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其の十九 彗星(2021年6月)

ユダが掲示板に晒したスクショ。

そこにあるなつきの「(MMの)声も聞いたことあるもん!!!」という一言が混乱を引き起こす。

そしてなつきにブロックされた1人の男は、静かな怒りに震えていた。

〈騒然〉

 「なつきの部屋」に対するユダの深夜の書き込み。なつきとのDMスクショが添付されたその投稿は、この部屋を訪れた者に衝撃を与えている。

 朝にもかかわらず、書き込みが増えていく。


匿名「何コレどゆこと?w」

匿名「MM君、職員室まですぐに来なさいもん!」

匿名「なつきってネカマじゃないん?」

匿名「声?声って?この人たちリアルありなの?」

匿名「顔見て声聞いてる。なつきがムキになってる気配だけど、MMってイケメンなの?お前らどうすんの?www」

 →匿名「もんもんもん!!!」

匿名「まさかMM、なつきの晒し情報から特定してリアル?だとしたらSPEC高くね?」

 →匿名「オマエも特定されるもん!w」

匿名「結婚式いつ?ここの住民も招待されるよね?」

 →匿名「参列メンバー濃すぎじゃね?」

匿名「何してる時の声ですかね?」

匿名「やはり昨年のクリスマス・・・」

 →匿名「恥じらってたな。それにバレンタインも。」

匿名「お前ら落ち着けw声ってだけよ?お2人ヤってるとは限らんwwwだよね?俺正しいよね???」

匿名「末尾もん!の破壊力。コレ来るなw確実に。」


 茶化すような書き込みから、怨嗟の声。賞賛の声まで。部屋はカオスの状態になり、書き込みも増え続ける。当然、MMに対する恨みつらみ。こちらも増えている。

 そして当然だが、ユダのスクショはなつきを守る者達にも衝撃を与えている。


 夜勤コンビニバイト明けのレジ袋。

「ざっけんなよ!?・・・いや。いいなぁ」


 混み合った朝の通勤電車で、「なつきの部屋」を見る玉三郎。あの日以来、書き込む者の中に玉四郎、玉五郎、玉七郎、挙句金玉三郎などのHNが増えており、彼は部屋を確認するのが日課になっている。

(昨夜はやたら伸びてるが、一族は現れてないか。下火になってくれよ、流石に。)

(!!!)

「やっぱ抱かれてんのか・・・なつき」


 早朝出勤し、休憩中にコーヒーを飲むマシリト。

(いやいやいやいやいやいや。)

(これ、昨夜のDMか?普通にヤバくね?)

 グルチャで彼と話しているなつきとMM。2人は、リアルの関係なのだろうか。SNSやネットの中での出会いについては、マシリトも当然認識している。なつきは晒されていたことから、一般的なケースより情報量は多いのかもしれない。

 それにしても、だ。

(なつきを落とすって、すげーな、Mさん。)

「俺。彼女いて良かった・・・」


 出勤後のセブン。

 「なつきの部屋」の状況を確認する。

 まずは味噌の惨劇。当人だけでなく相互の女性まで晒され、炎上しているようだ。

(DMでも言動には気をつけないとダメね。)

 その後も味噌関連の書き込みが続く。そして。

「・・・。」

(これはこれは。やはりDMでも言動には・・・もん!とは笑)


 なつきとの間では、DMは週一度程度。状況確認(なつきからは、「大丈夫」が大半)のみとなっていたセブン。

 MMとは週数回は連絡を取り合っていた。趣旨は当面の敵であった味噌や、フォロワーの大量解除、外部アダルトサイトの索敵状況など。

 Twitterだけでなく外部サイトからもなつきの情報はほぼ消され、事態は収束期。

 それでも索敵を続け、何かあれば即時に対応するMMに感心もしていた。

一方で、自身は守護者としての役割は終えつつある。そんな風にも考え始めていた。

 セブンはユダが晒したDMのスクショを黙って見つめている。


 そして暁。

 昨夜の味噌討伐後の一連の状況を確認するため、「なつきの部屋」を開こうとする。

(あれから100件近く伸びてるだと?味噌のヤツ更になんかしたのか?www)

