45、お土産と金の卵
ハルカは ふよふよと空を飛び、フェルムスティアに帰ってきた。
海では恐い思いはしたが、収穫も大きかった。
あの後、ピアの魔法で 魚は使いやすい大きさの輪切りにしてもらった。
数少ない知り合いに渡す 良いお土産になるだろう。
「ねぇ。ララ・・居るかな」
「ひっ!、・・・・ハルカ様?。脅かさないでくださいよぉ。
ララレィリア様ですね、今は講師の方から歴史を学ばれておられます。
面会なされますか?」
「うー・・いや、今は止めておく。料理を作ってる人 教えて。お土産あげる」
ハルカは 杖に横座りする姿で飛んだまま、直接 領主館の中庭に降り立ち 通りかかったメイドを驚かせていた。
本当なら 不法侵入で取り押さえられる行為なのだが、ハルカと何度も関わっているメイドは 少しくらいのハルカの奇行では大事とは感じなくなっていた。
厨房に通されたハルカが 大きな魚の切り身と カニの足を取り出すと 場は騒然となった。料理人たちは それが どれ程手に入らない希少品か知っている。
珍しい食材を使った 料理で主人を喜ばせたい彼らの頭の中には 「何を作るか」以外の考え以外は存在しなかった。
上手い具合にハブられたハルカは 好都合とばかりに館を後にする。
次に向かったのはフルベーユ商会の商館。お嬢さまのフレネットに対するお土産だ。だが彼女に見つかると多大な時間を取られるので、 商会の入り口から営業受付に頼んで侍女のフィルファナを呼んでもらった。
「あらあら、ハルカ君。お・ひ・さ・し・ぶ・り、ね。
私から逃げて寄り付かないのに、今更 何の用かしら」
「不本意・・な言われ方」
フィルファナは自らの欲望の赴くまま ハルカの寝込みを襲ってショタを堪能しようとしたのだが 思わぬ反撃に遭い敗北を喫した。
以来、その時の余韻が燻り 欲求不満の状態であった。
「これ、フレネットにお土産。・・焼いただけでも美味しかった。オススメ」
「おおっ、これは!。 魚の身とカニの足ですな。これなら 高く買い取りますよ」
恐ろしい食いつきを見せたのは 受付で買い取り担当をしている人だ。
営業で売り込みに来たと思われたらしい。
「これは、売り物じゃ無くてお土産。それと・・・素材を無闇に売ると 相場が乱れて困る人が出ると フェレットに止められている」
「これは とりあえず、お嬢様の為に いただいた品物です。こちらで引き取ります。ハルカくん、また、遊びましょうね♡」
フィルファナは 受付の反応を見逃さず 土産の価値を読み取っていた。
あえて フレネットの事を強調して権利を確定し 素早く回収していった。
お土産は大きく重いため、職員と一緒に木で出来た台車みたいなもので運んでいる。
フィルファナには他にも色々と言われるか心配だったので ハルカは助かった。
だが、そんなハルカに興味津々なのは買取担当の職員。
すぐには帰さない熱意で話しかけて来た。
「なるほど、ギルドマスターの支持を受けておられるのですか。
確かに沢山の商品が流れた場合 品物がダブって相場が下落する事はあります。
ですが それは他に同じ物を売る方が居る場合の商品に限ると思いますよ」
「そか。一つしか無いなら 他の人が困らない・・ね」
(ふむ、まさかとは思ったがこの若さで経済を理解しているようだな。
・・フレネットお嬢様も良い相手に目を付けられる)
一流の商人である彼は、子供姿のハルカに対しても 見下した態度をしない。
まして今の彼がハルカを見る目は 対等な商人を相手にするものになっていた。
情報の少ない世界で 経済の動きを頭に置けるというのは 商人の中でも高度な段階であり、見た目が10歳のハルカが知っているのは異常な事なのだ。
「じゃあ、何が珍しいか 分からないとダメだね。
・・ウニとカニの甲羅なんてどうかな。珍しいよ」
「!。宜しければ 状態を見せていただけますか。それから判断したい」
