵に遭遇しても、その場で着替えることは可能だ。
だけど、わざわざリスクをとってまで、祝宴の見た目にこだわるその感覚が俺はいまいちまだよくわかっていなかった。
「おまたせっ」
アリシアの声。
(おお…)
目の前には、深い紺色に星屑を散りばめたようなドレス姿のアリシア。普段白を基調とした姿のイメージだけど、夜空をイメージさせるその姿は思わず見惚れてしまいそうだった。
「とてもお似合いです」
「ありがと…。じゃ、今度はスターユの番だからね」
「さてと…始めるわよ」
アリシアは魔法のカタログ(メンズ用)をバサっと広げ始めた。
「男はただ強いだけじゃダメ、見た目もしっかりしないとね。身なりは相手への気持ち、魔法の原理と一緒よ?…うーん、この服はちょっと攻めすぎね。こっちは、と…なんか違うか」
アリシアは悪戯っぽくニヤニヤしながら俺に様々な衣装を、重ねて見せる。
(魔法と一緒…)
「魔法なんて、自分にはあんまり関係ないって思ってるんでしょ?」
アリシアは服と交互に俺を見ながら言った。
この子、俺の心を読んでくる…。
「気をつけてね、これから戦う相手は、あなたが慣れていない、魔法や特殊能力を使ってくる相手。剣技の戦いとはちょっと違う。あなたがいくらこの国で剣が一番強くても、条件が整えばこっちを操ったりするヤツなの。私かあなた、どっちがやられてもアウト」
(剣技が、通用しない可能性がある相手…)
「だから、こちらも武装しなきゃ。私は基本あなたと一緒にいるつもりだけど、時には離れて行動したり、何かあった時のために、あなたは魔法を使う相手と戦えるようにならなくちゃいけない」
「そして、覚えておいて、スターユ」
「魔法の中でも、『相手に気持ちを伝える魔法』は、道具や血筋なんかなくたって、誰でも使えるの。もしも、あなたが剣技を封じられた時、それが敵に対抗できる唯一の手段になるわ」
(相手に気持ちを、伝える魔法…)
「それは、私たちにとって当たり前すぎて、いまは最早魔法とすら呼ばれなくなり、意識もされていない。だけどずーーっと昔から確かにあるれっきとした魔法の力よ?個人差はあるけどね」
「と言うことは俺もそれを使える…?」
スターユの問いかけにアリシアは微笑みながら頷く。
俺のことを期待しているかのような眼。
戦闘だけじゃなく、気持ちを伝える力を、使いこなせるようになって欲しいかというような…。
「そういうこと」
「魔法はね、もともと、みんながそれぞれ持っている願いの力」
「だから、あなたが心でどう感じているか、どう思うかで、その願い通りになる力がいくらかは働くものなの。良かれ悪しかれね…」
「例えば、もう一度あの人に一度会ってみたいとか思ってたら本当に会えたり、一方で苦手な人にはもう会いたくないとか」
「──そして、言葉に出すことで、それはさらに強い効果を発揮する」
「魔導士や魔法を使う相手は、ソイツが攻撃を出力するための得意な感情がなにか一つ必ずあるから、とりあえずヤバくなったらそれに対する弱点になるような言葉をぶつけるのが大事ね。だけど、思っていないことは、魔法として出力はできない。てきとーに言葉に出したって、それは機能しない」
魔法に関する大事なことを、アリシアから初めて聞いたはずなのに、なんだかずっと前から知っているような、不思議な感じがした。
(って、あれ…さっきレオニウス先生のとこで本当のことを言葉に出して殴られたんだけど!?)
「あなた、さっきふざけたこと言ってたでしょ?」
「ええっ!?」
(読まれてる…!)
そろそろ怖い、この人。
アリシアは、笑いながら俺のネクタイを整え始める。
距離が近くてなんだかこそばゆい。
「くすくす、冗談よ、あなたは純粋な気持ちを言ってくれたんだよね」
俺はこくりと頷いた。
「スターユ君、今からいうこと、だいじだから覚えておいてね」
「心の底から出力した魔法でも、上手く機能しないことがあるの。魔法のとても大切な要素、それは雰囲気とムードよ」
「心で出力する魔法の足場になる、その場の雰囲気みたいなもの、それを『マナ』っていうの。
──例えば、周りのみんなが怒ってるような場では楽しさを動力源とする魔法は半減するし、逆にみんなが楽しんでるような場では、ネガティブな感情で動かす魔法はうまく機能しない」
俺はそれを聞いてハッとした。
あの時、フランはふざけて半分からかっていた。言わば“戯れ“のマナが支配していた空間。そこに、俺は…アリシアへの大事な想いを投げこんでしまった。
「その、つまり、俺はあの時、空気を読めてなかったってこと…ですか?」
「さぁ、どうかしらね?空気を読んで従うか、抗うかはあなたの選択次第、かな」
アリシアはにんまりと笑ってみせる。
「幸い、この城は私のホームグラウンドだから、”揺るがない意思“のマナが今のところ優勢。ここでは私の能力は発揮しやすいの。でも、少しずつ邪魔されていってる。敵にとって都合のいいマナに塗り替えようとしてる途中ってとこでしょうね」
少しずつ城内に増えている敵に加担する者たち。
それは城の機能を奪うだけでなく、アリシアに有利だった環境を不利なものへと塗り替えつつある。
「…じゃあ、俺が、その揺るがない気持ちを意識して言葉にしたり、相手の得意な"何かの感情"を見抜いて邪魔することでも、アリシア様の手助けができるという事、ですか?」
「ご名答♪そうそう、これからの戦いはそーゆーのが大事なの。スターユがそれやってくれたら、相手は弱体化して、私の出力はきっとぐんと跳ね上がるわね」
魔法に関する談義をしながら、二人は何度も試着を繰り返していた。
話に集中していて気づかなかったが、いつのまにか、二人の後方には侍女が集まって目を輝かせながらチラチラとこちらを覗き、ひそひそと話をしている。何事かとその人だかりはどんどん大きくなってゆくが、お構いなしだ。何しろこの行動にも人類の命運がかかっている。
「よし、コレね…!」
アリシアは、祝宴の衣装など興味のなかった俺を完璧に仕上げてくれていた。
後ろから侍女たちの拍手が沸き起こる。
城内には、同盟国の要人たちが次々と入城してきていた。
もうじき、俺が今まで体験してこなかったような相手との戦いが始まる…。




