壁の向こう④
「あれなーに?」
人波に飲まれながら、 僕と手を握っているセイナちゃんは、僕に疑問を投げかけてきた。
その人差し指が指す先には、天高くそびえ立つ壁であった。京あるどの建物よりも高く、京を囲い込んでいた。
まるで僕たちを外に逃さないようにも見えるが、この壁の役割はその逆である。
この壁が建った理由として、この京の地形にある。ここら辺は、鎌倉と違い、平地で、敵からの攻撃の妨げとなるものがないのだ。
この国の王がいるこの土地を守るために、この壁が建設されたらしい。
しかし、そうすると、京の長所である人や物の流れが止まってしまうと思ってしまう。
だが、その心配は無用だった。
その壁の下の部分には、何ヶ所か門があり、そこにいる門番の検査を通過したら、中に入ることができる。
また、壁の上の部分には、穴がいくつかあり、そこから、高速道路や線路が通じている。
だから、人や物の流れは止まることがなかったのだ。
さらには、京という箱庭には、多くの最先端のものが海外から入ってきて、すくすくと他よりもはるかにレベルの高い文化を育成され、それが外部に漏れないため、それを求めて壁ができる前よりも多くの人が流れ込んでくる結果となったのだ。
それを小学生くらいの少女にどう説明すればいいのやら……。
義貞の顔を見るが、明らかに、あの壁の役割を知らない顔だ。
良くも悪くも義貞は、細かいことを気にしないのだ。
とりあえず僕は、「あれは王様を守るための壁だよ」と伝えた。
「誰から?」
「王様を倒そうとする人達からだよ」
「じゃあ、あの壁の向こうには、王様の敵が立ち構えているの?」
「いや、そうじゃないと思うけど……」
「じゃあ、あの壁の向こうには誰がいるの?」
「誰が……」
それは分からない。
僕は今まで、リニアモーターカーしか京に来る手段として使ってこなかった。
リニアの窓から見下ろすと、壁の向こうは、森林が生い茂っており、人が住んでいる様子はなく、人が住んでいないと教えられた。
だから、壁のすぐ向こうがどうなっているのかを分かる術がなかったのだ。
「ごめん、分からない……」
「大丈夫だよ、教えてくれてありがとう」
少女は、可愛らしい声でそう言った。
たまにしか見せないその笑顔が、彼女の可愛さを強調させる。
「さてと、じゃあ、次どこ行こうか、よしさ……」
と、義貞がいたほうを見ると義貞の姿がなかった。
きっと、この人波にさらわれてしまったのだろう。
「お兄ちゃんッ……」
その声が聞こえた途端、僕の右手から握られた手の感触が消えた。
「セイナちゃん!」
僕が見たときには、もう少女の姿は消えていた。
「おーい! 高氏ー!」
野太い声のほうを見ると、そこに義貞がいた。
人の流れに逆らいながら、僕のところへやってくる。
「あれ? あのお嬢ちゃんはどうした?」
「はぐれちゃったんだ! 探さなきゃ!」
「マジかッ!? 仕方ねぇなぁ、探しに行くか!!!」
義貞は半袖を肩までめくり上げ、まるでその服がノースリーブのようになる。
彼女をお母さんのところに届けるまでが僕たちの義務だ。
早く見つけないと!