 そして暁は伸びている原因を読み。

 そして脱力する。

(声?声ってなんだよwそれに、「もん!!!」て子供かwww)

(しかしそこまでの関係とはね。ここは素直に驚きだ。)

 暁は・・・動揺していない。

 はずはなかった。

「ざっけんなよ!?M君。やっぱイチャコラしてんじゃねぇかwwwwチキショーーーーーーーー。」

(有休で良かった。少し旅に出るか。)

 夢にはDMを送る。

暁:

起きてるか?「なつきの部屋」、見てみろ。


程なくして、夢から返信。

夢:

MM。絶許!!!!


 その一言だ。

(これは荒れるぞ。あの女も自ら燃料投下してどうすんのよ?)


〈嫉妬〉

 時刻は正午。

 彗星は散らかった部屋のベッドに寝転がり、スマホを見ている。ワンルームの部屋には数日前に食べた菓子パンの袋やコンビニの弁当、カップ麺。そうしたゴミも散乱している。

「仕事探す気にならないなぁ。」

 ぼんやりそんな事を考えながら、Twitterを開く。

 DM画面からある女性とのやり取りを開くが、ある夜を境にやり取りは止まっている。


 このユーザーはあなたをブロックしているため、このユーザーにはメッセージを送信できません。


「なんでよ?」

 呟きながらも、彼には心当たりもある。

 あの晩、なつきは大量にフォロワーを解除した。彗星もその際にブロックされたため、TLなどは見る事が出来ない。しかし、フォロー・フォロワーの数までは分かる。

 300人ほどいたはずの彼女のフォロワーは2桁まで減っていた。フォロワーを解除するにはブロックすることが基本だ(他に方法があるのかもしれないが)。

「俺は追い出された。いつもそうだ。」

 なつきとは毎日とまでは言わないが、やり取り出来ていた。Twitterを始め、様々な裏垢女性にリプやDMをしたが、反応はなかった。今日も朝から20名ほどの女性にDMしたが、反応はほとんどない。返事があるのは、出会い系に誘う長文のみだ。

 ある掲示板に晒されたなつきの垢。攻撃するようなDMを待つという掲示板の記載に合わせ、画像を送れ、とするDMを送信したみたところ、翌日になつきからの返事が来た。それ以来、少しずつだが交流してきたつもりだ。

「なのに、なぜ?なつき。」

 そう言いつつ、彼は分かっている。普段の彼は、穏やかな方だ。好きなアニメやゲーム、動画などの話をなつきとする事が多かった。なつきはアニメやゲームは分からない、と言っていたが、それでも話を聞いていてくれた。

 少なくとも彼はそう思っている。

 一方で、彼自身も自覚している二面性。

 自身が思うようにいかないと、怒りの気持ちが抑えられない。

例えばなつきからのDMの返事がなかった際、言いようのない不安と怒りにかられ、彼は何度もDMを送ってしまう。普段の彼とは異なる乱雑なDMだ。


彗星:

おい!いないのか!なんで無視してる?

彗星:

誰かと話してるのか?俺は後回しか?返事しろよ!

彗星:

嫌だとか言いながら、またエロサイトで遊んでんのか?だから返事出来ないんだろ?

彗星:

まーた。MMか?アイツはお前の何なんだよ!


 彗星は、それらの過去に送ったDMを見ながら、ため息を吐く。なつきの返事が思ったものと違う時には、掲示板になつきの画像を晒したこともある。もちろんそれも、なつきには後日バレている。

「そりゃあ。俺も外されて当然か笑」

 自嘲気味になりながらもネガティブな考えは止まらない。

(俺はいつもそうだ。)

