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初めての激昂

プルデンテを睨むように見つめていたバジーレ辺境伯は、小さく息を吐くと、室内に足を踏み入れた。彼は側にいたシエナの停止も一瞥だけで押し退ける。その精悍ながら整った顔立ちは、迫力が凄まじく、プルデンテすら威圧感を得たことでバジーレ辺境伯の歩みを止めることは困難だと理解した。

ただ、すぐさまアストゥートが彼女を守るように立ち塞がる。夫の広い背中を目にしながら、医者と他の侍女による処置によって身を清められ、清潔な布に包まれた娘を渡される。

プルデンテは腕の中にいる娘に目を落とした。大泣きで顔を皺くちゃにしていた小さな命は、今は目を閉じて寝入っている。その小さな唇だけは、何かを食べているかのように動いていた。今は顔立ちも分からない皺だらけの顔。それでも非常に愛らしいと思う。思わず抱く腕にも力が入るほどだった。


「なんの用だ、プルデンテは出産の疲労で言葉を交わすことも、お前の相手をする余力すらない」


「子を見に来ただけだ。どけ、アストゥート」


義父であるバジーレ辺境伯は、アストゥートよりも逞しいと目に見えて分かる。軍服の布地を押し上げるほど筋肉が張り詰めており、腕も太く、アストゥートを片手で押し退けてしまった。


「おい!」


「珍しく感情的ではないか。お前の感情は死んだかと思っていたが、物珍しい色の王家の姫に毒されたか」


バジーレ辺境伯はアストゥートに言い放つと、プルデンテに視線を戻した。常に眉間にある皺が、表情によって更に深くなる。怒りを感じているとよく分かった。

彼と対峙しつつも彼女が思うのは、彼にとって自身がどのような存在なのかということ。口に出した「物珍しい色の王家の姫」という文言から、バジーレ辺境伯にとってプルデンテは息子嫁でもなく、バジーレ家の者という認識もない。王家の人間という外部の存在のままだと分かる。


「か弱き姫が、当家の子を産み落とすという大義には感謝をします」


「いいえ、アストゥート様の妻として当然のことを成したまでです」


辺境伯とは初めて言葉を交わした。やはり外部の者という扱いに、彼女の疲れ切った体は更に重くなる。それでもベッドに身を預けないように、眠る我が子を起こさないように、背筋を伸ばそうと意識をする。


「アストゥートの妻ですか・・・貴女を当家の者として私は認めていませんが、確かに書類上では妻でしょうな。はっきり言えば、グラツィアーニ王家の血は我がバジーレに不要ではあります。それでも、その身を傷付けながらの出産には感服している次第。あー・・・名は重要ではないでしょう、灰色の王女殿下。我が孫の性別を教えていただけませんか?」


「お前!プルデンテを侮辱するな!彼女は大変な思いをしながら今まで過ごし、俺の子供を命懸けで産んだんだ!それを」


押し退けられて床に落ちていたアストゥート。義父の力の強さに負けていた彼は、膝を立てていたことで素早く腰を上げた。

バジーレ辺境伯の腕を掴み、プルデンテから引き離そうと力を入れていたが、微動だにしない彼に睨み付けられる。


「お前からそのような言葉がでるとはな・・・今は王女殿下と話している。黙っていろ」


「ぐっ!?」


彼女の目では捉えられなかったが、バジーレ辺境伯はアストゥートの鳩尾に拳をめり込ませたことで黙らせた。

痛む腹を押さえながら床に膝を付いた彼を、辺境伯は冷めた眼差しを向ける。すぐにその目はプルデンテに向かい、腕の中の娘を見下ろしていた。


「それで性別はどちらでしょうか?」


「それよりもアストゥート様に対して暴力を」


「性別は?」


眉間の皺を深くして、まるで仇敵を見るように娘を見下ろす義父。答え以外は要らないという様子に、彼女は不快感を得ながらも唇を開く。


「娘です」


性別の何が気がかりなのかはプルデンテには分からない。ただ、バジーレ辺境伯は暴力的な人間だと知ったことで、素直に答えることにした。

返ってきたのは盛大な溜め息。額を手で押さえた分かりやすい落胆の態度に、彼女の顔に力が入った。


「女か・・・よもや男を産めぬ腹ではないでしょうな?」


バジーレ辺境伯は男児を望んでいたらしい。この女性に対する差別意識は、プルデンテに対する蔑みの言葉からも理解できた。

王国では性別による継承権の違いはない。女性であろうとも爵位は継げ、姉のディニタのように能力を認められたのならば王位すら継げる。能力に見合えば就けぬ仕事はなく、だからこそ自身を研鑽する人々は多い。

