第85話. はかり知る月長石の占星
フィルナスはレイオットを睨みながらも再び戦闘を継続する構えを見せる。再び先ほどの魔法が炸裂すればレイオットも無傷では済まない。対するレイオットは、余裕の表情を崩しかけながらも、活路を見出そうとしていた──
(私を吹き飛ばす……脅しのつもりか? そうは言っても"銀の焔"はそもそもあなた自身の力じゃないでしょうに……まったく人間どもは力を手にするといちいち強がる……!)
(許されるなら今すぐにでも殺してやりたいが、それでは後で我が身も危ない……やり辛い事この上ありません。確実に生き残りつつ、こいつの意思を制し黙らせる何か効果的な方法は……)
レイオットは自身に楯突くフィルナスに苛立ちを覚えつつ、この場で起こっている状況と目的。そして自身の有する能力を踏まえ、ふと妙案を得る。
(……ふむ、待てよ……? 『繫がり』……ですか)
(子供らはともかく、この眼鏡の男は、我々が皆"一様な存在"だと雑に捉えている。それはおよそ真実と異なります。おそらくその点は"隙"になりうる。そしてこの男に付きまといし関係性の晶星……これを読めば──)
"晶星"──それはレイオットの能力によって可視化が可能となる、関係性を記しつなぐ意思の結晶であり、彼にしか視ることはできない。
フィルナス自身を取り巻き回る凶兆なる紅き晶星──それもひとつではない。
そこから彼は、フィルナスにつきまとう"関係性"の中に、とある脆さを見出した。
(……なるほど、読めました。どうやらこの眼鏡の魔導士、対人関係に"決定的な弱点"を抱えているようですね——)
再びレイオットは口を開く。その表情はいつのまにか落ち着きを取り戻し、挑戦的な眼差しでフィルナスを見つめた。
「別に、私自身はお連れ様を解放してあげても構わないのですよ」
「なに?」
「そもそもこの件において、私は部下の暴走(……と上司の暴挙)に巻き込まれている身なのです。正直言って解放されたいのがホンネ──そしてどうやら私とあなた方は、確かにまったくの無縁というわけでもない。無闇に傷つけることは私にもリスクが伴うのです」
「……なら今すぐ──!」
(こいつ何が言いたい? 悪魔の様な魔物の言う事を信用するわけにはいかない!)
「まぁまぁ、そう焦らないでください。これはあなた様への忠告のつもりですが──私にはあなたの運命に衛星のようにまとわりつく"不吉なる星"が視えます」
(星……こいつの能力か……。原動力がポジティブなものでなければ、瘴気の元でも能力は使える……!)
レイオットが持つ能力。それはミツリの暴露を介してフィルナスにも事前にある程度の形で知らされてはいた。
優れた魔導士はその言葉や一挙手一投足のしぐさから相手の心を読む。しかし今現在彼が読み取っているものは、また異なる類のものである。
更に、アルテア城の大広間──天井や柱、壁に瞬く星々のように散りばめられた意思を内包する宝石、装飾の数々は、マナとして星にまつわるその能力を後押ししていた。
フィルナスは自身に纏わる情報を読み取られていることに気づき、警戒を強める。それは通常の魔法を超える能力、王家の血筋による能力であり、油断は許されなかった。
「フフ……視えました。どうやら、彼女を解放したとて、あなたは同じ過ちを繰り返す。そしてお連れ様を延々と危険な目に遭わせるようですね」
「……何をいって──!?」
フィルナスは目を見開く。それは誤魔化しようもなく、不気味な運命の予兆として、フィルナスの内に刻まれた。
「あなたにまつわる運命をそのまま読み上げたまでです。どうやらあなたは、自身とお連れ様に纏わる人間同士の厄介ごとには十分向き合ってこなかったご様子」
「そういう不吉な星が幾つも纏わりついているのにも関わらず、自由と他責を言い訳にして、これまでその相手から見てみぬふりをして過ごしてきた……その結果として現在の状況があるのです」
「解放したとしてその後、ご自身の力で、彼女を護りきる自信がありますか? 我々どころか、人間からすらも身近な者を守ることが出来ていないようですが」
「……これ以上喋るな……!」
「先生……!」
フィルナスは魔物の口にする内容が、出鱈目どころか自身を取り巻いてきた関係性の脆弱な部分が読まれていること、状況を打破できず、その者をいいように喋らせてしまった事に如何ともし難い屈辱を覚えていた。
(悔しいが、虫の魔物ごときにボクの関係性が読まれてしまっている……! そして、自分自身の力ではフィオリナを護りきる自信がないことも看破されている……これがこいつの能力──!)
"はかり知る月長石の占星"──
それはレイオットが持つ能力。相手をとりまく関係性、そして対象の運命とそれを脅かすリスクを結晶の星として“視る“ことができ、占星術のようにはかり知ることができる。
それは避け難い運命や驚異的となるリスクであるものほど、より正確なものとなる。
「お前、フィルナス先生の何を知ってるんだよ! 先生に向かって知った風なこというのやめろ!」
「まってレイン君……! 私もひどいと思うけど、冷静にならなきゃ」
突如レインが割って入り、レイオットに向かい声を上げ立ち向かおうとするが、リリアに制止される。
「これは失礼しました。別に私は心を傷つける事も目的としてはいません」
「ただ、覚えていてください。今彼女が安全でいられるのは、私のおかげ……! 私がいなければ血気盛んな部下は制御できず、お連れ様はどうなっても不思議ではない。……それでも私を吹き飛ばしますか?」
レイオットは自身ありげに問いかけると、フィルナスがそれに答える。
「何が制御できないだ……たった今ボクらを襲わせたくせに、都合のいいことを……! ボクを取り巻く不幸も元を辿れば全部お前らが元凶だ……!」
「おやおや、それではお連れ様はどうなっても構いませんね?」
「く……!」
フィルナスはレイオットを睨みながらも返す言葉を失っていた。フィオリナを傷つける選択肢は取ることができない。それは彼の読み通りであった。
(これでこの眼鏡の魔導士は私に手を出せない……! このまま上の階に誘い込み試しつつ……使えなさそうなら捕獲し食わせる……! 利用させてもらいます。最終的に私が助かるために……!)
AI非使用




