兄弟⑥
左手を失っても、多治見の凶暴さや猛攻撃は止まることがなかった。
片手剣で、あらゆる方面から攻めてくる。
それを高義は、シールドを展開したり、槍を交えることで防いでいる。
相手も同じ、パワーと防御の二つを使いこなすタイプ。
同タイプの戦いは、長期的になることは必須。
しかし、互いに薬で徐々に体が蝕まれていくため、長期戦になることは得策ではない。
それを体で感じている多治見は、何連撃も刻むが、全てシールドに阻まれる。
高義としては、どうせ滅ぶ身であるため、長期戦が続いても、「多治見討伐」という目的は遂行することができる。
だから、高義は、少しでも長く相手の体力が消耗し、最高で、相手が体力をなくし朽ちることを望んでいる。
「ぐっ…………!」
体が少しずつ削られていくのを感じる。力が内側へ内側へと隠れていき、外に出てこない。槍を持つ握力も失われてくる。
吐き気、目眩、耳鳴り……体がすでに悲鳴を上げていた。
それでも、高義は倒れることなく、立ち向かう。
はっきり言って捨て駒だ。当たって砕ける、それが高義の役目だ。
足元に転がる屍たち。かつて共に仕事した仲間たち。彼らが死んでまで倒そうとした相手。それに自分が死を恐れて逃げることなど許されないし、したくない。
度々、こちらからも攻撃するがシールドで防がれる。乱舞しては、青白い光が小さく分裂する。展開しては儚く散っていくシールドは、まるで雪のようであった。
しかし、それも長くは続かなかった。
吐き気が最高まで達したとき、口から赤黒いものが垂れてきた。
「…………嘘だろ?」
高義はつい俯いてその口を押さえる……。
そのとき、頭上から、多治見の剣が振り落とされた。
反射で、シールドを展開するが、それごと地面に勢いよく叩きつけられた。
(これで……終わりか……)
死を悟り、目をつむる。
多治見は、剣の先で、高義の心臓を目掛けて突く。
だが、それは光によって防がれた……。
その光は、不思議と剣で突き刺したところだけ、濃く光っていた……。
「なんだよ……。人混みの真ん中でなんかやってると思ったら、高義兄貴来てんじゃん。
おい、そこのキ○ガイ、俺の兄貴に何してんだ……?」
高義が目を開けると、そこには、いつもクールなのに心なしか顔を赤くした三男がいた。
高義の潤んだ瞳には、その姿が段々と霞んできた。
そこにいるということを実感したくて、高義は、呼ぶ。
「よう……直義」