倉庫で取り出そうとしたが「ウニが大きすぎて無理」という事で 商館の裏庭で取り出して見せた。
亜空間倉庫内で分別され 純粋な素材として出てくる為、この時点ですでに完成され 売りに出せる状態に成っている。ウニのトゲだらけの外郭は 余計な色素すら排除され全体が白く、カルシウムと繊維の作り上げた巨大な芸術品のようだ。
カニの甲羅も少しコゲてはいるが 足も爪も余計なものが一切付着していない 美しい仕上がりになっている。その半透明の素材は グラスファイバーのような軽さと柔軟さと強さを持っていてこの世界では大変に利用価値が高い。
職人たちは これ等の素材を削りだし 加工して様々な道具を作り出していく。
「素晴らしい素材ですね・・」
「売れるなら置いていくので よろしくね。・・ラルドアスさんの事は 信用しているからお任せする」
「大旦那様とお知り合いでしたか。
分かりました。そういう事であれば 大旦那様と相談して結果をお知らせします」
商談としては お互いに落第点の交渉をしている。
素材の価値を口に出した商人は 本来なら大失態である。
自分の腹の内を出さずに安く買い取り、利益を上げるのが商人の腕だからだ。
結果的に ハルカに対して下手な駆け引きをしなかったのは正解ではあるが。
ハルカにとっては 要らない素材が片付いたので上機嫌だ。
次は フェレットに会うべく仮のギルドへ行く。
直接 家に届けても良いのだが、彼の娘のララムは6歳の子供らしく 無限に見える体力と 一眠りすれば全快する回復力を有する遊びたい盛りなのだ。
見つかれば逃げられないし、体力でも到底勝てない。
「ハルカさんを探している大男、ですか・・」
「はい、正式にギルドに捜索依頼を出しています」
ハルカがギルドに訪れたのは そんな会話がされていたタイミングであった。
受付に顔を出すと あっと言う間にフェレットの所に連行されていく。
お土産を渡したら立ち去る計画だったが、話はそれで終わるはずが無い。
「こんにちは。ハルカさん」
「来る度に部屋に呼ばれる・・」
何時ものようにお茶とお菓子が用意され、ソファーをすすめられる。本来 余程の事が無ければギルドマスターの執務室に通される事は無いのだが、ハルカの場合 毎回他人に聞かせられない用件があるので 当たり前のようになっている。
仮にフェレットに妻子が居なかったらロリコン疑惑が噂されていただろう。
丁度良いので、直接 彼にお土産を渡す事にする。
床に直接 食べ物を置くのはマズイので 巨大な植物の葉を下に敷いている。
毒が無い葉っぱという事で使っているが、その葉 自体が貴重品だと気が付いていない。
「海のお土産・・皆で食べてね。この前 お世話になったし。
アイテム袋は持ってるよね」
「これは、珍しい貴重な物ですね。まさか、朝 分かれてから海に行っていたのですか?」
「森の向こうに見えたから・・ 行ってみた」
フェレットはアイテムケースに 魚の切り身とカニの足を納めながら悩んでいた。
ハルカは遊び心で海まで行って来たらしい。
だが、それが出来るだけで 巨万の富を生み出せるとは 思ってもいないだろう。
森の向こうに海が有るのは 話としては知られている。
強い魔物が跋扈する森を越えて行き 海まで行くのは この都の人々にとって夢とも言っていい。日本で言うなら都市伝説?有りそうで有り得ない与太話レベルだ。
特に商人にとっては黄金郷と言ってもいい価値の有る話だ。
当然だろう、向こうで手に入れた物を都に持ち込むだけで大儲けできるのだから。
まして、行けるだけではなく海の生き物を自分で狩る事が出来るなど「金の卵」そのものである。
これ程の破天荒な人物を どうやって人々の欲望から守ったら良いのだろう。
この世界に於いて 稀に見る優秀な男 フェレットは、たった一人の子供のことで懊悩していた。
得体の知れない大男の話も ハルカにしなくてはならない。
苦労人ギルドマスターの胃潰瘍はこれからだ。なむ




