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46、親方・・・見て

ハルカを探している男がいる。さんざん注意するようにフェレットから言われ辟易する。


こんな時は 憩いの広場で何か食べよう。

魚はまだまだ残ってるし、屋台のオッチャンに食べてもらうのも良い。

そんな事を考えながら 壊れたギルドの前を通り過ぎようとした。


「てめえ、サブジ。間違えましたで済むと思ってんのか、コラッ」


「す、すみません。親方」


「ただでさえ材料が足りねぇってのに、どうしてくれんでぇ」


スコーン☆


とても良い音がした・・ハルカの頭から。


いきなり飛んできた木材の切れ端がクリーンヒットしたのだ。

意表を突かれた魔法使いはもろい。


「うああーっ、親方 何してんですか。大変だ」


「てっ、テメエが避けるからだ。やべえ、子供に当てちまった」


「にゃー、ハルカしっかりするにゃ」


すぐさま ピアが出てきてヒールをかけていたので心配ないのだが、問題は守護していた精霊で自分が付いていながらハルカが攻撃された事に激怒し暴れだした。

このドタバタで半壊だったギルドの建物は とうとう建て直したほうが良いくらい破壊されてしまった。ただでさえ材料不足なのに 泣きっ面に蜂である。



「あれっ?。ここは・・」


「おおっ、気が付いたみてぇだな。悪かったな嬢ちゃん」


独特の匂いがする場所だ。不快な匂いではない・・周りを見渡して納得する。

ここは、木を加工する作業場で、匂いの元は木材の匂いのようだ。


でも、何故 自分はここに?。



「大丈夫みたいだにゃ。木片が頭にぶつかって気を失ったにゃ」


「ごめんよ。親方が木の切れ端を投げたりするから」


「すまねぇなぁ。材料が足りねぇのに このバカが失敗なんてするからイライラしててな」


「材料?・・そう言えば、ここ広いのに木材無いね」


作業場であろう屋根付きの広い場所には 多くの作業台や 大きめの道具など色々有って設備が整っているように見える。しかし、作業をしている人は居ないし、肝心の木材が無い。


「どうして・・材料が無いの?」


「難しい話だぜ、お嬢ちゃんに分かるかなぁ」


「子供じゃない・・分かるよ」


ハルカは至極真面目に言っているが、どう見ても子供の好奇心で可愛く聞いているようにしか見えない。

大工の親方には 大人ぶりたい孫が背伸びして聞いているように見えて 微笑ましく思えてくる。


「それじゃあ、暇だし お詫びに少し話してやろうな。 森には沢山の大きな木が有るだろ、でもな 魔物とか獣とかも沢山居るから 簡単には切れないのさ。それでも

何時もは 何処かの領主様が森を切り開く為に大勢の人を雇って木を切り倒すもんだ。そこで出た木が売りに出されるから 何とか材料は手に入っていた」


「今は切ってないの?」


「そうらしいな。みんな別の用事が大変で それどころじゃ無いって話だ。その用事ってのがな、王子様が成人するってんで 色々とお祝いする贈り物を用意する事らしい。そりゃあ さすがに他の仕事なんてしてられないだろうぜ。この都の領主様だって 少し前まで大変だったらしいからな」


「(バカ)王子のお祝い・・迷惑だね」


すでに ハルカの中では 「王子は漏れなくバカ」というククリに入っているらしい。

今まで色々酷い目に遭った為だ。



「ぷっ、お嬢ちゃん 気に入ったぜ。まぁ、確かに迷惑だがな、他でそれを言ったらダメだぜ。分かるな」


「親方は子供には優しいですね。いつも それ位丁寧に教えてくれたら良いのに」 ぶつぶつ


「てやんでぃ。自分から仕事を覚えようとしない奴は 百篇言葉で教えても身に付くもんかい」


大工たちがコミュニケーション?をとってる間に ハルカは亜空間倉庫を確認していた。確か 普通の木材も手に入れていたと思う。


木材は有った・・しかも とんでもない量が確保されていた。どうやら サラスティア王国で森を消し去った時に自動で回収され、分離されて大量の建築用木材として備蓄されていたらしい。改めて自分の魔法の収納規模に呆れてしまうハルカだった。


