壁の向こう③
「高氏くんは、私を必要としているのかな?」
局ちゃんは、疑問を吐露した。
あたしは、あまりの鈍感さに、驚愕した。
明らかに、局ちゃんと出会ってから、高氏は明るくなったし、あたしとの学校で会話するときには、必ず「局さん」という言葉が入ってくる。
そんな局ちゃんを、高氏が必要としていないわけがない。
「必要としてるに決まってるじゃん。今の高氏は、局ちゃんといて、本当に明るくなったよ」
「でも……」
あたしと並行して歩く局ちゃんは、苦い顔をしている。
「でも?」
「高氏くんは、加賀ちゃんを必要としていると思う」
その言葉を聞いて、あたしは声が出なかった。
「なんだろう……高氏くんは誰よりも加賀ちゃんのことを信用しているんだよ。きっと私よりも」
「なんでそう思うの?」
「高氏くんは、よく昔話をするの。
良くも悪くも隠し事ができない人だから、前回の事件のときのことも教えてくれた。
その両方に、加賀ちゃんは、現れるの。
そして、その話の中の加賀ちゃんは、ヒーローみたいに高氏くんが困ったときに現れて、お母さんみたいに高氏くんを優しく包み込んでくれるの。
それが根拠かな? 」
あたしは、上がった口角を元に戻す。
そう話した局ちゃんは、あたしたちを日光から守ってくれている、木の葉に目をやった。
その目は、どこか寂しそうで、疑問の答えを、木の葉の中から探そうとしているようにも見えた。
高氏……たしかにあいつとは付き合いが長い。あたしも付き合いの短い恋人よりも付き合いの長い親友のほうを信用してしまうだろう……。
しかし、人というのは、恋人から最も信用されたいと思うもので、それを分かっていても、解消したいと思ってしまうのだ。
「それは、あいつの過大評価だよ。
あたしは大したことしてない」
「でも……それは加賀ちゃんが気づいていないだけで……」
「だったら、局ちゃんも、高氏のやつがどれだけ局ちゃんのことを大事にしているのか気づいてないと思うよ。
あたしみたいに、大したことしてないと思っていても、局ちゃんは、あいつにとっては重要なことをしてあげてるんだよ」
局ちゃんの顔が少し明るくなった。
それを見てあたしは安心する。
あたしが、高氏といるときは、局ちゃんと会うときのために、局ちゃんといるときは、高氏と会うときのために、彼らを笑顔にさておくのが、あたしの心掛けである。
やっぱり、二人が笑顔で出会うのが一番だから。
局ちゃんの顔を見る。
「ありがとう。加賀ちゃんの言う通りかもしれない」
彼女は感謝の意を笑顔で述べた。
同性ながら、本当に美しい笑顔だと思う。
高氏みたいな、芸術肌には、そりゃたまらないだろう。
「私も加賀ちゃんによく助けてもらっちゃうなー。何か恩返ししなきゃ……」
「気にしないでいいよ。こんなの恩に入らないよ……」
そう、これは恩なんかじゃない……。
これはさっき緩んだ口元の罪滅ぼしなのだから……。




