2)のに、妻にも誠実で大層素敵な方でした
旦那様は、想い人がいても妻に親切な方でした。
お仕事帰りには小さなお土産を贈ってくださり、食後にはわたしとの時間を設けて「その日何をしたのか」「困ったことはなかったか」と聞いてくれます。わたしは、その日のお茶請けが美味しかったことや、お庭のバラがつぼみをつけたこと、その日読んだ小説の感想などを思いつくがままに話します。もちろん困ったことなどなく、旦那様や使用人に感謝していることも。
お仕事の後でお疲れでしょうに、たわいのないわたしの話をいつでもにこやかに聞いてくれます。そして最後に必ずこうしめるのです。
「貴女が穏やかに過ごせたようで良かった。明日もまた、こうして話を聞かせてもらえると嬉しい。おやすみメイ、良い夢を」と。まるで、尊い詩の一節を聞いたかのような笑顔で。
旦那様は、想い人がいても妻に優しい方でした。
今やっている歌劇に興味があると話した次の日には、そのチケットと共に新しいデイドレスを贈ってくれました。
当日わたしの姿を見た旦那様は、「よく似合っている。まるで春の妖精のように可憐だ」と褒めてくれました。
鑑賞後に感想を語る中で「想い合う二人が、お互いの色の石を身に着けているシーンが素敵だった」と話すと、宝石商を呼んでくれました。そして何と!わたしの色の石のピアスが、旦那様の耳に光ることとなりました。思い合う二人ではないのにいいのかしらと思ったことは、そっと胸に秘めました。だって嬉しかったのですもの。
旦那様は、想い人がいても妻に心を砕いてくださる方でした。
わたし達の邸は王都の真ん中にあるのですが、わたしの実家は地方の緑豊かなところにあります。わたしが故郷が恋しくなった時に緑に触れられるよう、邸近くの丘にこじんまりとしたお屋敷を建ててくれました。そしてそのお屋敷に行くときには、必ず付き添ってくれるのです。
社交が苦手なわたしのためにお茶会は断ってくれて、夜会の際には決してわたしから離れず妻として尊重しているのだということを周知するようにしてくれます。その夜会に参加するときの衣装はいつも旦那様の色がちりばめられていて、お揃いに憧れたわたしの言葉を覚えてくれているのだと少し嬉しくなります。
旦那様は、想い人がいても妻にとって大層素敵な方でした。
わたしの話を聞いてくれる時のにこやかなお顔。お仕事をしている時の凛々しいお顔。お仕事帰りの少しお疲れのお顔や、入浴後の少し艶っぽいお顔。
そのどれもが素敵で、その瞳に自分が映るだけで胸が高鳴ります。
そう、わたしは「愛さなくてもいい」と言われたにもかかわらず、旦那様を好ましく思うようになってしまったのです。
ただ何となく妻に納まったわたしにも、まるで最愛の妻かのように接してくれる旦那様。そんな方を愛さない方が難しいというものでしょう。
わたしは幸せでした。本当に。
たとえ大好きな旦那様の心に、わたしではない想い人がいるとしても。




