表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スラムの転生孤児は謙虚堅実に成り上がる〜チートなしの努力だけで掴んだ、人生逆転劇〜  作者: 鳥助
第一章 スラムの孤児

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
30/149

30.過重労働(1)

「おはようございます! 今日もよろしくお願いします!」


 元気よく家に入る。いつもなら朝食の匂いや食器の音、にぎやかな声が響いているはずなのに、今日はやけに静かだ。――いや、まったく音がしないわけじゃない。カチャカチャと装備を整える金属音がしている。


 朝ごはんの時間なのに、どうして? 不思議に思いながら奥へ入っていくと、子どもたちが慌ただしく身支度をしている場面に出くわした。


 何かあったのかと声をかけようとしたとき、先にトレビのほうから声をかけられる。


「お、ルアか。おはよう。悪いけど、急いで準備してくれないか」

「えっ、何かあったんですか?」

「役所から連絡が来てね。今日の担当地区が急きょ増えたんだ。どうやら全体の煙突掃除の進みが悪くて、そのしわ寄せがうちに来たみたいでさ」

「じゃあ、今日の掃除、いつもより多くなるんですね……」


 担当地区が増える事なんてあるんだ。そう不思議に思いながら、私は自分の装備を整えていく。


 そして、装備が整い終えるとトレビの前に整列した。


「みんなにはもう伝えたけど、今日の担当地区が増えた。だから、一人あたり六つ、もしかすると七つの煙突を担当してもらうことになる」


 その言葉に、私を含めて子どもたちからどよめきが上がった。


 いつもは四つ、多くても五つ。それだけでもきついのに、今日はさらに一つ、いや二つも増えるなんて……。


「今日は厳しい作業になる。自分の体調にはしっかり気をつけて、早く、でも丁寧に仕事を終わらせること。いいかい、こういう時こそ周りに目を配りな。体調を崩す子が出てくるかもしれない」


 トレビの声が、いつもより硬い。


 無理もない。煙突の中で体調を崩したら、自力で出てくることは難しい。最悪の事態だってありえる――そう思うと、背筋に冷たいものが走った。


「自分の体を大事にしながら、仲間のこともちゃんと見てやるんだ。そして……体調が悪くなったら、迷わず休むこと。命の方が大事だ。けど、それでも……仕事はちゃんとやってもらう」


 最後の言葉に、子どもたちの表情が少し曇る。


 命が大切だと言った直後に、それでも仕事はしろという矛盾。どう受け止めればいいのか、戸惑う気持ちが空気に滲んでいた。


 でも、私は気づいた。トレビ自身も戸惑っている。


 本当はこんなこと、言いたくないのだ。だけど、管理する立場として、言わなければならない。厳しくあらねばならない――それがトレビの責任なのだ。


 無茶だ。けれど、誰もそれを責めることはできなかった。


「じゃあ、現場に急ぐよ。一分も無駄に出来ない」


 そのトレビの声で私たちは駆け足で家を飛び出していった。


 ◇


 担当地区に到着すると、私たちは手際よく家主に挨拶を済ませ、すぐに屋根へと登った。


 いつもなら、朝の空気を吸いながら一息つくのが日課になっている。けれど、今日はそんな余裕はない。


 屋根に上がると同時に煙突へと近づき、フックに縄をしっかりと結びつける。そして、布で口元を覆ってから、ためらわずに煙突の中へと身を滑らせた。


 狭く、煤だらけの煙突の中で、私は素早くブラシを手に取り、内壁を擦り始める。いつもより数が多い分、作業は急がなければならない。だけど、急ぎすぎて擦り残しがあれば意味がない。だから、素早く、でも丁寧に。思いのほか神経を使う作業だった。


 始めのうちは調子が良かったが、時間が経つにつれ、腕も背中も徐々に重くなってくる。汗が顔を伝い、布の内側が息苦しくなってきた。


 今日は六つ、もしかしたら七つの煙突を掃除しなければならない。午前中に三つ、午後に残りの三つか四つ――そんな配分で動かなければ、体がもたない。


 でも、手を抜けばすぐにバレる。煙突の中で体調を崩せば、自分だけでなく、救助に来た誰かの命も危うくなる。


 自分の体力を管理するだけじゃない。周りの子の様子にも目を配らなきゃいけない。今日みたいな無理を強いられる日は、必ずと言っていいほど体調を崩す子が出ると言っていた。


