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ヒトの骨格を持つ蠅の魔物に滅ぼされゆく世界を救う物語/アストリア戦記  作者: シューゲツ
第1章. The Resolve of Freedom’s Amethyst/自由なる紫水晶の決意
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第70話.私をお義父さんと呼ぶ権利

 ——バーゼルスタイン邸前 カーモ湖——


 カシカシャッ——


 グイ~~~


 グビッグビッ!


「ふい~~~~」

「おお~~惜しげもなくいきますね~ガンザンさん。どうです?100年もののコニャックの味は?」


 立派に聳える邸宅の前、自然豊かな水辺を進む私設軍、"バーゼルスタインコンクエスト"に名を連ねる冒険者の面々。その数は十数名にのぼる精鋭揃いだ。


 彼らはスキットルいっぱいにいれた豪華なブランデーを明るいうちから惜しげもなく次々と呑んでいる。その和気あいあいとした空気(マナ)——豪華絢爛たる装備に身を包みながら、遠くの戦場で行われていることなど、どこ吹く風といった様子であった。


「うん!すっげ~~~濃厚!どろっどろだぜ!お前の人生みてぇだ!」

「エエ?やめてくださいよ!そりゃあないっしょ!」


「そうだな!この酒は甘えけど、お前は昨日までの3日間で12回フラれてっからな!お前ほど辛くねーわ!」

「なんじゃそりゃ、そーなのかよ、レイスン!?どわははははは!!!」


「ほら、次お前の飲ませろよ!」

「ちょっ、自分の呑んでくださいよ!あっ、こら!」

「別にいいだろ~?」


「なんせ、戦場に行くのやめてこっちに来りゃあ俺達熟成ブランデー飲み放題だってんだから!」


 酒を奪い合い呑み合い。混沌としたその様子には、ベッカードのもとにつくことで戦場へ赴くことから逃れた安堵の感情もあった。だが、ここに居る者の誰もがそういった理由でここにいるわけではなく、戦士でありながら日中から酒を浴びているその様をだらしなく思う者も当然その中には居る。


「……まったく、あんたたち今から酒なんか呑んで……これから任務だっていうのに魔物に出くわしたらどうするつもりなのよ。ヤツらはアルコールの匂いにつられるんだから、やめて頂戴」

「そんときゃ~あんたにまかせた!リーレットの姉御!」


 緊張感の欠片も失われた男たちに白けた目で呟くのは”リーレット”と呼ばれし、白き弓を携えた赤毛の髪を束ねた女性。


 ——そんな彼女の忠告を受けてか、男の一人は、酔い顔を赤らめながらも、ふと神妙な顔つきになる。彼はレイスンと呼ばれた、小柄で短剣を携えた者だ。


「……あの~~」


「……僕達、戦に行かなくてもよかったんですかねェ?なんだか心配になってきちゃって」


 しばし置かれる"間"、空気がほんの少しばかり変わった。


「あァ?レイスン今更何言ってんだオマエ。そういう優柔不断なとこだぞ」


「だよな、お前もここに来てんじゃねえか!堂々としろ!!」

「そうそう、軍の兵士ならともかく、冒険者である俺達が害虫駆除に命をかける必要ねえよ。あいつらとやってたら幾ら命があっても足りねえ。後ろからやられてお陀仏だ」


「そりゃ~そうですけどォ……だからって、こんなわざわざ日中から自暴自棄の成れの果てみたいな感じにならなくても。やっぱり、諦めるべきなのかなァ?」

「アァ~しつけ~なぁもう。3日で12回フられたオトコが今更『諦めるべきなのかなァ?』なんて言ってんじゃねーーーよ」

「そうだそうだ!ギャハハハハ!!」


 俯くレイスンに対し、リーレットが語りかける。


「……諦める必要はないわ。戦場にいなくても、私たちはここで役割を果たして戦えばいい。銀の焔のお陰でこれまで保ってきたんだから……」


 冒険者各々がその腰に携える、それは銀の焔が揺らめくランタン——それは”白百合のランタン”と呼ばれる特殊なランタンだ。焔を武具に灯すには思い入れのある器としての武具が必要という条件はあるが、いざというときには戦闘にも応用が可能であった。ランタンと焔、この1セットがなければ、通常はヴェスパに遭遇した際、戦闘にすらならない。いわば必須アイテムである。


