第X話 鐘は鳴り続ける
ゴォォン……
まるで世界そのものが泣いている様に大気が震える。
茜色の空、誰もいない聖地に鐘の音が響く。
ゴォォォン……
二つ目の鐘が重なる。
嫌になるほど長い残響だった。
空気に溶け切らず、行き場を失った音が世界の奥へと引っ掛かり続けているみたいに、耳鳴りにも似た不快感だけが残り続ける。
その世界の中心で。
キィィン――!!
鋭い火花が散った。
鐘の音を切り裂くように剣戟が響き、白銀の軌跡が空間に奔る。
「ハァ……ッ、ハァ……!」
砕けた石畳を滑りながら、少年が息を乱す。
視界が赤い。
額を流れた血が瞳へ入り込み、俯いた顔を正面に向けると、赤く滲んだ世界が見える。
「もう……いいだろ……っ!」
叫びと同時に踏み込み、降り下ろす。
だが剣は空を切る。
一瞬前までそこにいたはずの姿が掻き消え、次の瞬間には背後から凄まじい殺気が叩き付けられていた。
「ッ!!」
咄嗟に振り返り、剣を合わせる。
衝撃。
痺れ。
受け止めた腕ごと砕かれそうな重圧に、地面が陥没し、砕けた石片が頬を掠めて飛び散った。
「いい加減……何とか言えよ!!」
押し返すように叫ぶ。
目の前にいる男は、ただ静かだった。
白と黒の刃紋が浮かぶ両刃の剣。
凪いだまま揺れない切長の瞳。
銀色の髪を風の流れるままに、その男は感情の抜け落ちた声で呟く。
「……話す事は、もう無い」
次の瞬間、また姿が消えた。
「クソッッ!!」
斜め後から振り下ろされる斬撃をかろうじて受け流し、相手から無理やり距離を取る。
構えも何もなく、隙だらけに見える。
なのに届かない。
まるで最初から、自分だけ別の場所に立っているみたいに。
「意味わかんねぇって!!」
血を拭う暇もなく叫びながら、背中にあるもう一つの剣を左手に持ち、再び相手に切り掛かる。
金属が擦れる音が、鐘の残響へと重なった。
「なんで……なんで――ッッ!」
「言っただろう」
その声だけは、やけに近かく感じた。
まるで泣きじゃくる子供へ言い聞かせるみたいに、銀髪の男は静かに告げる。
「お前がーーだからだ」
「説明になってねぇよ!!」
「それがーーだ」
熱の篭らない眼をこちらに向ける。
ーーその瞳は赫く燃えていた。




