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第1話 異世界の常識

「あ~あ、腹減ったなあ……」


 山田和也は会社のビルを出ると、大きく伸びをした。


 今日も残業だった。


 時計を見ると、午後九時を回っている。


「帰ってから飯を作るのも面倒だし、何か食って帰るか……」


 駅前の繁華街へ向かって歩き出した、そのときだった。


「……ん?」


 突然、目の前が真っ暗になった。


 街灯も、店の明かりも、行き交う人々の姿も消えている。


「な、何だ、これ?」


 慌てて振り返る。


 しかし、後ろも真っ暗だった。


「お、おい! 誰かいませんかあ!」


 返事はない。


 足元さえ見えなくなった。


「ちょ、ちょっと待ってくれよ! 俺、何もしてないぞ!」


 その瞬間、身体がふわりと浮き上がった。


「……え?」


 そして、真っ逆さまに落ちていった。


「うわああああっ!」


     * * *


「ぶべっ!」


 山田は、硬い床に顔から落ちた。


「い、いててて……」


 鼻を押さえながら、ゆっくりと顔を上げる。


「……へ?」


 そこは、見たこともない大広間だった。


 高い天井に、豪華なシャンデリア。壁には巨大な絵画が並び、床には赤い絨毯が敷き詰められている。


 山田のすぐ後ろには、大きな鏡が二枚、向かい合わせに置かれていた。


 そして、周囲には大勢の人間がいた。


「おおっ! 出てきましたわ!」


「本当に成功しました!」


「まさに書物に書いてあったとおり!」


 華やかな衣装をまとった女性たちが、口々に歓声を上げている。


「…………」


 山田は、ぽかんと口を開けた。


(な、何なんだよ、ここ……?)


 そのとき、広間の奥から澄んだ声が響いた。


「ふむ……」


 山田は声のしたほうを見た。


 大きな玉座に、一人の女性が腰を下ろしていた。


 艶やかな金髪に、宝石を散りばめた黄金の冠。深紅の衣装をまとったその女性は、息をのむほど美しかった。


 年の頃は三十前後だろうか。


 すらりとした肢体に、端正な顔立ち。切れ長の瞳には鋭い知性が宿り、ゆったりと肘掛けに手を置く姿には、周囲の者を自然と従わせる威厳があった。


 山田がこれまでに出会ったことのない、凜とした美しさだった。


(う、うわ……すげえ美人……)


 山田が思わず見とれていると、女性が口を開いた。


「満月の夜、合わせ鏡を用いれば異世界人を呼び出せるとあったが……今度は、どのような者じゃ?」


 女性は興味深そうに山田を見下ろした。


「そなた、名は何と申す?」


「えっ? あ、山田です! 山田和也といいます!」


「ヤマダカズヤか。変わった名じゃのう」


「あ、あの……ここは、いったい……?」


「ビヤークネス王国じゃ。妾は、この国を治めるローレンツという」


「じょ、女王様!?」


 山田は慌てて床に頭を下げた。


「よい。恐れずともよい」


 女王は小さく笑った。


「我らは、こうして時折、異世界から人を招き、新たな知識を得ることに努めておる」


「そ、そうですか……。でも、俺、ただのサラリーマンで、何も特別なことは……」


「ふむ。まあよい」


 女王は傍らの兵士に視線を向けた。


「身体検査へ連れてゆけ!」


「はっ!」


「えっ!? ちょ、ちょっと待って! な、何をするんですか!?」


 進み出てきたのは、小柄でかわいらしい二人の若い女性だった。


 二人とも、山田が思わず見とれてしまうほど整った顔立ちをしている。


「大丈夫よ。怖いことなんてしないから」


「そうそう。ちょっと調べるだけ」


 一人が山田の右腕を、もう一人が左腕を取った。


「あ、あはは……そ、そうですか……」


 山田は少し相好を崩した。


(な、何だよ。結構いいところじゃねえか……)