辺境伯の思想がどのようなものかはプルデンテは知り得ないが、彼女の産んだ娘が爵位を継ぐに問題はない。余程の愚者であるか、バジーレ家の役割から身体に異常がなければ、弊害なく娘がアストゥートの跡を継いで辺境伯となる。


「・・・女であることに何か問題がありますか?」


人生で初めて怒りを覚えた。苛立ちから上擦った声を出した。

性別だけで愛しい娘を蔑む義父。知りたくもないが、彼の信条が信じられずに拒否感を抱いてしまう。


「我がバジーレ家は王国東部を守る武門の家系。女では力で劣り、その身分から人質に取られる可能性がある。つまりは戦場においては足手まといとなります。貴女と同様にです」


「この子自身が戦士となれなくとも、バジーレ家を取り仕切る手腕を学びで得る可能性があります。何より、生まれたばかりの赤子の未来を今定めてしまうなど愚の骨頂。この子が成長し、数多とある選択から自身の進む道を見つけ出すことを見守る。それが先達となる我々の役目ではありませんか?」


「先の可能性に数多の選択肢ですか。バジーレ家においてはそのようなことはありません。当主となる者は国の守護となる軍の将であり、そうでなくとも騎士として軍属に・・・おい、その娘は青い瞳をしているのか?」


バジーレ辺境伯との会話はお互いに怒気を孕んでいた。周囲を萎縮させるものであり、恐々とする医者や侍女達を尻目に、言葉をぶつけ合っているような声色だった。

そのためか、寝入っていた娘は起きていた。辺境伯の言葉で気付いたプルデンテは、自身の腕の中にいる娘に顔ごと視線を向ける。まだ感情のない目は澄んだ青い瞳。プルデンテが持ち合わせていない王家の色だった。

自身の娘がその色を継いだことに安堵して、それは自身も王家の血が流れている証左。改めて確認できたことに彼女の胸は熱くなる。


「なぜ王家の色である青い瞳をしている?灰色の王女は王妃の不義の子という話ではないのか?」


「・・・なんですって?」


美しい青い瞳と視線を合わせていれば、聞き捨てならない発言がはっきりと聞こえた。

一時的に緩んでいた表情が引き締まり、鋭い目でバジーレ辺境伯を睨み付ける。プルデンテはこれほどまでに怒気を露わにしたことなど、感じたことすらもなかった。

つまりは、今まで怒りなど見せなかったプルデンテだったからこそ、大男と言っても過言ではない辺境伯すらたじろかせてしまう。


「私が王妃殿下の不義の子だと?」


「・・・貴女が物心付く以前に王国内で流布した話だ。綺羅びやかな銀の髪と澄んだ青い瞳を持つ国王陛下の子であるはずなのに、第三王女はくすんだ灰色を持つ。王妃殿下も柔らかな小麦色の髪と翡翠を思わせる美しい瞳をしているにも拘わらず、なぜ第三王女は灰色なのか。それはつまり、王妃殿下が従者と密やかな関係になり、不用意に孕んでしまった罪を隠すべく、国王陛下の子と偽ったというもの」


沸々としていた怒りが噴き出した。プルデンテは体温の上昇で白い肌を朱に染めて、ぼんやりと見つめてくる娘を一旦侍女に預けた。慌てながらもしっかりと抱き上げる様を確認すると、感情に従って鋭くなった眼差しを、再びバジーレ辺境伯に突き刺す。


「バジーレ辺境伯、貴方は国母である王妃殿下を侮辱した。低俗な噂話を信じ、貞淑な王妃殿下に罪ありきと蔑むなど言語道断。ご自身が許されざる発言をしているという自覚はありますか?」


