第4話 ―死に損ない狂騒曲― ⑥
「言われてみれば、確かに。意識を取り戻してから一度も食事をしておりません。
にもかかわらず、空腹を覚えることもない……なるほど、この身体はそのような仕組になっているのですね」
ゴンベ氏は相変わらず無表情のまま、他人事のように言った。
――できるだけ速やかに解決せよ。
ミーシャにはそう忠告されたものの、具体的に何をどうすればよいのか、ナツメにはさっぱり見当がつかなかった。だから彼女は、ゴンベ氏本人に全てを伝えることにしたのだ。
もっとも、名探偵としての沽券にかかわるので「猫から聞いた」とは口が裂けても言えなかったが……
「魔道士組合や警察に相談する、というわけにはいかないのですよね?」
アイラスが入口の扉の陰から顔だけを覗かせる。万が一、ゴンベの【魔力吸収】が暴発した際には、全速力で逃げるように指示されていたからだ。
「そうだね、魔道士組合にゴンベさんのことがバレたら、確実に処分されると思う。なにせ、御禁制の死霊術を極めてしまった人なわけだからね。警察を頼ったところで、管轄外だということで魔道士組合に話が流れて、結果は同じ」
そう仏頂面で言うユースケは、部屋のすみっこでミーシャを撫でまわしている。
「……どうして最初に僕に教えてくれなかったんですか」
「……だって、忙しそうだったし。にゃーん」
「……僕ぁとんだ街角ピエロですよ。あとでナツメさんにさんざんからかわれる」「……元気出して。にゃーん」
「……にゃーん」
一人と一匹の密かなやり取りは、他の者には届かない。
それはさておき――
「どうします? ダメもとで魔道士組合に相談してみますか?」
思考回路が焦げ付いてきたナツメが、若干投げやりな提案をする。
しかし、ゴンベ氏はかぶりを振って、
「人間、いつか死ぬことは分かっています。それでも今日や明日には死にたくない。このような浅ましい姿に成り果てても、それは変わらないのです」
それから彼は、珍しくひとつ瞬きをすると、
「ナツメ所長。あなたは先ほど『魔道に関わる難問を悉く解決してきた』とおっしゃいましたね。ならば、お願いしたい。私がいったい何者で、どうすれば記憶を取り戻せるのか……それを調査していただきたい」
口調はところどころ曖昧ではあったが、そこには明確な「意思」が感じられた。
ナツメは(余計なことを言わなきゃよかった……)と思ったが後の祭り。
「あの、お代の方は大丈夫でしょうか?」と名探偵らしからぬ抵抗を試みるも、
「私は間違いなく、強力な死霊術師だったわけでしょう。そうであれば、お支払いする手段はいくらでも持っていたのではないでしょうか?」とゴンベ氏。
そうとまで言われてしまえば、グウの音もでないのであった。