しかし、有るのは良いが 放出すると面倒な事が起きそうで躊躇われてしまう。

とは言え ハルカが考えても分かるはずが無いので、とりあえず 少しだけ提供することにした。



「ねぇ、親方・・・見て」


「ん?。どうしたい、お嬢ちゃん・・て、何じゃ こりゃあ!」


大工の棟梁が振り向くと、目の前には良質の木材が一山積み重ねられていた。

これだけで 軽く家が三軒は建てられる。


「こりゃあ、良質の木材だ・・どういう事なんでぃ」


「親方、使って。・・これだけで 間に合う?」


「お嬢ちゃんが出したのかい・・たまげたなぁ。あぁ、間に合うぜ、ありがてぇ。代金はどうする?多少高くても良いぜ」


「お金はいらない・・いつか自分の家を建てたい。その時、作って欲しい」


「本気・・みてぇだな。その話、乗ったぜ。お嬢ちゃんが家を作るときは 全力で作らせてもらおう。おい、サブジ 皆を集めて来い。本格的に始めるぜ」


ハルカは近いうちに 自分がゴロゴロできる拠点を造ろうと考えていた。

今までは漠然と頭の中で妄想していたが、作り手を得て一気に現実味が出てきた。


言うまでも無く、ハルカには全く大工の心得など無い。

倉庫には まだまだ大量の木材が有るのだが、今のままでは宝の持ち腐れも甚だしい。しかも、先日の精霊樹も木材になっている為、総量で言うなら 町一つ出来るほど持っている計算になる。いくら無限に入りそうな倉庫とは言え だんだん心配になるというものだ。



「ところで、お嬢ちゃん。もし まだ材料が有るなら 他の仲間にも融通してくれねぇか?。勿論 今度はタダじゃなくて良い、皆 仕事が出来なくて困ってるんだ。どうだろう」


「んー・・。沢山出す時は フェレットに相談する事になってる」


「冒険者ギルドのあいつか、相変わらず顔が広い奴だな」


ハルカは面倒事をフェレットに押し付けた。

彼なら上手く采配してくれるだろう。


そんな訳で もう一度ギルドに逆戻りしてフェレットを驚かせた。表向きは冒険者ギルドからの素材として放出し、間に木材問屋を入れて不満が出ないようにした。


プロの問屋だけあって 大工達の要望も熟知しているらしく スムーズに木材が流通を始めた。

都のあちこちから 止まっていた工事の音が響くようになってくる。


冒険者ギルドの職員も 久しぶりに眼の回るような忙しい日が続いて 嬉しい悲鳴を上げている。

つい最近 領主との話し合いで冗談半分に話していた事が現実となったのだ。

フェレットは自分が画策する前に思い通りの展開になり、複雑な心境でもあった。


論理的な思考を持つ彼だからこそ、言い知れない偶然の連鎖に恐れすら感じている。

ハルカが自然な流れに乗って 都が困窮するのを癒しているような気がしているからだ。ハルカの無意識な行動が まるで何か目に見えない大きな力で意図的に行われているような錯覚を覚えて落ち着かない。


思い返せば、ハルカが来てからの様々な出来事は、どれ一つ取っても都を危機に陥れるほどの事件ばかりである。それらの全てが彼を中心に 解決されている。


その点は 領主も感謝しているらしく、本来なら都をあげて名誉を与え何か褒美を与えたい所だが、まだ子供のハルカにそれをすると命すら危なくなる。

ハルカ自身も そんなものが要らないのは普段の言動で明らかだ。

そんな訳で、自然とハルカは陰の英雄的な位置に落ち着いてしまう。


そんな 一連の流れが 必然の組み合わせのように思えて フェレットを悩ませている。




都の職人達が活気を取り戻しているころ、フェルムスティアに向けて10台もの馬車が進んでいた。積荷は木材や鉄など、都が欲しかった物を的確に運んでいる。


「この商隊が到着する頃には フェルムスティアの領主も 槍が作れなくて右往左往しているはずだ。他で作らせた槍が200本、さぞ良い値で買ってくれることだろう」


「素材が流れて行かないように操作するのに凄い苦労したんだから、そんなの当然よ。木材も他より三割り増しで売れるはずだわ」


「ふふふ、シシルニアは賢いな。さすが 俺の娘だ」


何やら企む腹黒い商人親子は まだ現実を知らなかった。

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