「ま、焔サマサマだよな。ウン、それは否定しねえよ。でもよ……知ってるか?」


 先程"ガンザン"と呼ばれていた、規格外の大型戦斧を背負う大男が酒をグイと呑み込む。


「あの化け物——ヴェスパにはでけえハエみてーなバケモンばかりじゃなく、人間によく似たやつがいるんだ。男のやつもいるし、女のやつもいる」


「女もいるのか……」


「ああ、なんでも女のヤツは皆スゲエ美人だって話だ」


「ちょっとガンザン!ふざけてないで——」


「ククク……ま、そいつらはとにかく異様に強い。人間に似てるせいか、ヒトに効果がない銀の焔じゃ倒しきれねーんだ」


「な・・・・・・!」


 歴戦の勇士たる冒険者である彼らはヴェスパと遭遇し、焔をつかい何体も倒してきてはいる。しかし、それはあくまで下級の個体にとどまっていた。


「当然、普通の攻撃じゃ手も足も出ねえ、焔も十分効かねえ」


「じゃあ・・・」


「どのみち負けるんだよ。俺達はな」


 ガンザンは諦観の言葉を述べながら、どこか吹っ切れたように笑っていた。しかし、その様子は先程から彼らが酒を口にふくみながらとっていた態度とさして変わりはしない。

 むしろ、立ち向かったところで勝ち目がないというその情報は、戦場から退いた彼らの決意をより強固なものとさせてしまっていた。


 そして男たちの意思は固まり、声を揃える。


「どうせこの国、そしてアストリアが滅びるんなら……」

「やっぱり——」


「イイ女の人と、結婚したい!!」」

「ったく・・・」


 "その情報"はあらかじめリークされており、バーゼルスタイン貯蔵の熟成酒だけではなく、それが目当てでここに残り集った者も少なくはない。

 一方で、全く別な理由で残ったリーレットは彼らについていけず、頭を抱えていた。


「おい!始まったぞ!!」


 一人が告げると、男たち一同は通信端末を取り出し始める。


 そこに表示されたのは、彼らの雇い主——大領主 ベッカード=バーゼルスタインの姿だ。大机に肘をつき、口元で両掌を組みながら、厳格な声色で語り始めた。その頭には大きな王冠を乗せている。


「コンクエストの皆のもの、ご機嫌よう」


「わざわざ私のもとへ残ってくれたことに感謝するぞ。害虫駆除は軍の者が果たしてくれることだろう」


「さて、みんな緊急特別クエストの内容は確認してくれただろうか。冒険者諸君は、あらかじめ通信端末に通達しておいた詳細を確認してほしい」


 その内容はみな承知しており、指定された配置の場所へと向かう途中であった。


(クエストの内容——領主様の娘さんを、お屋敷までお連れし護衛する!)


「ではでは、おっほん。今回の特別報酬を発表するぞ!それは、任務後に私が直々に指名し、授けるものだ。どうやら知っていた者もおるようだがな」


 ニヤリとしてみせるベッカード。まもなく公式にそれが確定する。通信端末を眺める男たちに、緊張が奔る——


(ゴクリ……)


「そ・れ・は——」


「“私をお義父さんと呼ぶ権利”だ!!今回の働きに応じて私ご指名の冒険者にそいつをくれてやる!」


(!!!)


「うおおおおおおおお!!!!」

「お、"お義父さん"ってよべるって事は!!」

「そういうことだ・・・よな?」


 嘘か真か、それは噂どまりであったが、その発表に勇士どもはざわつく。

 そんな中、ポツリとレイスンが呟いた。


「ん、娘さん、お相手がいたような──」

「あ?別れたんじゃね?」

「じゃなきゃこんなこと言わねーだろ。チャンスってことだ!」


「オレ緊張してきた!!お・・・おとう・・・さ」


「おっと、くれぐれも今呼ぶなよ!!許さんぞそれは!!!」

(ひっ、こっちから声は届いていないはずなのに)


「では健闘を祈るぞ。では後ほど会おう!せーの──、ベッカー!!!!」


「「「ベッカー!!!」」」


(相変わらずなんなの、この人たち・・・)



 ——



 ——バーゼルスタイン邸——



 冒険者を景気付けた大領主ベッカードはすこぶるご機嫌、その目的が果たされることは最早目前のように感じていた。


(いいぞ!みな乗り気になってくれておる!ま、勿論任務が終わっても誰も呼びつけはせんがな。どこぞの馬の骨ともわからんやつに結婚なぞさせるか!!フィオリナさえ傍にいればよいのだ!!)


 そして、ベッカードはバーゼルスタイン邸最上階の居室——大窓に向かい大声で叫ぶ。


「みてろよフィルナス!!もうすぐだ!せいぜいひとりで寂しくくたばれ!!!」


 その異様な声を聞きつけ、パタパタと足音が居室の外から鳴り響く。

 そしてまもなく入室するのは、高貴な衣装に身を包みし、ボリュームのあるポンパドールの髪をした女性——"イザベラ=バーゼルスタイン"夫人だ。迷惑そうな顔に眉をひそめている。


「あんた、さっきから何大声だしてるの!?こんな時にまた配信!?」


 突如居室に現れた夫人、ベッカードは慌てて頭に乗せた王冠を腹に抱え込むと、きょとんとした表情で目を点にする。

 そして、先ほどの叫びが嘘の用に思えるような、小さな声で言葉を返した。


「え、あ……うむ気晴らしにちょっとな」

「今は大きい声出さないで頂戴!魔物の気が立っているでしょうから……刺激しちゃ駄目よ」


「す、すまん」

 そう言いながらも、ベッカードはモニターの前に映し出される情報に何やら釘付けのようであった。


(さあ、たのんだぞ、我が軍の冒険者たちよ!)



 ──



(これは……)

「嘘だろ・・・・・・・?」


 湖畔を進み、森へと入る木立の中——冒険者達は揃えて目を疑った。


 領主の娘を迎えに行くのに、領主自身が強く嫌悪する風の転送魔法が使用不可だということは予てから聞いていた。


 問題は、その状態でどうやって迎えに行くのか——


「これで迎えに行くのかよ!!」


 それは"馬車"


 領主や貴族にとってその移動方法は古くからある伝統的なものだ。


 その馬は——鉄で出来ていた。


 四本の脚で歩く鋼鉄の馬が引く馬車。


 それがベッカードが指定したフィオリナを迎え、連れるための方法であった。

[AI非使用]

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