 彼は今、仕事をしていない。探すつもりがないわけではないが、現状を憂う親の助けもあり仕事のないままの生活を1年近く続けている。


 新卒で就職した企業。

 けして大企業ではないが、安定しており上司や先輩もよく面倒を見てくれた。彼自身も良好な人間関係を築けているという認識であった。

 しかし、ダメなのだ。

 社内の会議や同僚とのディスカッション。あるいは営業先。上手く行く時は全てが順調に進む。

 一方で、相手と意見が相違した時。あるいは会議や営業先で自身の提案が否定された時。

 後から振り返れば、バカな事をしたと自覚している。自身が悪いという後悔の念も明確にある。しかしその時、その瞬間は駄目なのだ。

 彗星は、普段使わないような乱暴な言葉遣い、態度で相手を罵り、攻撃してしまう。当然相手は驚き、怒り、彼との接触を拒むようになる。彼は好きだった営業からは外され、社内で資料整理を中心とした業務をしていた。会議に呼ばれる事もなくなり、同僚と話す機会も減っていた。

 そして昨年の流行病もあり、彼の勤務先は事業の規模が大きく縮小した。その際、明確にリストラがあったわけではない。しかし先行きが不透明である事や、息苦しさを感じた彼は自ら退職した。


 その後も、積極的な外出をする気持ちにもなれず彼は自宅のワンルームにこもり、スマホを見続ける生活を続けていた。そこで昨年末近くにやり取りをするようになったのが、なつきだった。

 人との接点を失った彼の唯一の話し相手。それが数日に一度、DMのやり取りのあるなつきだったのだ。そんななつきを失った彼は、ぶつける先のない怒りを持ったまま、「なつきの部屋」を見る。

 前回見た時よりかなり書き込みが増えている。

「なんだ?」

 彼は書き込みを遡り読み続ける。多くはなつきというよりMMに関するものだ。彼もMMの存在は知っており、何度かなつきにその関係を問いただしている。

 DMを時々やり取りする彼と異なり、MMは毎日表でもなつきとやり取りしている。MMのツイートやリプは見えない。しかしそこで見えるなつきの言葉は、時に甘く恥じらいもあり、彼とのDMでは見られないものだった。当然彼は、嫉妬していた。

「このMMってヤツが何かしたのか?」

 しかしどうも様子が異なる。普段のMMに対する書き込みは彼の存在を疎ましく思い、嫉妬や恨みがこもったものが多い。今日の書き込みも同様のものが多いが、普段見ないMMを賞賛するような書き込みも目立つ。


匿名「おめでとうwww結婚式いつ?w」

匿名「なつき『MM様と結婚するんだもん!!!』www」

匿名「勇者だよ。MMこそ真の勇者だもん!!ww」

匿名「クリスマスか?やっぱそこで朝までヤったんか?」

匿名「これやっぱなつきが惚れてんの??」


(なんだ?一体。)

 彗星は異様な部屋の理由を知る。ユダのスクショ。

 

 それに私、Mさんの声も聞いたことあるもん!!!


 間違いない。なつきとのDMのスクショだ。見慣れたなつきのアイコンがある画面。Mさんと言うのも、なつきがMMを呼ぶ時の呼び方である事を、彼は知っている。

(声を聞いた?どういう事だ?じゃあMMもなつきの声を知ってる?いやそれどころか・・・)

(俺なんか、もうDMすら出来ないんだぞ・・・)

 頭が痛む。彗星には理解不能な事が起きている。

「ダメだダメだダメだダメだ。」

「こんなの許せるわけがないだろうが。ふざけんなよ?なつき。」

 怒りに任せ、彗星はツイ垢を変更する。設定から出来たはずだ。変更したプロフィールのスクショを撮る。

「宣戦布告だ。なつきもMMも。絶対に許さない。全部お前らのせいだ。」


 彗星は「なつきの部屋」に書き込みを行う。短い簡単な文だ。今までもHNは公開してきた。もちろん、今回もだ。


HN:彗星

なつき、ふざけるなよ?何が顔だ、声だ。

それにMM。俺は絶対にお前を許さない。


 そこに垢名を変更したプロフィールのスクショを貼る。特にプロフィール自体には特徴はない。しかし垢名は・・・。

@MMshineshine

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