【おまけ】三下下三のグルメ録
最近忙しいので、本編までのお茶濁しです。※本編とは関係ありません。
はぁ……。今日も、仕事疲れたなあ……。はぁ……どうせ、帰っても妻も子どももいなしし、固頭教頭は人使いが粗いし、大体、教頭補佐ってなんだよ! 教頭補佐についても、全然、給料が変わらないじゃないか! 「あの方」の命令も完遂することはできなかったし、手持ちのお金も500円……寂しい……。私は、本当になんのために生きているのだろうか……。
もうなにもかも今日はやる気がなくなった私は、晩御飯はどこかで一品たべることにした。さて、どこか良い店はないだろうか……? お! あそこなんて良いんじゃなかろうか。なになに……小料理屋「雲郷」? 嫌な名前だ……。だが、見た目の丁度良いボロボロさ、看板のチープさといい、雰囲気はなかなか良いのではなかろうか? あと、安そうだし。よし、「雲郷」に入ろう。
「雲郷」に入った私を待ち構えていたものは、白髪の大将の「いらっしゃいませ。」という、落ち着いた声と、わずかな数の客の、小さな声の世間話であった。店の内装としては、テーブルが3つと、カウンター席がわずかにあり、メニューは壁に貼ってある。ふむ。なかなか、良い雰囲気だ。悪くない。だが、大将と店員が1人働いているが、あの店員は外国人の方だろうか? 白金色の髪と青い眼を持っているが。まあ、そんなことはどうでも良いか。私は、カウンターにでも座るとしよう。
「ご注文は決まっていますか。」
と、白髪の老年の大将が、座っておしぼりで手と顔を拭いている私に聞いてきた。ちなみに、おしぼりは、店員の子が持ってきてくれた。
「今、手持ちで500円しか、無いのですが、何か良いメニューはないですか?」
と私は大将にそう聞いた。手持ちが500円しかないということを言うのは恥ずかしかったが、事実であり、なおかつ大将に聞いた方がよりオススメのものを食べられると思ったので、聞いた方が良いと思ったのである。
「なるほど……。では、日本酒と一品料理のセットなんていかがでしょう?」
ほお、日本酒と一品料理のセットか……。お酒も飲めるとはな……。仕事の疲れを、冷酒でさっぱりと流すとしようかな……。料理はまあ、日本酒にあったものがくるだろう。
「では、それでお願いします。日本酒は冷やでお願いします。」
と言った、私に
「かしこまりました。」
という言葉が大将から返ってきた。
「お待たせ致しました。一品料理の『筑前煮』になります。」
そう言って、中鉢に入れられた筑前煮を私の前に置いた。ほお、筑前煮か。見た目としては、やや濃い目の印象だ。薄口ではなく、濃口で味付けをしたのだろう。どれどれ……具材は……? 鶏もも、にんじん、しいたけ、こんにゃく、蓮根、たけのこ、絹さや……あと、ちくわ!? ほお、筑前煮にちくわとは中々珍しいな。濃口醤油で味付けされたであろう、ちくわはよく味が染みたであろう色をしていた。
「こちらは日本酒になります。『八海山 吟醸』です。」
店員の子が、一合枡と冷酒用のグラスと共に、日本酒を持って注いでくれた。八海山とはありがたい。500円で、この量の一品料理とこのクラスの日本酒を飲んでしまってもよいのだろうか……。安い値段設定がなされているな……。おっとっと、安さに感慨に耽っている場合ではない。とりあえず、食べよう。料理は冷めてはいけなし、日本酒がぬるくなってしまっては冷やを頼んだ意味がない。
そして、私は筑前煮に箸をつけ、口に運び、食べた。さて、その食べた感想なのだが
う、うまい!
全体的に味が染みており、なおかつ具材本来の味は損なわれてはいない。鶏ももは鶏本来の旨味が活きているし、たけのこの風味も中々小憎い演出をしている。蓮根やたけのこの歯ごたえは素晴らしく、にんじんや絹さやの彩りは筑前煮の味をより深いものとしている。だしは、しいたけの戻し汁だろうか? だしの旨味、香り、深み、どれをとっても素晴らしい。さて、気になるのはちくわだろう。こいつが、かなり美味いのだ。甘辛く味付けされたちくわは、よく染みており、安物だろうが、口の中でかなりの存在感を現している。また、この甘辛いちくわが、日本酒の旨味をより引き出すのだ。吟醸酒のさらりとしたフルーティな味わいは、この濃い目に味付けされた筑前煮にはよく合う。また、日頃の鬱憤やストレスを、そのさらりとした飲み口で流してくれるのだ。
「こ、これは本当に500円なのですか!?」
あまりの、満足感、美味しさに、私は思わず、少し大きな声でそう聞いてしまった。店員の若い娘や常連客風の人たちは一瞬、目をぱちくりさせたが、また元の状態に戻っていった。
「ははは……。正直、厳しいです。ですが、何分、私の趣味でやっとるものなんで、その辺は調整が効くのですよ。」
大将が笑いながら、そう答える。調整……。もしかして
「少し、負けてくださったのですか? なぜ……?」
私は、どうもついつい思った事がすぐ口にでてしまうらしい。思った時にはもう、声にでてしまっていた。
「いやぁ~。野暮なことをお聞きなさるな。まあ答えてしまうと、お客さん、随分、疲れた顔をなさっていた。それを、癒してあげたい。喜ぶ顔が見たい。という、理由では不十分ですかな?」
大将はまた、明るい笑顔でそう答えてくれた。喜ぶ顔が見たい、か……。そうか……。
お代の500円を置き、私は店を後にした。後にする際、大将が「もし、次来るならば、モロヘイヤ料理を振る舞いますので、ぜひ来てくだされ。」と言っていたが、よくわからなかったので、とりあえず笑っていた。私は舌先三寸などが、得意なのである。「下三」は「舌三」の意味であるとつけられたこともあるぐらいだ。それにしても、喜ぶ顔か……。秋風校長の山で採れた栗で栗金団を作った時、雲郷君や職員一同が喜んでいたな……。まったく、固頭教頭も隠れて食べていたな。ダイエット中と言っていたのに。みんな、笑顔で食べててくれたな……。また、作ってやるか……。
現実は中々厳しいが、人は案外誰かの笑顔で頑張れるかもしれない。ということを思った、三下教頭補佐技術科教員なのであった。
ちくわって美味しいですよね。




