義貞③
信武はそのまま抵抗せずに地面に叩きつけられる。
びくともせずにそのまま横たわった。
義貞が画面を見ると、義貞のゲージは30.4%、信武のゲージは29.5%と書いてあった。
つまり……。
「ウィィィナァァァァァァァァ!!! 新田義貞ッッ!!!!!」
そのナレーターの叫び声と共に、観衆の巨大な歓声が会場を包み込む。
「よくやった!」、「おめでとう!」などの義貞に対しての賞賛の言葉もあれば、「バカヤロー!」、「何負けてんだ!」などの信武に対する非難の言葉も飛び交った。
いつもの義貞ならその歓声と張り合うように叫び出しただろう。
しかし、今回は違った。
義貞は、下を向き、唇を噛み締めながら選手控え室に向かった。
「勝った」という喜びというよりむしろ「なんとか勝てた」という安堵感、「あと少しで負けそうだった」という悔しさが義貞から溢れ出ていたからだ。
義貞が前を向くと、入場口から、担架を持った四人の男たちが現れ、すぐに信武のところに向かった。
あのヘルメットをしていても、義貞の全力の剣をまともに受ければ、相当なダメージを喰らったはずである。
「大丈夫だ! 気絶しているだけだ!」
背中から聞こえてくる声に、義貞は口元を緩ませながら、振り返ることなくふらふらながらも前に進む。
そして、入場口に辿りついた瞬間。
義貞は膝から崩れ落ちた……。
▷▷▷▷
ん? ここはどこだ?
義貞が目を覚ますとそこは全く見たことがない部屋だった。
壁、机、ベッド……あらゆるものが白で統一されて、それからは必要以上の清潔さが表れていた。
ここまで徹底的だと逆にあざとさも伺わせるが、しかし、安心や安堵、安全が保証されていることが義貞はすぐに感じた。
「てか、なんでここにお前がいるんだよ?」
義貞は、さっきから回転式の椅子にあぐらをかいている少女に言った。
その少女は、椅子を回転させ振り向き、食べかけのメロンパンを片手に答える。
「あなたのこと見とくように頼まれたからいるんですよ」
直義と並ぶ義貞の天敵、加賀であった。
「頼まれた? 誰に?」
「さあ? 誰でしょう!?」
「こっちから質問してんのに、クイズ出すんだよ。あと、食べかけのメロンパンで俺を指すな」
義貞は頭を右手でかいてから、深呼吸をした。
「じゃあ、それはもういい。で、加賀、今の時間は?」
「午後二時前」
義貞の第一試合が午前九時で、終わったのが午前九時半ほどだと考えると、四時間半ほど義貞は寝ていたこととなる。
待て、午後二時前?
「午後二時って第三試合の開始時刻じゃないか?」
「そうですね。あと三分ぐらいで選手入場ですね」
「第二試合はどうなった?」
「安田家代表が準決勝進出。試合はあなたのと比べれば内容は全然でしたけど」
義貞はその言葉にムズかゆさを感じた。
「今日はやけに俺のこと褒めるじゃないか」
「悔しいですけど、今日の勝負を見て、見直しました」
加賀は残念そうな顔をする。
「変わりましたね。昔のあなただったら、あんな土壇場の逆転劇を演出できなかったのに……」
「俺はいつでも進化してるのだよ! ぐぁっはっ……」
「そうやって強がるのはもうやめていいんじゃないですか?」
加賀が静かに義貞の言葉を遮る。
「何がだ?」
「あなたはそうやって強がることで自分のプライドを守ってきた。
皆が自分がエリートであるとか学校で一番強いとかを認識してくれないと、自分の存在意義がないように感じて、わざわざ強がったビックマウスをするようになった。
本当は劣等感だらけなのに」
まるで全て見透かされているようだ。
的を得た発言に義貞は息を呑む。
「なんで分かるんだよ?」
「女の勘ですよ」
女の勘……それはこの世で最も非科学的な発言である。
しかし、義貞も思考ではなく勘で動く人間である。
先程の試合の逆転劇も、頭ではなく、体が逆転する方法を導き出したのだ。
だからこそ、その女の勘は、義貞にとって説得力のある発言だった。
「強がる必要なんてありませんよ。口でアピールしたところであなたのことを皆は認識しません。
必要なのは、腕でのアピールです。
そして、その実力は十分あるんですから」
加賀の言葉に義貞は救われた気がした。
今まで皆に見せてきた、ナルシストなキャラが恥ずかしく思えてきた。
それが自分にとって、自分の存在意義にとって、欠かせないものだと思ってきたが……そらは違った。
必要な実力……それを得るための努力はこの一年間、この上なくやったつもりだ。
後は、それを発揮する、腕のアピールをすりだけだ。
加賀は、「あっ」と言い、机の上のリモコンを取り、テレビの電源を入れた。
「そろそろ、第三試合が始まりますよ」
「第三試合……ってたしか……」
「はい。直義くんが出場する試合です」




