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第11話. ブラックオニキスの王女

[AI非使用]

シルベニア城 裏門前──


「もう、ヒトが直接モンスターと戦うのは時代遅れです!!」

「おおーー!」

三国の歓声が沸き起こる。

そこには、重厚な装甲に全身を包まれた、2本の脚を持つ低重心の兵器があり、歩いたり両腕を動かし火炎放射を放っている。上部にはユースタシアの兵士が騎乗し操縦しているようだ。


「ほ〜らみて〜〜?4重の特殊装甲に、規格外レベルの火炎魔法具を複数搭載した圧倒的な火力…!すごいっしょ!?次世代の戦車!こいつらで虫の大群なんか殺虫してやればいいよ〜!アリシアちゃんが望むだけ何体でもご提供するよっ!」

(うーん…確かにすごいけど)

自慢げに話すのはユースタシアの王女、リュクスだ。

丸い眼鏡に青い髪。作業着を思わせるような出立ちで、たくさんの小道具を携帯している。祝宴にも関わらず、彼女は道具や兵器をいじるための服装で来ていた。

アリシアは、警護としてわざわざ持ってきた、虫に対抗できる兵器をぜひ直々に見ていって欲しいというリュクスの強烈な押しの強さで、半ば強制的に連れられてきた。


スターユから目を離すわけにはいかなかったが、今の状況では他国との協力や絆を維持することも不可欠。シルベニア内の便利な魔法道具はユースタシアの輸出にほぼ完全に近いレベルで依存している。でも、今の私は、ある程度見て満足してもらって、1秒でも早くスターユのとこに戻りたい気持ちでいっぱいだった。


「確かにすごいわ」

「でしょ〜〜!?」

「でも、言っていいのかな…」


(リュクスちゃん、気持ちは嬉しいけど、コレは多分役に立たないどころか、存在がやばい…早く撤去して欲しい!)


「さっき映像で見たと思うけど、もの凄く速いのよ、あの虫。機動力で圧倒的に負けてるかも…。敵の巣の洞窟なんかには大きすぎて入れなさそうだし…しかもあれ操縦する人、丸見えじゃない?武器や道具を奪う知能をもつ敵にあれ奪われたら…」

(しまった、結束を維持しなきゃいけないのに思わず言いたい放題言ってしまった)


「あ……」

リュクスの脳内に、虫の魔物が次世代の戦車に乗り込み町や村を蹂躙する、破滅的な絵面のイメージが共有される。ユースタシアはシルベニアの近隣国家。手段を誤ると最悪の状態で自国が次の標的になる。当事者の目線とのギャップに気づき、リュクスは唖然とする。


「……」

リュクスは無言でメモを取り始め、周りのエンジニアに耳打ちし始める。


「貴重なご意見、ありがとうございま〜〜〜っす!!」

リュクスとエンジニアは深々と頭を下げる。

「ご、ごめんねリュクスちゃん…、皆さん。好き勝手言っちゃって。感謝するわ、本当に」

「ううん、困ったときは、助け合いだからね!絶対に最高の戦車に仕上げてみせる!」


(戦車からは、離れないのね…)


まずい、思ったよりかなり時間を食ってしまった…。


大広間──


アリシアは大広間を見渡す。

閉会の挨拶は最新兵器の御披露で取って代わり、祝宴は終わり。多くの人はまだ色々な意味で危険な兵器を見に出払っていて、ここには誰も残っていない。


(スターユがいない…!どこへ…!?)


「何か、お忘れ物かしら?」

背後から声、私は振り向く…。


「ふふ、もしかして、彼を探してたり、する?」

ノクティア…。こちらに近づきながら微笑みかけてくる。


「……スターユが、どこにいるか…知りませんか」


私が訊ねると、ノクティアは、それに対しにやぁっと不気味な笑みを浮かべた。


(…)


まずい。


「あなた、大丈夫?随分顔色が悪いようだけど」


「これ、一緒に飲みましょう。ウチからのお土産で持ってきたやつなの」

ノクティアは飲み物の注がれたワイングラスを手渡してきた。


「スターユ君、しきりにあなたのこと話してたわよ」


「アリシア"様"…だって、純情で、素直で、可愛いわねぇ」

彼女はワイングラスを揺らしながら言う。

反射する私の表情は引き攣っていた。

胸の奥が、氷の塊をくっつけられたように冷たい。


「まだ、手も繋いだことないんでしょ?」


(…私は、どこにいるか訊いたんだ)


「初々しくって微笑ましいわねぇ。お子様の恋愛ごっこみたいで」


こいつ……敵だ。


ノクティア、昔から知ってる。顔も、声も、スタイルも同じ。そっくりその人そのもの。でも、ノクティアじゃない。誰よりも相手の気持ちを思い遣ってくれるあの人は、こんな態度は絶対に取らない。どうも、操られているというよりも、こいつ自身から意思の力を感じる。どうしてこんな事になっているかはわからないけど、本人ではない。