 そう思ったのも、ほんの束の間だった。


     * * *


「ちょ、ちょっと! そ、そんなところまで調べるんですか!?」


「さっさと観念して、全部見せなさい!」


「ひ、ひいいっ!」


 二人に取り押さえられ、ついに最後の一枚が、はらりと落ちた。


「ま、まあ! ずいぶんと大ぶりな!!」


「これは、ちゃんと測ってご報告ね」


「ああっ♡」


     * * *


「女王陛下。検査の結果が出ました」


「どうじゃ?」


「この男は、我が国の男性と身体的に何ら変わりません。脈力もゼロでございます」


「ふむ……そうか」


 ローレンツ女王は、少し残念そうな顔をした。


「異世界から来たというのに、特に変わったところはないのかのう」


「え、ええっと……」


 山田はおそるおそる口を開いた。


「一応、俺、身体は結構鍛えているんですけど……」


「ほう?」


 女王が眉を上げた。


「ならば、少し試してみるか」


     * * *


 山田は、王宮の鍛錬場へ連れてこられた。


 そこには、見慣れた握力計や、ベンチプレス用の器具に似たものが置かれていた。


「まずは握力を測ってみよ」


「はい!」


 山田は握力計を握りしめた。


「ふんっ!」


 六十キロ。


「へっへ~!」


 山田は得意満面だった。


「こう見えて、俺、結構鍛えているんですよ!」


 続いてベンチプレス。


「ふんぬっ!」


 七十五キロ。


「どうですか! なかなかのものでしょう!」


 山田は胸を張った。


 しかし、女王は小さくため息をついた。


「まったく……異世界の男とは、その程度なのかのう……」


「……へ?」


「そこの者!」


「はっ!」


 女王に呼ばれて、一人の女性兵士が進み出た。


 細身で、山田よりもずっと華奢に見える若い女性だった。


「少し実演してやれ」


「かしこまりました!」


 女性兵士は握力計を手に取った。


 軽く握る。


 五百キロ。


「…………は?」


 続いて、ベンチプレスの台に横たわった。


 兵士が持ち上げた重量は、一・五トン。


「…………」


 山田は目を見開いたまま、動かなかった。


「ふむ。一般兵士としては、まずまずじゃな」


「お恥ずかしゅうございます」


 兵士は一礼すると、元の位置に戻った。


(な、なんだよ、これ……)


(あの細いねーちゃんが、五百キロ!?)


(しかも、一・五トンって……何かの間違いだろ!?)


 女王は呆然とする山田に目を向けた。


「我ら女は、脈力を持つ。男にはそれがない。ゆえに非力なのじゃ」


「…………」


「そなたが十人束になろうと、あの兵士一人にもかなうまい」


 女王は淡々と続けた。


「ましてや、妾や姫騎士の前では、塵芥も同然じゃ」


「…………」


 山田は何も言い返せなかった。


「よい! 誰か、この者を街へ案内せよ。沙汰は追って伝える」


「ははっ!」


 兵士たちが一斉に膝をついた。


 山田も慌てて、その場に平伏した。


     * * *


「へえ……」


 王宮を出た山田は、物珍しそうに街並みを眺めていた。


 石畳の道に、木造の店が軒を連ねている。路面電車のような乗り物が走り、道端では商人たちが声を張り上げていた。


(なんか、昭和の初めごろの日本みたいな感じだな……)


 建物も乗り物も、どこか懐かしい。


 ただし、決定的に違うところがあった。


「よいしょっと!」


 道端で、若い女性が巨大な荷物を肩に担いだ。


 山田なら持ち上げることすらできないだろう。


 別の場所では、女性の職人が太い鉄材を軽々と運んでいる。


 一方、店先で帳簿をつけているのは男性だった。


(……やっぱり、力仕事は女ばっかりなんだな)


「どうじゃ? 珍しいか?」


 隣を歩いていた女性兵士が尋ねた。


 先ほど、握力五百キロを叩き出した女性である。


「ええ、まあ……」


「そうか。せっかくじゃ、面白いところへ案内してやろう」


「面白いところ?」


「動物園じゃ」


「動物園?」


 山田は少し顔を明るくした。


     * * *


「へえ~。なかなかいいところですねえ」


 動物園は、街外れの広大な敷地にあった。


 ウサギや小動物たちが芝生の上を自由に走り回り、来園者たちが思い思いに触れ合っている。


(日本のふれあい動物園みたいなもんか……)


