第98話. 琥珀色の悪魔と呼ばないで
「な、なんだ……!? ドレスを着た魔物があんなトコに……」
「落ちてくるぞ!!」
「──! 俺の方に向けて突っ込んでくる!?」
リリアの銀焔が炸裂し急速に高度を落とすレナレナ。
空中で制御を失ったその身はレインを真っ直ぐ目掛けて落下する。
(どうする!? 先生が見せたあの回避ワザを真似て……! ──って、間に合わねえっ)
"エアリアル・ドリッパー!“
激突するその直前、レインの頭上で渦巻き形作られる“風のろうと“──渦は落下するレナレナの身を飲み込むと、その軌道をレインの顔面から床へと逸らし、吐き出した。
“ドゴッッ!!“
(っぶねー! アタマから地面に直撃した……! フィルナス先生のおかげで助かったけど、風の魔法なら受け止めることもできたんじゃ……リリアもリリアで、容赦ないよな)
(──それとも俺が魔物に甘いのか?)
ヒトでなくてもタダでは済みそうもない鈍く強烈な衝撃音。
冒険者たちは身を引く一方、レインは恐る恐るその姿を確認する。
うつ伏せでうずくまる、どこかの国の王女が纏うような琥珀色の煌びやかなドレス姿。その背には飛行能力に優れた大きな翅、そしてくるりと曲線を描き巻いた触角。明らかにヒトのモノではない。
「……起き上がるぞ……気をつけろ!」
間も無くしてその身はむくりと起こされる。
「んも〜〜いった〜〜い!」
その動作、声色は“軽い”。
高所から勢いのついた落下にも関わらず、その身にはさほどダメージは伺えない。
ヒトではあり得ない様子を見せる一方で、張り詰めていた周囲のマナはむしろ急激に弛緩していた。
(女の子……の魔物? 人間そっくりだけど、この子はヴェスパだ……。ミツキやミツリとは違って大きな翅が生えている……)
「ひょっとして、ミツキの知り合いだったりする?」
「ぜーんぜん」
レインの問いかけに対し、ミツキは肩をすくめる。
「な〜〜にすんのよ!!! あっづいじゃない!!」
「わっ、生きてる!」
口に手を当て驚くリリアに対し、怒りを乗せ吼えるレナレナ。その背丈はリリアよりも若干高いくらいで、揃えられていた前髪とサイドの髪は衝撃により少しばかり乱れている。
あまりにも人に近い外見──絵面は子供同士が喧嘩しているようでもあり、そこに新たに武器が振るわれる事はなかった。
「生きとるわ!! なにすんじゃこのガキ〜〜〜〜! 周りの兵もぼけっと突っ立ってんじゃね〜〜よ! レナレナを助けろバカ! 無能!」
叫ぶレナレナ──しかし周囲の兵士、”ハギング・バンシー“達からの反応は無い。その理由は彼女自身も推測し、ある程度までの的中もしていたが、黙って見下ろすその態度はいっそう彼女を刺激し、怒りをぶつけずにはいられなかった。
(──命令したってムダかな。このコたちはみんなわたしの制御下にあるし(能力が効いてるのはリーダーだけ、でも統率のとれた部下ならまとめて動かせる!)。それにいきなり現れて強引に居座ってるような“よそ者“に指図されたって、このコらが手を貸すはずがないと思うケド)
「ね〜レインくん、やっちゃってもいいかな? さっきこいつからすっごく邪悪な意思を感じたんだけど、アブない奴だよ!」
「危険なのはアンタだっつ〜の! ……ン?……そいつ“レイン“っていうんだ。……へ〜」
「!!」
リリアの口から発せられたその名前。
レナレナの視線、そして周囲の眼はレインへと一斉に向けられる──
(……!? 急になんなの……? こっち見んな……!)
レナレナの表情は尚もご機嫌斜めではある。
──が、向けられる琥珀色の瞳はこの世のものとは思えない異様な輝きを秘めていた。
(えっと、コレ俺がなんか言えばいいのか? よく分かんないけど、コイツと戦闘で戦うのは絶対にまずい。ミツキの例もあるし、一方的にワルモノにするのもよくないよな──)
「えっと……レナレナっていうの? リリアがいきなり攻撃してゴメンな。あいつすぐ突っかかっていくからさ」
「レーイーンーくん!!」
「……!」
レインに声をかけられ硬直するレナレナ。リリアが叫ぶも、その声は最早彼女には届かない。
(……っかか、会話……! なんて言って返したら……!)
「あ、あ、あのあのっ……」
(〜〜! うまく喋れないっ……! せめて周りの奴らがどっかいってくれたら……)
「あ……えと」
「“レナレナ”だと……? !!……まさか……コイツ……!」
突如、冒険者の一人が何かを思い出したかのように目を見開くと、血相を変え上擦った声を上げ始める。
何かを言おうとしたレナレナのか細い声は儚くもかき消された──
「聞いたことがある……! その名は“星々を照らす国 ナイトピア“を滅ぼした琥珀色の悪魔の名だ……! とんでもないバケモノだぞソイツは……! なんでこんなところにいるんだ!!」
「ナイトピアを……? あの国からの音信はめっきり途絶えているが……」
「そんな情報どこで仕入れたんだよ?」
「うぅっ……!」
(ああもうサイアク……! こんなハズじゃなかったのに……!)
遠く離れた地、元いた国が滅び、公な音信が途絶えたとて、その悪名は完全に途絶えたわけではなかった。
彼女はレインから目を逸らし、気まずそうにぎゅっと目を瞑る。
その直後だった──
フロアの奥──響く羽音、それは何重にも重なり共鳴し、凄まじい速度で接近してくる。
「……敵!!?」
間も無くして姿を現すその羽音の主──
コガネ色と漆黒から織りなす警戒色の外骨格を有するヒト型の虫の魔物。それぞれが武装し、ギラリと光る大剣や槍をその手に所持している。並びくる群れの数、十五はゆうに超えていた──
「蜂……!? いや……あれは虻!見たことのないタイプだ! 恐ろしく速えっ……!」
武器を構える冒険者たち。対面には一糸乱れぬ隊列を成し迫る魔物、その群れは突如3体ずつに分散し容赦なく襲いかかる……!
(レナレナ様……! このDr.U、貴方様の願いのため、役目を果たしてみせますゾ……!)
AI不使用