そして、私は…下手な挑発には乗らない。受け止めて、動じないことで“揺るぎない意思”を蓄積する、そういう能力。


でも、今はスターユの安否がわからない。

心が揺らぐと、私の出力はガタガタに落ちてしまう。


「それ、飲まないの?」


「…」


「ごめんなさい、意地悪しすぎたかしら。でも、あなたの能力なら、大丈夫よねぇ?」


この飲み物は十中八九普通じゃない。いつも通りの私なら猛毒だろうと眠りや麻痺の薬だろうと何も問題はないが、今、出力が落ちた私では…。


「それとも、自信がないの?自分自身に」


弱点を突かれている…。

王家の血筋の能力は、宝石に一つとして同じ色と形が無いように、血筋を受け継いだ一人一人が違う能力と動力源だ。その詳細は対策されると著しく不利になるため基本的に対外には機密だけど、私の能力と条件、そして弱点はこいつには内部に潜り込まれたことで、割れている。


スターユ…私を守ってもらうためのはずの存在が、敵に私を殺す弱点として利用されている。

もし彼が操られていたら、私だけではもう勝ち目がない。


「自分を信じることができないあなたに、彼を支えることが出来るのかしら」


自信満々の笑みを浮かべ、そいつは告げる。

動じるべきじゃないのに、この時、私の意思は限界を迎え心の叫びが反響した。


その瞬間。

「痛っ………」

アリシアはワイングラスを落としてしまい、ガラスが砕け散る音とともに、心窩に鋭く突き刺さる痛みが奔る──


(なに……これ……?)

みぞおちのあたりに、小さな黒く輝く楔のようなものが突き刺さっている。


「じゃあね、私は、待ち合わせがあるから」

呼び止めようとしたが、声が出ない。


彼女は背を向けて離れてゆく、追いかけないと。


(何がなんでもアイツはぶっ倒して、これ以上スターユに近づくのを止めさせる!)


その瞬間──

「くっ……ぁ……!!」

更なる強烈な痛みが胸から突き抜ける。

「ふふ…」

ノクティアを自称する者は振り向き、アリシアに向かい愉悦の表情を浮かべ、一瞥した後その場を後にする。


(立てない…!)


気づくと、みぞおちに刺さる楔がさっきより二回りほど大きくなっており、より深く突き刺さっていた。


私には状態異常や中途半端な魔法は基本効かないけど、コレは違う。

私の“揺るぎなき金剛石の意(ダイヤモンドサニティ)思”の加護すらも貫通するほどの力…これはきっと、私と同じ、王家の血筋の能力だ。本人のはずがないのに…。


おそらく、牢獄にいた賊はこれで3人とも自害させられた。これが完成して、操られると私は負けが確定することになる…。


わざわざトドメを刺さないのは、離れていても多分こいつは私を仕留めるために機能するからだろう、追いかけたいけどまずは今のうちに体制を立て直さないと…。


(もう…苦しい…。うまくいくといいけど…。スターユが無事だって、大丈夫だって強く信じてあげなきゃ)


そうだ…まだ確定したわけじゃない。ここでは、私の回復は早いはず。

一度喰らってしまったけど、後からでも中和できれば…。


不屈なる金剛石の浄化(ダイヤモンド・リペル)!“

揺るぎない意志の力で、植え付けられたり設置された魔法の力を中和し、弾き飛ばすことで浄化する。ギルドの帳簿の改竄を暴いた時に使った能力だ。ただし、帳簿のようなちゃちな魔法なら簡単に弾き飛ばせるけど、王家の血筋の能力のレベルともなると、動力源の相性次第では中和はできない。


…これは賭けだ。


私に突き刺さった黒く輝く楔は少しずつ小さくなり、はじけて消滅した。


よかった、私の能力でこれは取り除ける…。


アリシアは息を落ち着かせ、出力を取り戻すべく深呼吸する。

敵の能力が、なんとなくわかった…。


アイツに対して、否定するとか、拒絶するとか、そういう心が動力源になっている。だから、わざとふざけたことを抜かしてくるし、私の揺るぎない意志の感情と偶然反発し合って中和できた。


私自身も“揺らがないこと”にはある程度自信があるつもりだったけど、気持ちが許容量を超えるとこいつは発動する…。きっと、リハルも、私たちの味方でありたいからこそ、アイツの誘いを拒絶・否定することでこの能力を喰らってしまった。


でも、私の能力でも取り除けるなら、アイツを倒せば、きっとこれで操られているであろう城のみんなを助けてあげられる。


スターユに突き刺さっていたとしても、きっと助けられる…!


そう思うと、希望が湧いてきた。


急がないと…。

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