 ところが、少し奥へ進むと、山田はぎょっとした。


「……え?」


 木立の向こうに、巨大なクマがいた。


 そのさらに奥には、トラの姿まで見える。


「あ、あの……兵士さん……?」


「何じゃ?」


「あれ、クマですよね……?」


「そうじゃな」


「トラもいますよね……?」


「おるな」


「……放し飼いなんですか?」


「そうじゃが?」


「…………」


(い、いやいやいや! そうじゃが、じゃねえだろ!)


 兵士は平然と歩いている。


 山田は、なるべく猛獣から離れようとした。


 そのときだった。


「……グルルル……」


 木陰から、一頭のトラが姿を現した。


 山田をじっと見つめている。


「……ん?」


 次の瞬間。


「ガアアアアッ!」


「うわああああっ!」


 トラが山田に飛びかかってきた。


 しかし。


 ドゴッ!


 女性兵士の拳が閃いた。


 トラはその場に崩れ落ち、動かなくなった。


「…………」


 山田は、口を開けたまま立ち尽くした。


 さらに、背後の茂みが大きく揺れた。


「グオオオッ!」


 今度はクマだった。


「く、クマまでえええっ!」


 巨大な前脚が振り下ろされる。


 ドゴッ!


 こちらも、兵士の一撃で地面に倒れ込んだ。


「ふむ。まったく……」


 兵士は拳についた土を軽く払った。


「たまに、こういう愚かな獣がおる」


「…………」


「本当に手ごわいクマなら、我らの気配を察して、巧みに身を隠すものなのだがな」


(……は?)


(クマのほうが、このねーちゃんを怖がってるってことか……?)


「す、すみませええん!」


 そのとき、動物園の女主人らしい女性が、真っ青になって駆け寄ってきた。


「へ、兵士様! 申し訳ございません!」


「動物のしつけは、きちんとしておけ! 男がけがをしたらどうする!」


「は、はいっ! まことに申し訳ございません!」


 女主人は周囲を見回すと、小さな袋を差し出した。


「あ、あの……この件は、どうかご内密に……」


「ははっ!」


 兵士は笑った。


「こんなものはいらん。けが人もなかったのだ。今後は気をつけてくれ」


「へ、兵士様! ありがとうございます!」


 女主人は何度も頭を下げた。


 兵士は山田に向き直った。


「大丈夫か?」


「は、はい……」


「そうか。では、もう少し見て回るか?」


「い、いえ! もう十分です!」


「はははっ! そうか!」


 兵士は愉快そうに笑った。


 山田は、あらためてその横顔を眺めた。


 細身で、顔立ちも整っている。


 どう見ても、普通の若い女性にしか見えない。


「あ、あの~……」


「何じゃ?」


「兵士さんって、ものすごくお強いんですね……」


「強い? 私が?」


 兵士は一瞬きょとんとして、それから吹き出した。


「ははははっ! 何を言っておる!」


「……へ?」


「我らが何人束になろうと、姫騎士様の足元にも及ばぬ」


「…………」


「ましてや、女王陛下など……」


 兵士はそこで言葉を切った。


「……まあ、そなたには想像もつくまいな」


「…………」


 山田は、先ほどのトラとクマを思い出した。


(あれより、もっと強い女がいるのか……?)


