第114話 温度差
レオンが呼び出されたのは夜だった。
教会の裏口に足音が一つ。
「ねえさあ」
軽い声。
「これ絶対めんどくさいやつでしょ」
アデルだった。
壁にもたれながら、レオンを見る。
金の髪が揺れる。
雰囲気はいつも通り軽い。
でも、目だけは少しだけ違った。
「……まあな」
レオンが答える。
「ルキウス」
短く言う。
「あー、はいはい」
アデルが手を振る。
「あのキモいやつね」
言い方は軽い。
「で?殺れって?」
さらっと言う。
「ああ」
アデルは、少しだけ空を見た
「……だる」
小さく呟く。
「あいつさあ、普通に戦うやつじゃないじゃん」
少しだけ真面目な声。
「……分かってる」
レオンが言う。
「でも、やるしかない」
アデルは、その言葉を聞いて、少しだけ笑った。
「ほんとそういうとこだよね。嫌いじゃないけど」
軽く言う。
少し間が空く。
「……ユリウスは?」
「そこ」
レオンが顎で示す。
影の中にユリウスが立っていた。
「あー」
アデルが視線を向ける。
「なんかさ」
一歩近づく。
「ちょっと変わった?」
軽く言う。
ユリウスは、すぐには答えなかった。
「……そうか?」
いつも通り返す。
「うん」
アデルは頷く。
「なんか、“見てるだけじゃない顔”してる」
さらっと言う。
ユリウスの目が、ほんのわずかに揺れた。
「…気のせいだろ」
「そういうことにしとく」
アデルが笑う。
それ以上追わない。
「で」
アデルが続ける。
「今回の件、どんな感じだったの」
レオンが、少しだけ顔をしかめた。
「最悪だ。二人とも助からなかった」
アデルの表情は変わらない。
「あー」
小さく声を出す。
「どっちも最初から?」
その問いに、レオンは答えない。
代わりに、ユリウスが言った。
「……たぶんな」
アデルは、それを聞いてほんの一瞬だけ目を細める。
「なるほどね」
小さく言う。
「じゃあ完全に遊ばれてるじゃん」
軽く笑う。
でも、その声は少し低い。
「ルキウスらしい」
沈黙が落ちる。
「……やるか?」
レオンが言う。
「やるしかないでしょ」
あっさり言う。
「放置するともっと増えるし。あいつ、楽しくなってるから」
軽い口調。
でも、判断は正確だ。
「ただ、普通にやっても意味ないよ」
視線が鋭くなる。
「あいつ、“結果”じゃなくて“過程”見てるから」
静かに言う。
ユリウスが、その言葉に反応した。
「分かってるのか」
「まあね」
アデルが肩をすくめる。
「ああいうタイプ、一番めんどい」
苦笑する。
「だからさ」
一歩だけ前に出て小さく言った。
「“見せない”でやるしかない」
「……は?」
レオンが眉をひそめる。
「観測される前に終わらせるってこと」
空気が、少しだけ変わる。
現実的かもしれない。
でも、簡単ではない。
「……できるのか」
レオンが聞く。
アデルは少しだけ笑った。
「さあね」
軽く言う。
「でも、やるしかないじゃん」
ユリウスは、そのやり取りを見ていた。
レオンと、アデル。
二人とも、“やる側”にいる。
自分はどうか。
少しだけ、遅れて考える。
あのとき、気づいていた。
でも、止めなかった。
意味がなかったから。
でも、それでよかったのか。
答えはない。
ただ、一つだけ。
“見ていただけ”ではいられない場所にもう立っている。
それだけは、はっきりしていた。
「俺も行く」
気づけば、そう言っていた。
レオンがユリウスを見た。
アデルも視線を向けた。
少しだけ、間があった。
「ふーん」
アデルが笑う。
「やっぱ変わってるじゃん」
軽く言う。
ユリウスは、何も返さない。
でも、もう引かない。
夜は、少しずつ動き始めていた。




