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スラムの転生孤児は謙虚堅実に成り上がる〜チートなしの努力だけで掴んだ、人生逆転劇〜  作者: 鳥助
第一章 スラムの孤児

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36.身だしなみを整える

「さあ、着いたわよ。まずは、その裸足からどうにかしましょうか」


 ハリーに連れられて辿り着いたのは、小さな靴のマークが描かれた看板のかかった店。木の扉の前に立っただけで、革の香りがほのかに漂ってくる。きっと、ここが靴屋なのだろう。


 ハリーは扉を迷いなく開け、そのまま店内へと入っていく。私も慌てて後を追った。


 中に入ると、壁一面の棚に所狭しと並べられた靴の数々が目に飛び込んできた。革靴、布靴、ブーツ、サンダル……見たことのないようなものばかりで、思わず見入ってしまう。


「いらっしゃい。何かお探しかい?」


 奥から姿を現したのは、腕まくりをした元気そうな女性店主だった。


「この子に合う靴を見繕ってほしいの。新しく働くことになったから、ちゃんとした靴を用意してあげたくて」


 ハリーがそう言うと、店主の女性は私に目をやった――その瞬間、彼女の表情が少し曇った。


「……スラムの子、かい?」


 刺すような視線に、思わず身体が強張る。


 だけど、ハリーはすぐに明るい声で割り込んできた。


「そうよ。でも、もう働き始めてるの。お給料もちゃんともらってるし、この子自身が支払うの。ね、ルア?」

「はい。これ……ちゃんと持ってきました」


 私はそっと、小さな革袋を取り出して見せた。中には、今まで働いて稼いだお金が入っている。


 その様子を見て、店主の表情がすっと和らいだ。


「あら、ごめんなさいね。つい先入観で……。物乞いかと思っちゃったわ。でも、ちゃんと働いてる子なら話は別。よし、ぴったりの靴を探してあげるわ」


 にこっと微笑むと、店主は手際よくメジャーを取り出し、私の足元にしゃがんだ。


「足の長さは……ふむ、なるほど。細めだけどしっかりしてる。じゃあ……これなんてどうかしら」


 そう言って、彼女は棚の奥へと歩き、何足かの靴を手にして戻ってきた。


「試しに履いてみて。サイズも大事だけど、履き心地もね。たくさん歩く仕事なら特に」


 差し出された靴をそっと手に取り、私は胸を高鳴らせながら足を通してみた。


 それは柔らかい革でできた茶色の靴。触ってみると、内側には薄い毛布のような布が張られていて、履いた瞬間にふわっと足全体を包み込む。


「……すごい。全然、痛くない……!」


 私は思わず声を漏らしていた。今まで裸足で生活をしていると石畳を踏むたびに痛みが走った。


 でも、この靴は違う。まるで自分の足に合わせて作られたみたいにぴったりで、軽くて、歩くのが楽しくなる。


 試しに一歩、二歩と歩いてみる。コツン、コツンと軽やかな音が床に響き、靴が嬉しそうに返事をしてくれている気がした。


「この靴はどうかしら?」

「はいっ! とても合ってます!」

「なら、この靴で決定ね」


 両手をぎゅっと握りしめてお辞儀をすると、胸の奥がふわっと温かくなった。靴ひとつでこんなに気持ちが軽くなるなんて、思ってもみなかった。


 この靴と一緒なら、新しい仕事だって頑張れる。きっと、ちゃんとやれる。私は胸を張って、顔を上げた。


 ◇


「次は服ね! 今日は可愛いの、たくさん選んじゃいましょ!」


 ハリーは目を輝かせながら店の中へと足を踏み入れた。そこには、鮮やかな色や柔らかな質感の服がずらりと並んでいて、まるでおとぎ話のような空間だった。


「いらっしゃいませ~。ごゆっくりどうぞ~」


 店の奥から穏やかな声が聞こえる。けれど、ハリーはすでに服選びに夢中だった。


「ふふっ、どんな服が似合うかしら。ルア、なにか希望はある?」

「えっと……動きやすい服がいいです。お仕事で着るので」

「了解! だったら、ワンピースにシャツを重ねるスタイルなんてどうかしら? 清楚で可愛いし、動きやすさもバッチリよ」


 ハリーはハンガーを一枚一枚めくりながら、あれこれと組み合わせを考えている。私はそんなハリーの様子にちょっと緊張しつつも、胸が高鳴っていた。


「見て! この深緑のワンピース、落ち着いた色だけど可愛らしさもあるの。紺色の髪に絶対映えるわよ。それと……この水色のワンピースも爽やかで素敵!」

「わあ、すごく綺麗な色……」

「でしょ? どっちもルアにぴったり! 髪の色を引き立ててくれるし、動きやすいデザインだし。ふふっ、選ぶの楽しくなってきたわね!」


 服選び前世以来だ。この世界で誰かと一緒に選ぶなんて初めてだし、ドキドキする。どんな服になるんだろう――そんな期待で、胸がいっぱいになっていた。


「やっぱり、深緑と水色がいいわね。どちらもあなたの髪に映えるし、落ち着いて見えるのに可愛らしい。じゃあ、それに合わせるシャツは……これなんてどうかしら?」


 ハリーが差し出したのは、淡いクリーム色のシンプルなシャツだった。


「清潔感があって、飲食店で働くにはぴったりだと思うの!」

「……すごく良い組み合わせですね。この服、ぜひ買いたいです」

 私の声は自然と弾んでいた。思っていたよりずっと可愛い服。鏡越しでも、少しだけ自分が変わって見えた気がした。

「気に入ってくれて嬉しいわ!」


 ハリーはぱっと笑顔を浮かべて、ワンピース二枚とシャツ、さらに靴下まで手際よく選び、腕に抱えた。


「じゃあ、これで決まり! 深緑と水色のワンピースにこのシャツを二つ。それに靴下も。うん、完璧ね!」


 こうして、素敵な服一式が決まった。こんなに立派で可愛い服を着るなんて――この世界に来てから、いや、人生で初めてかもしれない。


「せっかくだから、このお店で着替えさせてもらいましょ。新しい服でノットさんをびっくりさせましょうよ!」


 ハリーがいたずらっぽく笑う。


「えっ、い、いきなり着ていいんですか?」

「もちろんよ! せっかくの可愛い服、すぐに着なきゃもったいないもの。それに……ふふっ、ルアがこの服を着たら、きっとすっごい美少女になると思うの!」


 そんな風に言われるなんて、恥ずかしくて、でもちょっと嬉しくて……胸の奥がふわっと熱くなる。


「さあさあ、お会計しちゃいましょ。もう待ちきれないわ!」


 気づけば、私の胸も期待でいっぱいになっていた。こんな服を着た私って、どんなふうに見えるんだろう?


 鏡の前に立つ瞬間が、今からもうドキドキしていた――。

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― 新着の感想 ―
人を評価するのに、美醜があって「皮一枚」って言葉があるけれど、貧富の評価のときは「服」? 内面って、見ただけではわからないから、人格は服装で判断されるのものなのかもしれませんね。
スラムから抜け出した記念のおしゃれだね
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