(しかも、何人束になってもかなわないって……)


「どうじゃ? 楽しめたか?」


「え、ええ! とても! ありがとうございました!」


 そのとき、チリン、と小さなベルが鳴った。


「む?」


 兵士が腰から小さな箱を取り出した。


 トランシーバーのような形をしている。


「こちら、王宮警備隊。……うむ、承知した」


 箱をしまうと、兵士は山田に向き直った。


「山田。女王陛下が、再び謁見をお許しになるそうじゃ」


「えっ?」


「王宮へ戻るぞ」


     * * *


「ふむ。街はどうじゃった?」


 ローレンツ女王は、玉座に腰を下ろしたまま尋ねた。


「は、はい! とても楽しかったです!」


「それは何よりじゃ」


 女王は満足そうに微笑んだ。


「さて、そなたの処遇についてじゃが……」


「は、はい……」


「異世界から来た以上、我らの知らぬ力を秘めているやもしれぬ」


「……へ?」


「そこでじゃ」


 女王は、ゆっくりと身を乗り出した。


「そなたには、第28姫騎士エルニーニョと戦ってもらおう」


「ええええっ!?」


 山田は思わず声を上げた。


「た、戦うって……俺がですか!?」


「無論じゃ」


「で、でも、さっきの兵士さんにも、俺なんか全然かなわないって……!」


「ふふふ。だからこそ、未知の力があるかどうかを試すのじゃ」


「そ、そんなあ……!」


「安心せよ。試合での殺傷は禁止じゃ。降参、あるいは場外で勝敗を決する」


「……は、はあ」


「そして、そなたが勝ったなら、このビヤークネス王国内で自由に過ごすがよい!」


「ほ、本当ですか!?」


「うむ」


 女王はうなずいた。


「じゃが、負けた場合は……」


 そこで、女王は何かを思い出したように口元を緩めた。


「そういえば……身体検査で、一つよいことがあったのう……」


「……え?」


 女王が、ニヤリと笑った。


「負ければ、そなたには一生、王宮で姫騎士たちの慰み者となってもらおう!」


「ひ、ひいいいいっ!」


 山田は大げさに身を縮めた。


(……慰み者?)


(な、何をさせられるんだ?)


 山田は、玉座の近くに控える美しい女性たちをちらりと見た。


(……まあ、そんなに悪くないのかもしれねえけど……)


(でも、一生王宮から出られないってのもなあ……)


(……よし。けがをしない程度に、頑張ってみるか)


「わ、分かりました! 頑張ります!」


「うむ。よい返事じゃ」


 女王は満足そうにうなずいた。


「では、まずは姫騎士の実力を見ておくがよい。ちょうど昇格試験が行われるところじゃ」


「しょ、昇格試験……?」


     * * *


「これより、第28姫騎士位への挑戦試験を行う!」


 王宮の広大な鍛錬場に、試験官の声が響き渡った。


「挑戦者! 兵士ダイポール! 前へ出よ!」


「ははっ!」


 一人の女性兵士が進み出た。


 すらりとした長身に、引き締まった身体。


 その顔には、自信が満ちあふれていた。


「この日のため、エルニーニョ様に勝つべく、拳を極めて参りました!」


 ダイポールは堂々と宣言すると、鍛錬場に置かれた巨大な岩の前に立った。


(……ん? 何をするんだ?)


 岩は、山田の背丈ほどもある。


 ダイポールが静かに構えた。


「はあっ!」


 ドゴオオッ!


 凄まじい音とともに、岩が砕け散った。


「…………!」


 山田は目を見開いた。


(ば、化け物だ!)


(あんな拳を食らったら、俺なんか一発で死んじまうぞ!)


 砕け散った岩が、鍛錬場の床に降り注ぐ。


(……ま、待てよ?)


(あの女、姫騎士に挑戦するんだよな?)


(こ、これは、エルニーニョもやられるんじゃねえか!?)


 山田は、対戦相手の第28姫騎士へと視線を移した。


 エルニーニョは、鮮やかな赤い髪をなびかせた、美しい女性だった。


 細身でしなやかな体つき。自信に満ちた目元と、堂々とした立ち姿が印象的だった。


 彼女は砕け散った岩を眺めると、小さくため息をついた。


「……ふむ」


 そして、何も言わずに鍛錬場の奥へと歩いていった。


(……ん?)