「あ、あくまで噂話があっただけです。貴女がどこからか継いだ灰色を臣民達は異様だと感じた。王妃殿下の不義を疑うなど必然でしょう」


「私だけを軽んじられるのならば、それは無能と判断されてのことですので甘んじて受けましょう。ただ、この見た目を理由に私の母である王妃殿下を謂れなき罪で蔑むというならば、徹底的に抗議をします!」


彼女はよろけながらもベッドから起き上がり、腹部と足の付け根の痛みに堪えつつ、ゆっくりとバジーレ辺境伯に近付いた。


「王妃殿下は国王陛下と共に王国の繁栄に尽力し、臣民の生命を第一に考えた治世をされています。王家の礎の一人として次代の女王たるディニタ王女殿下、他国との橋となるスプレンディド王女殿下をお産みになられました。全ては王国のため、夫である国王陛下のためと心身を捧げた気高き方を、私の容姿が原因で貶めるなど貴方自身にこそ罪がある!」


「お、王女殿下。落ち着いていただきたい。御身は出産により非常に傷付かれている。疲労も凄まじいだろうと、私は妻の出産で知り得ていまして」


「私のことなどどうでもよろしい!!低俗な噂に惑わされて許されざる発言をしたことを反省なさい!!貴方の言動は王妃殿下に対する侮辱罪、不敬罪に該当する!!」


大きく声を張り上げて言い放つ。痛む部分に響くが、敬愛する母に対する侮辱に怒りは収まらない。

プルデンテの母は、どのような事柄があろうとも動じず、民を案じる慈愛の心を持ち、王妃権限での支援を惜しまない。プルデンテが目標としている女性であり、いつかは母のようになりたいと憧れを抱いていた。

その母を、敬すべき王妃を、辺境伯が侮辱した。彼女にとっては許し難い行いだった。

ゆっくりと、ふらつきながらもバジーレ辺境伯に歩み寄る。華奢な体は弱っているが、気力のみで詰め寄った。


「詫びなさい、バジーレ辺境伯・・・敬愛する王妃殿下に対する侮辱を私は許さない」


一歩と近付けば、彼は一歩下がる。明らかに自身よりも弱いと分かり、侮っていたプルデンテに気圧されて、後退りをしていた。


「お、落ち着いてください。王女殿下、貴女は感情に飲まれてご自身を見失っている。御身は非常に辛い状態のはずです。一度息を整えて、体を横たえて休まれたほうが」


「私のことなどどうでもいいと言った!まずは臣下として、王妃殿下に対する不敬を詫びなさい!」


「灰色の王女は大人しい気質と聞いていたぞ。このように荒ぶるとは」


「お前が怒らせたからだろう」


アストゥートの声が聞こえる。その声が脳に浸透すると同時に、バジーレ辺境伯の呻き声が聞こえた。

怒りに燃え上がることで周りが見えていなかったプルデンテは、深く息を吸い込むことで脳を冷やし、心を落ち着かせて、目を瞬かせる。

冴え渡った視界に見えたのは、辺境伯の軍服の襟首を掴み、引き寄せるアストゥートの姿。彼はバジーレ辺境伯の足を自身の足で払うと、苦悶の表情を浮かべる顔を床に押し付けた。


「ぐぅっ!」


「・・・力で負ければ引き下がると家訓に記したのはお前だったな?お前は俺に力で負けた。地に伏した。ここは引き下がれ。プルは休まねばならない」


「・・・分かった、下がろう。怒れる女とは会話にならないからな」


「余計なことは言わなくていい」


呆れと溜め息を吐いたアストゥートは、床に押し付ける力を緩めた。すぐさまバジーレ辺境伯は起き上がり、息子である彼を一瞥で睨み付けると、プルデンテに顔を戻す。

異様なものを見るような眼差し。彼は弱いはずの彼女をまるで恐れているかのように、目を泳がせて、顔を引き攣らせている。


「・・・確かに王妃殿下に対する侮辱であり、不敬極まりない言動でした。ただ、これは家族間での会話。バジーレ家内での非公式な発言です。正式な謝罪を妃殿下に申し上げれば、かえって混乱をきたすでしょう・・・この場は、行き過ぎた言動だったと反省いたします。疲労困憊であろう灰色の王女殿下を激情させるなどあってはならぬことでした。申し訳ございません」


