表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鐘は鳴り止まない〜ただ一人、君の歌だけが綺麗だった〜  作者: 秘色ひすい
鐘の鳴る街

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/42

第40話 遠征の終わり

 報告は長い間続いた。


 谷へ辿り着くまでの道中。

 大量に積み重なっていた魔物の死骸。

 変異した魔物達との戦闘。

 そして谷底の中心にいた異形。


 レイが説明する度に、ベイルは手元の紙へ記録を書き込み、時折質問を挟む。


「その結晶は回収したのか?」

「した。道中のと谷底。変異体の近くにもあったな」

「ふむ……」


 地図には印が付けられる。

 別の紙には簡単な特徴まで書き込まれていた。

 エアルも時折補足を入れながら説明を続ける。


 気が付けば机の端には書き終えた紙が何枚も積み上がっていた。


「取り敢えず、過去の資料も確認してみるとしよう」


 手元の紙を纏めながら言う。


「似た事例が残っているかもしれん」

「あるのか?」

「分からん」


 書類を捲りながら首を振る。


「だから調べる。私の知らん事例など幾らでもある」


 もっともだった。

 今回の件は聞いた限りだと誰も知らないと言っていた。

 少なくとも、この街では。


「ただな」


  ベイルは椅子に背を預け、机に並ぶ記録へ目を落とす。


「話を聞けば聞くほど分からん事も増える」

「異変の原因もこれといって断定出来ん。その存在が何だったのかも不明だ」


 指先で紙を軽く叩いた。


「だが調査隊が帰還し、原因と思われる存在を確認した。討伐も成し遂げた。それだけでも十分な成果だ」


 少し間、沈黙が流れた。


「情報だけでも持ち帰れれば十分だと思っていた」


 その言葉に思わず目を瞬かせる。

 隣を見ると、エアルも同じような顔をしていた。


「いや、本音を言えば生還すれば御の字だと思っていた」


 そう言って一度口を閉じる。


 こういった調査で冒険者が戻らなかった話も聞いている。同じ結果になる可能性は十分あったのだろう。


「結果まで持ち帰るとは思わなかった」


 視線がこちらへ向き、頭を下げられる。


「よくやってくれた」


「今回の依頼は完了扱いとする。報酬については後日まとめて支払う」


「あぁ、分かった」

「それと――」


 ベイルが身体を起こし、机を軽く叩く。


「回収した物があると言っていたな」


 足元に置いていた袋に手を伸ばし、回収した結晶、核の破片、異形から採取した素材。それらを順番に机に並べていく。


 しばらく無言で確認していたが、核の破片を摘み上げると、眺めた後に眉を僅かに寄せる。


「魔石に似ているな」

「似てるだけか?」

「そうだな。だが、少なくとも私には判断出来ん」


 今度は結晶へ視線を移し、


「こちらも同じだ」指先で軽く転がす。

「どこかで似た物を見た覚えはあるが、思い出せん」


 やがて全てを机の上に戻した。


「鑑定に回すといい」

「買取のカウンターでいいのか?」

「そうだ。優先的に行うように伝えておく。買取を希望する場合は教えてくれ」


 これで話は終わったらしい。

 再び机の書類へ手を伸ばしている。


「ここからがギルドの仕事だ」


 その言葉でようやく席を立ち、部屋を後にした。


           ◇


 一階へ戻ると、受付ではセシルが待っていた。


「終わりましたか?」

「なんとか終わった。まぁ伝えられたと思う」


 事情を説明すると、奥から職員が呼ばれる。

 机に並べられた素材を見た職員は困ったように笑う。


「また凄そうなのを持って帰ってきましたね……」

「俺達もよく分かってないんだけどな」

「でしょうね。ここまで変質したものは初めて見ます」


 核の破片や結晶を木箱へ移す。

 素材も一つずつ確認していく。


「結果は数日掛かると思います」

「了解。分かったら教えてくれ」

「はい、ギルドからお知らせが行くと思います」


 全てを預け手続きを終える頃には、外の空もかなり暗くなり始めていた。


           ◇


 ギルドの外、夕暮れの街には食事時の匂いが漂う。


 肉の焼ける匂い。食欲を唆るスパイスと煮込まれたシチューの香り。色々な匂いが混ざって流れてくる。