 やがて戻ってきたエルニーニョは、先ほどよりもさらに大きな岩を抱えていた。


 しかも、一つではない。


 巨大な岩を次々と運び、鍛錬場の中央に並べていく。


(お、おいおい……)


 山田は呆然とした。


(あんなもん、どうやって持ち上げてんだよ……)


 エルニーニョは岩を並べ終えると、ダイポールに向き直った。


「よく見ておけ」


 静かに拳を構える。


「はりゃあっ!」


 次の瞬間。


 ドドドドドッ!


 轟音が響いた。


 山田には、何が起きたのかまったく見えなかった。


 ただ、エルニーニョが拳を繰り出したかと思うと、並んでいた巨岩が一斉に砕け、砂のように消し飛んだのである。


「…………」


 鍛錬場に、細かな石の粉が舞っていた。


 ダイポールの顔から、血の気が引いていた。


 エルニーニョは拳を下ろすと、口角を上げてニヤリと笑った。


「極めるとは、こういうことだ!」


「…………!」


「手合わせしてもよいが、どうする?」


 ダイポールは、しばらく動かなかった。


 やがて、がくりと膝をついた。


「ま、参りました……!」


 深々と頭を下げる。


「私の修練など、まだまだ未熟でございました……!」


「うむ。励むがよい」


 エルニーニョは満足そうにうなずいた。


 試験官が右手を上げた。


「勝者、エルニーニョ! 第28姫騎士位、防衛!」


 わあああああっ!


 周囲から歓声が上がった。


 だが、山田の耳には、もう何も入ってこなかった。


「…………」


 へなへなと、その場にへたり込む。


 ズボンの前が、ほんの少し温かくなった気がした。


(……う、嘘だろ……)


(あんなのと、俺が戦うのか……?)


 先ほどダイポールが粉砕した岩だけでも、とんでもない怪力だった。


 そのダイポールを、エルニーニョは一度も戦わずに降参させてしまった。


 しかも、あれで王国第28位。


 姫騎士の中では最下位なのだ。


(……じょ、冗談じゃねえ!)


(あんな拳を一発でも食らったら、俺なんか跡形もなく消し飛ぶぞ!)


 山田は震える両手を見つめた。


(ど、どうするんだ、俺……!)


(し、死ぬしかねえのか……?)


 そのとき、試験官の声が再び響いた。


「異世界人、山田和也!」


「ひ、ひゃいっ!」


 山田は慌てて顔を上げた。


「そなたと第28姫騎士エルニーニョとの試合は、一週間後、王立闘技場にて執り行う!」


「…………」


「双方、試合に備えて励むがよい!」


「は、ははーっ!」


 エルニーニョは堂々と一礼した。


 一方の山田は、床にへたり込んだまま、かろうじて頭を下げた。


(……一週間)


(たった一週間で、あんな化け物に勝つ方法を考えろっていうのか……?)


     * * *


 その夜。


 山田は、王宮の一室で頭を抱えていた。


「ああああ……どうすりゃいいんだよ……」


 ベッドに寝転がり、天井を見上げる。


 昼間に見た光景が、何度も頭をよぎった。


 巨大な岩を、砂のように消し飛ばしたエルニーニョ。


「あんなのに勝てるわけねえだろ……」


 山田は大きくため息をついた。


「……何かねえのかよ」


 ぽつりとつぶやく。


「せっかく異世界に来たんだから、魔法とか、特殊能力とか……」


 そのときだった。


 ぽんっ。


「……ん?」


 突然、目の前に半透明の画面が浮かび上がった。


『能力一覧』


「…………」


 山田は、ゆっくりと身を起こした。


「……え?」


 画面には、十個ほどの項目が並んでいた。


「お、おおおっ!」


 山田は跳ね起きた。


「これだよ、これ! 異世界っていったら、やっぱりこれだろ!」


 興奮しながら、一番上の項目に目を通す。


『五分間念を送り続けると、対象女性が背中をかいてくれる』


「…………」


「……ん?」


 山田は、もう一度読み直した。


『五分間念を送り続けると、対象女性が背中をかいてくれる』


「…………」


「何じゃこりゃああああ!」



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