謝罪のためにバジーレ辺境伯は深々と敬礼をすると、すぐに姿勢を正して颯爽と部屋から出て行った。

彼の姿が見えなくなると、プルデンテは深く息を吐いて、痛みと疲労で体の力が抜ける。床に落ちそうになった彼女の体は、アストゥートによって抱き留められた。


「プル、大丈夫ですか?」


「・・・多少、無理をしてしまいました」


「ええ、本当に貴女は無理をした。その体で父に挑みかかるなど無謀です。貴女は自身のことを少しでも労るべきだ。辛いのなら俺が支えるし、ああいった輩に絡まれたのならば、最終的には俺が下します。だから、無理はしないでくれ・・・」


アストゥートに抱き締められる。筋肉を感じる胸に頭が引き寄せられて、彼の鼓動の速さを知った。

愛情を向けてくれる人に心配をかけてしまった。罪悪感が沸き上がり、プルデンテはアストゥートの体にしがみつく。


「ごめんなさい、アストゥート様。母に対する侮辱が許せなくて勝手に体が動いてしまいました。これからは、お相手から挑発を受けない限りは落ち着いて対応します」


「・・・まずは俺を頼ってください。貴女を何からからも守りたい」


「ええ、分かりました」


曇る表情に彼女は微笑みを向ければ、彼に「顔色が悪いのでかえって心配です」と告げられる。

そのまま横抱きに抱えられると、ベッドの上に戻された。控えていた侍女の表情は強張っているものの、彼女は一息吐くと、大切に抱えていたプルデンテの娘を渡してくれた。落とさないよう注意して抱えれば、感情の浮かばない青い瞳に見つめられる。彼女は娘の顔を覗き込んだまま、健やかな成長を願う。

アストゥートも身を寄せて、プルデンテを支えるように肩に手を回すと、娘の顔を覗き込む。

身を寄せ合い、我が子を眺める二人の姿を、緊張の解けた人々は和やかな気持ちで眺めていた。






息子嫁である灰色の王女が、バジーレ辺境伯に挑みかかった。口論となっても引かずに、むしろ言葉だけで退けた。

城塞の中の、それも寝室で起こった家庭内でのことが、なぜか辺境伯領に広がっていた。家内の使用人か、守備の兵士から広まったのかもしれない。

人々は、大人しく存在感も薄い華奢な元王女が、威圧感のある体躯逞しい辺境伯と対峙するなど、あり得ないと声を上げている。プルデンテについて憶測混じりの言葉を交わしていた。

彼女自身の耳に届いたときには、恐るべき速度で広がっており、箝口令を敷くには遅すぎたと思うのみだった。


「若奥様がなされたことは、我々にとってあまりに衝撃的でした。知った者が口を閉ざすなどできないでしょう。大旦那様は、高圧的な言動と大柄な体躯により凄まじい威圧感がございます。今まで女性を含めた弱き者達に暴力や権力を振りかざすことなどありませんでしたが、怒らせれば分かりません。激怒と荒ぶる姿も見たことはありません。だからこそ、若奥様の対応が皆を非常に驚かせたのです」


胸が張ったこともあり、ドレスの胸元の合わせを開いて娘のテオドラに乳を飲ませる。腕の中にいる彼女が懸命に吸い付く様に活力を感じて、プルデンテの表情は緩んでいた。

乳を与え続けたまま、控えているシエナと言葉を交わす。


「母を侮辱されて怒るなど当然のこと。お相手が誰であろうとも、お詫びをしていただくまでは引くつもりはありませんわ」


「若奥様は、その・・・ご容姿に反してお強い方でしたから。それを我々を含めた領民は驚き、困惑しているのです」


「強くはありません。もしバジーレ辺境伯が怒りから拳を振るわれたら、対人格闘などしたことのない私には対処ができません。恐れはありました。ただ、烈火と燃え上がる心を御すことができなかった。聞き流し、身を引いてしまっては母の名誉を守ることはできません。だから奮い立って抗議をしたまでのこと」


