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ヒトの骨格を持つ蠅の魔物に滅ぼされゆく世界を救う物語/アストリア戦記  作者: シューゲツ
第1章. The Resolve of Freedom’s Amethyst/自由なる紫水晶の決意
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第71話. 僕の存在を今度こそお父様に認めさせる!

「~♪」


“さらさらさらっ“


「よーし、あとすこしっ」


“かりかり……しゅっ──“


 ……


「できたっ」


 そこは、豪邸というほどでもなく、質素というわけでもない。ありふれた二階家。


 その上階には、アイボリーと桃色に彩られる華やかなインテリアにより飾られる一室を備えている。


 陽の光がベランダに咲く赤や黄色の花々を照らし、若草色の観葉植物が部屋の一角でその大きな葉いっぱいに元気よく太陽を受けていた。陽の当たる部屋の角には大きな“眼鏡のくま“と“うさぎ“のぬいぐるみが見守っている。


 そんな一室で"彼女"は羽ペンを手にデスクに向かい、今しがたその作業にひと区切りをつけるところであった。

 マーガレット柄のドレスワンピース。波打つ長き黒髪、その顔だちは端正で生き生きとしている。


“フィオリナ=バーゼルスタイン“


 アルテア王国に大規模な私設軍をもつ大領主ベッカード=バーゼルスタインの娘である彼女──


 フィルナスとは学部は異なるものの、同じ師ウィルナードのもとにつき、一人は駆け出しの風の魔導士として、一人は芸術を志す者として、それぞれ異なるアプローチのもと、日々を過ごし学んだ。


 大学を卒業した後、その研究で培った知識を生かし、フィオリナは日々執筆の日々に明け暮れていた。

 

 そこで培った空の果ての知識——独創的かつ高度な専門性を有する作品には必ず“星々”と“お姫様”が登場し、根強い人気を博していた。


 ──が、


“ひそひそ……“


(娘さん、いらっしゃるかな)


 ”ヒソヒソ……”


(いるだろう、作家は基本こもりっきりの筈だ)

(そうですか?色んなところで書く人もいるって聞きますよ?)


 ──異物の接近──


 彼女、"フィオリナ"のもとには、今まさにその私設軍"バーゼルスタイン・コンクエスト"の者たちが、そのクエストを果たすため訪れようとしていた。住宅街に不釣り合いな強面かつ筋肉質、かたや髭面の男どもが揃い踏みしている。


「で……どういく?」

「おい!!お前考えてたんじゃなかったのかよ!」


 玄関前で声をひそめ、なにやら言葉を交わす男たち──


(……)


(……まるで賊だな)

 更に、それを遠目で眺める長身の男の陰がひとつ。


「いや〜圧かけていこうと思ったら土壇場で無理やり感を感じちゃって。まずいっすよね」

「あたりめーだろ!どうすんだよ。ここ一番大事なとこじゃねーか」

「いい方法ないっすかね」


「どけ、俗物ども」

「なっ!?」


 男集団を腕で押しのけ、割って入る若き男が一人。


 集団の中で頭ひとつ抜けた身の丈、洗練された長身のその身体は、騎士の如き純白のサーコートに身を包み、周りの男どもとは明らかに雰囲気(マナ)が異なる。ピンクゴールドの艶やかに波打つ髪、その顔は名画に描かれし貴公子の様に美しく、蒼き瞳にはつよき意思が込められている。


「な、なんだコイツ!?」

「舐めてんのかこのガキ!」

 押しのけられた髭面の男は、その者を見上げ、刺青の入った拳を握り、目を見開きながら怒りを露わにする。対し、それを見下げる冷ややかな目。


 ”ガッ“


「お゛ぉっ……!?」

 その瞬間、男の足が地から離れた。

 その重量は海賊風の重厚な装備一式も含めると、決して軽くはない。


 それを胸ぐらを掴み腕一本で持ち上げている。

 男をぶら下げながら射殺す様な眼光で真っ直ぐ睨みつけ、ずいと顔を近づけると、刻み込む様にこう言った。


「“お姉様”に酒の匂いが移る。消え失せろ」

(お姉様!?)


「な……お前なんなんだよ!人間の力じゃねえ!離せ!」


 細身にあるまじき異様な力。取り囲む男のひとりがそれに気づき、さっと離れる。


「こ、こいつは……”カリストー“だ!」


「なんだって!?」


「離れろ!そいつはやべえ奴だ!殺されるぞ」


「そいつは、ヒトの子じゃないんだ!!!」


「なっ!?まさか!?ひっ!うあああ!!!殺される!!」


“ドサッ”


 カリストーと呼ばれた男は片腕で軽く放り投げると、髭面は勢いよく尻餅をつく。畏怖した周りの男たちは血相を変え、慌ててその場から離れた。


(全くもって失礼な。僕がヒトにそっくりな上級ヴェスパか何かだとでも思ったのか……仮にもしそうだとしても、その気は起こらないが)


(互いを理解し合うアストリア……そこから未だ遠い輩どもはまだ多くいる。わからせてやる必要はあるが、殺しても何にもならない……あいつらなど)


“カリストー=バーゼルスタイン”


 そう、彼は名乗っている。


 ──ただし、その家の名は与えられたものではない。


 その生まれから、ヒトとして家に招くわけにはいかず、公に受け入れられることはなかった。


 その母は──ベッカードがまだ、素晴らしき冒険者として名を馳せていた時代に出会った、人ならざるもの。


 “ニンフ”と呼ばれし、美しく澄んだ湖畔に現れるとされる、極めて稀少な存在。ヒトの女性の姿をした、精霊に近しい類であった。


 彼──カリストーは、フィオリナといわゆる“異母姉弟”にあたる。


(僕はきっと、今日この時のために生きてきた)


 姉が住む家、その扉の前、カリストーは心に誓う。


(“あのお方”は、アルテアの危機たるいまこの時を“お姉様”と共に過ごしたがっている……。そのとても強い願いを、僕は叶えることが出来る)


(そうすればきっと──)


(僕の存在を……今度こそ認めさせることが出来る筈だ……紛れもない“息子”として!あのお方──“お父様”に!!)


 カリストーは軽く拳を握り込む。その掌、張り巡らされる血管には、願いを現実に出力する力、“魔法”を使うための血が流れている。


(身体に流れる魔導士の血、受け継がれた力こそがその証……)


(“完璧なる意思”を動力源とする魔導士として、気持ちを伝える!絶対に失敗は許されない!!)


 カリストーはドアベルを鳴らすと、間も無くぱたぱたと階段を降りる音が扉の向こうから聞こえて来た。


 そして、変哲のない住居の扉が、がちゃりと開く。


「……あなたは……!」


 フィオリナは目を丸くする。その眼前には太陽を背にしたカリストーが微笑み、そして深々と頭を下げた。


「お久しぶりです、お姉様」

AI非使用

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