表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/111

作戦執行④

僕は局さんをお姫様抱っこしながら、後ろに振り向く。


そこには、綺麗に横たわったビルがあった。


しかし、撃ち抜かれた十階以外は目立った損傷がない。


というのも、ビルの上半身が落ちる寸前に僕と直義でシールドをいくつも展開し、落ちる衝撃を和らげたのだ。


そして、横たわったビルの上部分、立ち尽くしている下部分にそれぞれ六波羅探題軍が侵入し、反乱分子を現行犯逮捕している。


「あれ……?」


「気がつきましたか? 局さん?」


「高氏くん……ありがとう、助けてくれたんだ」


「感謝されるまでもないですよ。局さんのためなら、僕は火の中水の中ですよ」


とりあえず、局さんが無事で良かった。


目立った外傷も見られないし、体力もそこまで失われてなさそうだ。


「そういえば! セイナちゃんは!?」


局さんが慌てて言う。自分より小さい女の子の方を心配する優しさ、それは局さんらしいものだと思った。


「無事ですよ。局さんと一緒に救出しました」


「兄貴! 局さん、無事か?」


直義もこれまた慌てて僕たちのところに駆け寄ってくる。


こいつも、心配症なんだから。


「大丈夫だよ。そんな心配すんなよ。お前は自分の兄ちゃんが信用できないのか?」


直義は、呼吸を整えてから言う。


「そんなことないよ。俺の自慢の兄貴は、何でもできるって、俺は信じてるからな」


そうやって、正直に真正面から言われると照れてしまう。それに僕はそこまての男ではない。


僕は弱いのだ。強い力を手に入れるのは、弱い自分を隠すためのカモフラージュでしかない。そして、それはカモフラージュであるから、隠しているだけなのだから、僕が実際に強くなったわけではない。


僕は、セイナちゃんの言葉を思い出した。



「お兄ちゃんって、クマさんみたい」



たしかに的を得た例えだ。


クマは、人間に怯えているから、その強い力を行使する。


クマも強いように見えて、本当はとても弱い動物なのだ。


いきなり、僕の腕が震え始める。いや、局さんの震えが僕の腕に伝わってきているのだ。


局さんは、何に怯えているんだ……?


「セイナちゃんは今どこに!?」


「義貞のところですよ」


僕は義貞のほうを指差す。


同時に、僕ら三人とも義貞に視線が行く。


直義が呟く。


「え? 何だあれ?」


「どうしたの?」


「セイナちゃんの体の反応が赤くなっている……。こんなの有り得ない」


反応が赤くなっている? 義貞のメガネでは、粒子を動かすことが可能なヴァサラ遺伝子が赤く見えるのだ。


一部が、粒子を動かせなくなるとき、動かせるときと交互に切り替わることはあるが、体中の遺伝子が一気に使用可能になることなどまずない。


「義貞ッ! その娘から離れろ!」


直義が叫ぶ。


しかし、遅かった。



「……バイバイ」



セイナちゃんは、抱えていたクマさんの人形からナイフを取り出し、義貞の胸に突き刺した。



「なっ……」



義貞は、胸から流血を起こして、その場に倒れ込む。


義貞に抱えてられていたセイナちゃんは、投げ出された空中で体を上手く動かし、足から地面につく。



「義貞!」


僕は局さんを下ろしてから、義貞のもとに駆け寄る。


しかし、その前にセイナちゃんが立ちはだかる。


「セイナちゃん……君は一体なんなんだ?」


僕は問いただす。あの動き、ヴァサラ支配率の急激な上昇……絶対ただ者じゃない。


いや、普通の人間ではない。


「流石です。こんなやり方で、人質を救出するなんて……考えつかなかったですよ……」


少女のソプラノが……。


「『ボク』には」


少年のアルトに変化した。


いきなりの声の変わりように僕は驚愕する。


「さて、そろそろネタばらしとしますか」


そう言うと、彼女……いや、彼は、着ていたドレスを脱ぐ。


すると、中には、黒い戦闘スーツが着用されていた。



そして、外したカツラの中には、銀発の軽くパーマがかかった短髪が隠されていた。


「それでは自己紹介でもしましょうか。


ちゃんとした自己紹介はしていませんからね。



ボクの名は、楠木正成(くすのき まさしげ)



あなたのファンであり、あなたの敵です」


礼儀正しく、頭を下げて放った。


少年が可愛らしい笑顔で吐いた言葉。


それはまさしく宣戦布告であった。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