 だから、集中しながらも気を配る。油断も、見落としも、絶対に許されない。今日は疲れる一日になりそうだ。


 ◇


「ぷはぁっ!」


 煙突から顔を出した瞬間、私は布を外して大きく息を吸い込んだ。体中に溜まっていた酸素不足と疲労が、一気に押し寄せる。震える手で煙突の縁を掴み、なんとか体を引き上げる。


 屋根に着地したが、足元がぐらつき、思わず片膝をついた。視界がにじむ。


 ――これで三本目。すでに体力は限界に近い。


 けれど、あと三本か、もしかしたら四本。まだ終わりじゃない。考えれば考えるほど、胸の奥が重くなる。でも、やるしかないのだ。


 布に包まれたサンドイッチを取り出し、むせそうになりながら流し込む。昼休みを取る余裕なんてない。少しでも早く終わらせなければ――。


 梯子を下り、新しい家の軒先に向かおうとしたその時だった。


 ふと目に入った路地の隅で、誰かがぐったりと座り込んでいた。私は思わず駆け寄る。見覚えのある顔だった。同じ煙突掃除をしている子――年下の、まだ細い腕のあの子だ。


「大丈夫ですか!?」


 その子は、弱々しく私を見上げて答えた。


「ちょっと、体調が悪くて……。休めば、良くなると……思う……」


 額には汗。顔色も悪い。明らかに無理をしている。


「……そうですか。今は無理しないで、しっかり休んでください」

「ごめん……仕事、増やしちゃうかも……」


 その言葉に胸がぎゅっとなった。でも、私はすぐに首を横に振る。


「大丈夫ですよ。体が一番大事ですからね」


 笑顔を見せようとしたけど、口元が少しだけ引きつった。でもそれでも、その子はほっとしたように目を閉じた。


 ――私がやらなきゃ。今日だけは、無理してでも。


 そう決めて、私はまた屋根を見上げた。空はまだ明るい。太陽はまだ、私たちを見下ろしている。

お読みいただきありがとうございます!

面白い!続きが気になる!応援したい!と少しでも思われましたら

ブックマークと評価★★★★★をぜひよろしくお願いします!

読者さまのその反応が作者の糧になって、執筆&更新意欲に繋がります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載!

ド陰キャ聖女に百合キスは荷が重すぎる!~唇への祝福が最強だとバレてしまい、キラキラ王子様系姫騎士と包容力おばけな女傭兵に迫られています~

魔力1令嬢と欠陥王女は魔法が使いたい! ~誰も使えない古代魔法で人生逆転します~

旧作

転生難民少女は市民権を0から目指して働きます!

転生少女の底辺から始める幸せスローライフ~勇者と聖女を育てたら賢者になって魔法を覚えたけど、生活向上のため便利に利用します~

追放を計画的に利用して自由を掴んだ王女、叡智と領地改革で無双する

転生したら魔法が使えない無能と捨てられたけど、魔力が規格外に万能でした

スラムの転生孤児は謙虚堅実に成り上がる〜チートなしの努力だけで掴んだ、人生逆転劇〜

ゾンビがいる終末世界を生き抜いた最強少女には異世界はぬるすぎる

元社畜はウィンドウで楽しい転生ライフを満喫中! ~ゲームのシステムを再現した万能スキルで、異世界生活を楽々攻略します~

異世界喫茶で再出発ライフ

ゴミスキルだと捨てられた少女たち、実は最強の生活能力スキルだったので気楽なスローライフ冒険旅を満喫する

推し命の転生者、弱小ポンコツな推し神様のために万能な推し活パワーで騎士爵領を大領地にする

過保護なお姉ちゃん系王女を救うために何度も死に戻っていたら、全部バレていて曇らせてしまった

この世に一人だけの錬金術師~物作り好きのゲーマーが家族のためにアイテム革命起こします!~

コミュ障クラフターの私、引き継いだ能力が異世界では規格外すぎて無自覚に無双してしまう件~地味に暮らしたいだけなのに、なぜか注目されて怖いんですが~

スラムの孤児は慎ましく生きたい~大賢者の遺産を継いだけど、救世主にはなりません~
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