「腹、減ったな」

「ホントにね。お腹が鳴らないか心配してたよ〜」


 思わず笑った。


「何食う?」

「うーんとね、とにかく新鮮なものがいいかな?ずっと携帯食だったから」


「あー、だな」


 それは確かにそうだった。


 二人は近くの食堂に入ると入口近くの席へ腰を下ろす。

 注文を済ませ、水だけが先に運ばれてくる。


 ようやく一息ついた気がした。


「終わったな」


 ぽつりと漏らす。

 エアルは少しだけ考えた後、


「あっという間だったねぇ…」

「討伐?それとも帰ってきた事?」

「全部かなぁ」


 窓の外へ視線を向ける。


「昨日まで谷にいて、その前は夜通し逃げて来て。それが今は街でご飯待ち」


 言われてみれば大変な話だった。


 昨日は死闘があったとは思えないような穏やかさの中、今は二人して食堂で夕飯を待っている。


「確かにな」と、頷きながら返事をする。


 少し沈黙が落ちるが気まずさはない。


「エアルはどうだった」

「どう?」


「今回、助けてもらってばっかだったしな」


 少し考え込む。


「そんな事ないよ。賛成したのはわたしもだし、頼られて嬉しかったよ?」


「そんなもんか」

「そんなもんっすよ」


 少し間が開く。


「前にも言ったかもだけど、今までは1人で動く事ばっかりで」


「うん」


「魔法や歌を聴かれるのも嫌だから、逃げてたんだ」


「……」


「でも、役に立ちたい気持ちはあったし、助けられるなら助けたかった」


「あぁ」


「だから、今回行動できたのも、全部キミのおかげ」


 真剣だった。


「全部じゃないと思うけど」

「全部です」


 譲らなかった。


 料理が運ばれてくる。

 焼いた肉の香りが広がった。


 エアルは言葉を止める。


 皿に乗った沢山の料理を見る。

 お互いに見合わせて、もう一回料理を見る。


「食うか!」

「食べよっか!」


 隣を見ると、一口食べた瞬間に顔を輝かせている。


「美味しいね!」

「そんなにか?」


「うん。かなり」


 少し恥ずかしそうにしながら、


「本当に美味しいんだぁ」


 嬉しそうに言う。

 それからは食事に集中する時間になった。


 ようやく空腹が落ち着いた頃。

 エアルがふと顔を上げる。


「そういえば」

「ん?」


「お師匠さんには連絡したりはしないの?」

「あー……」


 考えていなかった。

 いや、考えてはいた。

 面倒で後回しにしていただけだ。


「手紙なー」

「怒られるんじゃないかな」


「なんで?」

「遅い!みたいな。聞いた話からの想像だけど」


 否定出来なかった。

 レイは小さく溜息を吐く。

 その様子を見たエアルが少し笑う。

 久しぶりに、何でもない話をしている気がした。


           ◇


 街灯の明かりが石畳を照らしている。

 宿に着く頃には夜になっていた。


 二階へ上がり、並んだ部屋の前まで来た所で、前を歩くエアルが足を止める。


「ちょっとだけ待っててくれるかな?」

「?いいけど」


 少しして、部屋から物音がした後に扉が開く。


「はい、これ」


 手渡してきたのは、便箋と筆。

 受け取るのを躊躇い、視線を逸らす。


「早めに書いてあげないとダメだからね?」


 諦めたように溜息を吐いた後、小さく笑う。


「了解」


 短く手を上げ受け取ると、小さく振り返してくる。


「おやすみなさい、また明日」

「あぁ、おやすみ」


 背中が部屋の中へと消えていく。

 その姿を見送りながら、レイも部屋に入る。


 荷物を下ろす。

 部屋には出発前に置いたままの荷物が残っていた。

 何も変わっていないけれど、数日前とは違う気がした。


 椅子に腰を下ろすと机の端に置いた便箋が目に入る。


「……手紙か」


 書くべきだろうか。

 書かなくても、何故か知られている気もする。


 そんな事を考えながら天井を見上げる。


 谷で見た光景。

 異形との戦い。

 慌ただしかった数日間。


 それらがようやく終わったのだと、今になって少しずつ実感が湧いてくる。


 長かった遠征が、ようやく終わる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