「それはお強いというのです」


乳から口を離したテオドラは自らゲップをした。しっかりと飲んだことを確認したことで、プルデンテは体を左右に揺らし、娘の眠気を誘発する。


「テオドラお嬢様がお眠りになりましたら、揺り籠にお預けします」


「ええ、お願いします」


すでに生まれて五ヶ月。テオドラはあまり笑わないが、周りの景色や物に興味が強い。手足を動かしながらしきりに首を回して、丸くなった目で見つめる。

だが、揺れとプルデンテの温もりに、美しい青を湛える瞳の目が蕩けていく。完全に周りへの好奇心よりも眠気が勝った彼女の目蓋は、ゆっくりと閉じた。成長によって柔らかな髪は豊かになり、煌めく銀だと分かった髪を手櫛で梳かす。

王家の色を持つ愛しいテオドラの寝顔を見つつも思うのは、義父のバジーレ辺境伯のこと。

隣国の侵攻を警戒すると理由をつけて国境線に駐在していた彼は、テオドラの出産を境に定期的に城塞に戻って来るようになった。臆しないプルデンテを警戒してか、言葉こそ交わさない。だが、見かけることは儘ある。

本日は雲があることで陽光が和らいでいる。テオドラを日光浴させるべく、滑車付きのベッドで中庭に出た。外が見えないことで不満だったのか、声を上げた彼女を抱き上げた。そのときに、建物上階の窓からバジーレ辺境伯が見下ろしていると気付いた。

彼はプルデンテと目が合っても慌てず、ひたすら彼女を、抱き上げたテオドラを見ていた。何か思うことがあるのだと分かるが、直接顔を合わせないために何も聞かない。出産のときのように、バジーレ辺境伯自らが出向いてくることもなかった。


(浮かべている表情から察するに、怒りや嫌悪という負の感情は抱かれていない。王家そのものという容姿のテオドラであるのに、私に向けた嘲りをこの子に向けはしない)


考え至ることで、抗議するようなことではないと決めた。

たた、もしバジーレ辺境伯がテオドラに負の感情を向けられたのなら、母に対するものと同じく決して許すつもりはなかった。

徹底抗戦すべく、常に気を張って、与えるべき言葉も決めている。


「若奥様」


考え耽ることで険しい表情となったプルデンテ。今はテオドラと穏やかに午後の時間を過ごすべく、自室に籠もってう。

その部屋に彼女付きではない侍女が入室する。敬礼と頭を下げた侍女は、足早に近付くと身を寄せて、密やかな声で呼びかける。


「国境線より旦那様がお戻りになりました。夜半は若奥様と過ごすとのことです」


「分かりました。ただ、まずはお出迎えをしなければいけませんね」


アストゥートの帰還に引き締めていた気持ちは緩み、安堵から口元も緩めてしまう。

二番目の姉スプレンディドの功績もあって隣国からの侵攻はかなり減少している。それでも月に一度は斥候部隊が侵入するようで、彼は撃退と捕縛のために戦闘区域である国境線に向かう。

本日は一週間経っての帰還日。すぐにアストゥートと再会すべく、テオドラを起こさないようにそっとシエナに渡した。側に引き寄せていた揺り籠に寝かされる姿を確認すると、プルデンテは自室をあとにする。




「おかえりなさいませ、アストゥート」


もはや敬称を付けることはない。彼女の出迎えに、軍服姿のアストゥートは両手を広げた。身を寄せたプルデンテがその胸にしがみつくように抱き着けば、二本の腕が巻き付くことで抱き締められる。


「ただいま帰りました、プル・・・」


見つめ合ったのは一瞬で、お互いに顔を寄せてキスをする。

すっかり安心感を得て身を預けるプルデンテ。人目を憚らずに見せつけるアストゥート。

以前は怪訝な表情で二人を見ていたバジーレ家内の者達は、いつものことだと呆れ、微笑ましいと微笑みを浮かべていた。

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