第4話 ―死に損ない狂騒曲― ⑳
汗にまみれながらも、足を緩めることなく港内へ突入した魔道探偵!
その努力はひとまず報われたと言ってもいいだろう。なぜなら、北大陸への定期便が視界に入った直後、辺りに港鐘の音が鳴り響いたからである。
カンカンカンカンカン……
カンカンカンカンカン……
短い間隔で五連打されるその音は、船の出航が近いことを示していた。
ナツメはタラップへと一直線に走り寄ると、制止する係員を振り切り、そのまま甲板へと駆け上がる。
「ああ、もう! 結構な広さじゃないか! 客室にでも引き籠られたら、どうしようもないぞ!?」
ナツメが悔し気に声を上げれば、背負われたエリックは周囲を見回して――
「向こうです! 私の身体はあの先にある! なぜか、そんな気がするんです!」
「そうか……本来の魂と体が、引き合っているのかもしれないね」
エリックの勘働きに導かれるまま、行きついた先は甲板の端。サンデッキと呼ばれるスペースであった。
その名の通り、乗客が日光浴を楽しめるようベンチがいくつも設置されている。
日はすでに傾き、乗客の姿もまばらだったが――
「あそこだ! あれが私で、リオネルです! それに……オリビアだ。その横にいるのは妻のオリビアです!よかった、無事だったか……」
エリックが示した先には、一組の男女が寄り添うように腰かけていた。甲板灯の淡い光に照らされたその姿は、端から見れば仲睦まじい夫婦そのものだ。
だが、ナツメはすぐに気がついた。
男の方が、まったく呼吸をしていない。
エリックをその場に降ろし、独り、静かに歩み寄る探偵――
「すみません、お体の具合が悪そうですが、大丈夫ですか?」
そう声をかけた刹那、男が隠し持っていたナイフを抜き、鋭く突きかかってきた。
ナツメは勢いに逆らわず、円の動きで相手の腕をいなす。
瞬く間に、男は地に組み伏せられていた。
ナツメは、ポケットから細引き縄を取り出すと、手際よく男を縛り上げる。
その最中、彼の首に何かが掛かっていることに気が付いた。
どこかで見たロザリオとお揃いの品――
(そういや、「初めてデートをしたときに買った」なんて惚気ていたっけ)
ナツメは、無言で男の顔を見つめた。




