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3)ので、贈り物をしようと思いましたがご迷惑だったようです

その日の邸の庭も、とてもきれいに整えられていました。結婚してから日課になったお花の手入れにも気合が入ります。いつもは庭師のベンとお世話をするのですが、なんとベンは今朝ぎっくり腰になってしまったとのこと。代理を探す時間もなく、ベンの孫のジョーが代わりに来ていました。

「じいさんに鍛えられているので」とにっかり笑うのも納得の知識と軽快な話口調で、お花についていろいろと教えてくれました。そんな楽しい時間の終わりに彼は、今日咲いたばかりの5本のバラをくるっとまとめて軽くリボンで留めて「これ、奥様から旦那様に渡してみてください」と手渡しました。

何度も庭の花の話を旦那様にしていたのに、そのお花をプレゼントするなんて思いつきもしませんでした。

「とっても素敵だわ!ありがとう!」

旦那様は喜んでくれるかしら。こんなにきれいに咲いたのだもの、きっと喜んでくれるわね。すっかり気持ちが高まったわたしは、そのお花をつぶさないように、そうっと抱きしめました。


まだ細かい調整をすると言うジョーに手を振って、旦那様のお部屋に行こうと館の方へ足を向けた時、窓辺に旦那様の影が見えました。

早速花束を渡そうと一歩踏み出した時、わたしは気が付いてしまいました。旦那様がこちらを、見たこともない険しいお顔で見ていることに。

思わず立ちすくんだわたしに声をかけることなく、彼はすっと窓辺からいなくなりました。

花束を旦那様に贈る勇気がすっかり粉々になったわたしは、自分の部屋にそのバラを飾ることにしました。庭では艶やかに咲いていたバラも、心なしかしょんぼりとしているように見えて、わたしの心は更に沈み込みました。


結婚してから、いいえ、出会ってから初めての旦那様の態度を回想しながら、わたしは反省しました。

旦那様には想う方がいるのです。そのことを知っているのに、最近のわたしはすっかり舞い上がっていたことにようやく気が付いたのです。もしかして知らず知らず、旦那様への好意が漏れ出ていたのかもしれない、と。それは旦那様にとって迷惑なものでしかないのでしょう。

気が付いてしまうと旦那様のお顔を見るのが怖くて、ご一緒する約束をしたランチを断ってもらうよう侍女に伝えました。

部屋を出て行った侍女を見送りぼんやりとバラを見ていると、扉が軽くノックされました。

「メイ、気分がすぐれないと聞いたけれど、大丈夫かい」

そう言いながらそっと部屋に入ってきた旦那様は、わたしの目の前のバラを見て目を見開きました。それからそのバラをそっと持ち上げると、侍従に渡してしまいました。

思わず「あ、」と声を上げたわたしの瞳を覗き込んだ旦那様は、「あれは呪われているから、処分しなくては。別の花を贈るから、許してほしい」と諭すように言いました。旦那様への贈り物が呪物扱いされたという事実に愕然としている間に、旦那様は心底辛そうに「ごめんね」とだけ言って部屋を出ていきました。


それほどわたしからの贈り物は迷惑なのでしょうか。思えば、わたしが度々渡す贈り物を、旦那様が使ったり身に着けたりしているところを見たことがありません。最初はいただいた物のお礼として儀礼的に、最近では旦那様に少しでも喜んでほしいという気持ちも込めて、折に触れて渡した贈り物は少なくありません。

想い人以外からの贈り物など迷惑なだけだったのでしょうか。

旦那様と結婚して、図らずも旦那様に恋をしました。旦那様は優しく接してくれて、それだけでわたしは幸せでした。でも、想いは日に日に膨らんで、それだけでは飽き足らず、愛されたいと思ってしまうようになりました。旦那様の優しさを、”もしかして旦那様も憎からず思ってくれてるのかしら”などと勘違いしていました。

だけど、旦那様は違ったのです。いまだ、その想い人ただひとりを思い続けているのです。

胸をぎゅーっと締め付けらるような思いの中、わたしは義妹(シャル)に手紙を書きました。

ただ一言、「逃げたい」と。

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