第4話 ―死に損ない狂騒曲― ㉒
「見事だよ、レディ――」
女の顔から、瞬きが絶えた。
「死霊術と解剖学に対する深い造詣、さらには、瞬時の判断力も抜群だ」
呼吸が止まり、ついには心臓の拍動すら消え失せる。
「寡聞にしてナツメ・カナワの名に覚えはないが、凡百の魔道士ではあるまい」
罪なきオリビアの身体を操る存在が、片手だけで優雅に一礼した。
「我こそはリオネル=ロス。
死霊を友とする外法の師にして、穢れを纏う左道の家、
なれど魔道の一学徒として、汝の技量に惜しみなき敬意を捧げよう」
時代がかった口上の裏に、ナツメは死霊術師の強烈な矜持を感じ取った。
「こいつは御丁寧にどうも。ま、名前くらいは憶えといてやるよ。
――もう二度と会うことはないだろうけどね」
ナツメのそっけない返事に、リオネルはわざとらしい瞬きを返して、
「それは残念だ。ならば永訣の手向けに忠告を――
私のような存在には、軽々しく触れぬことだ」
言うや否や、リオネルは【魔力吸収】を発動させる。
この魔道は、集塵機のように周囲から魔力を吸い集めるだけでなく、注射器の
ように接触した箇所から直に吸い上げることも可能である。
無論、後者の吸収速度は凄まじい。常人であれば一瞬で魔力を吸いつくされ、塵芥と化すだろう。
しかし、ナツメは常人ではない。
この世界の外から来た存在であり、その身には一片の魔力も宿していない。
ゆえに、リオネルがいくら必死に魔力を吸い上げようとも、ナツメはどこ吹く風。
わざとアクビなど披露して見せる。
この時、ナツメは油断していた。
彼女にとって、およそ魔道士なんてものは、
「ジャンケンでグーしか出せないネコ型ロボット」
せいぜいその程度の存在であった。
(負ける要素なんて、どこにもないでしょうが……)
だが、その慢心こそが――
ほんの数分後、魔道探偵を窮地へと追い込むことになる。




