文化祭前日
前日の放課後、教室には最終準備をするクラスメイトたちが数多く残っていた。看板の最終チェック、机の配置確認、必要な備品の最終確認。あちこちで声が飛び交っている。
「これで大体、準備は終わりだね」
弥生がクラス全体に向けてそう言いながら、チェックリストに目を通していた。
「深水くん、買い出し、もう済んでるんだよね?」
「ああ、昨日のうちに仕入れてきた。あとは明日運ぶだけだ」
「了解、ありがとう」
弥生はそう言うと、また別の生徒のところへ確認に向かった。俺は自分の作業に戻り、明日の段取りを頭の中で確認していく。
「深水くん、こっちの値段表、最終確認して」
結菜が看板を持ってきて、机に立てかけた。
「これでいいと思う」
「よし、じゃあこれで完成」
結菜は満足げに看板を眺めながら、伸びをした。
「明日、天気大丈夫かな」
「予報だと晴れらしい」
「よかった」
教室の中では、他のメンバーたちも机の配置を確認したり、必要な備品を箱に詰めたりと、それぞれの作業に集中していた。
「なあ、明日絶対人来るよな、うちの店」
班のメンバーの一人がそう言うと、周りから「来るでしょ、焼き芋だし」「甘いもの好きな人多いから」と声が上がった。
「なんか、明日かと思うと実感湧いてきた」
「準備期間長かったもんな」
そんな声を聞きながら、俺は運ばれてきた机を所定の位置に並べていく。作業がある程度進んだところで、班のメンバーの一人が声をかけてきた。
「深水、これ運ぶの手伝ってくれない?」
段ボール箱を一緒に運び、教室の後ろのスペースに置く。
「これ、当日はどこに置くんだっけ」
「教室の後ろ、あそこのスペース」
「了解」
そんな作業をこなしているうちに、教室にいたクラスメイトが少しずつ帰り始めた。「お疲れ、また明日」という声があちこちで交わされ、人数が減っていく。
「更科、まだ確認あるのか」
「うん、あと少し。全体のチェックリストが」
弥生は手元の紙に視線を落としたまま答えた。結菜が横から覗き込む。
「大変そうだね、それ」
「まあ、いつものことだから」
そう言って弥生は小さく笑った。結菜も軽く笑い返す。
「明日、何時集合だっけ」
結菜が思い出したように聞いた。
「七時半だったはず」
「早いね」
「準備あるからな」
そんな短いやり取りが、三人の間で自然に交わされた。弥生も一度顔を上げて、「そうそう、七時半ね」と付け加える。
「そういえば、前に少し話してた当日の役割、最終的にはどうなったんだ」
俺がそう聞くと、弥生が手元のリストを確認しながら答えた。
「深水くんは会計と在庫管理、夏目さんは接客と呼び込み、それで確定。私は全体見ながら、何かあったら動く感じで」
「了解」
「私もそのつもりでいた」
結菜も軽く頷いた。
「深水くん、明日の朝、荷物運ぶの手伝ってくれる?」
結菜がそう聞くと、俺は「ああ、いいけど」と答えた。弥生はその会話を聞きながら、少し間を置いてから口を開いた。
「私も、朝早く来る予定だから、何かあったら言って」
「ああ、わかった」
短いやり取りだったが、そこには微妙な間があった。
「そういえば、当日の看板の位置、確認した?」
弥生がふと思い出したように聞いた。
「確認したぞ、俺が」
近くで作業していた柏木が、顔を上げて答えた。
「了解、ありがとう」
弥生はそう言って、軽く頷いた。
弥生はチェックリストに視線を戻し、「じゃあ、私はまだ確認あるから」と言って、離れた机の方へ移動していった。真面目な後ろ姿でリストを追う弥生を見ながら、結菜が小さく呟いた。
「更科さん、真面目だよね」
「委員長だからな」
「うん。なんか、二人とも似たタイプなのかもね」
「そうか?」
「うん、なんとなく」
結菜はそう言いながら、看板をもう一度確認する作業に戻った。
それから間もなく、机の配置と装飾がすべて完了した。誰かが「できたんじゃない?」と声を上げ、クラス全体が一度作業の手を止めて教室を見渡す。壁には飾りつけ、教室の後ろには看板が実際に立てかけられ、明日の店の形がはっきりと見えていた。
「おお、なんかそれっぽくなってきた」
「これ、明日この状態で本番なんだよな」
「実感湧く」
そんな声が続く中、弥生がチェックリストを掲げて、クラス全体に向けて言った。
「みんな、ここまでお疲れ様。明日、頑張りましょう」
小さな拍手が起きて、教室に安堵したような空気が広がった。俺は完成した教室の様子を、しばらく眺めていた。
しばらくして、弥生が戻ってきた。
「うん、これで全部確認できた。みんなありがとう」
「お疲れ」
「お疲れ様」
弥生はそのまま教室に残り、最後の戸締まりの確認を始めた。
「先に出てて大丈夫だよ、私、鍵閉めてから帰るから」
「わかった、じゃあお先に」
結菜がそう言って、俺と一緒に廊下へ出た。
「更科さん、今日ずっと忙しそうだったね」
結菜がそう言った。
「委員長業務、色々あるからな」
「深水くんも前、そんな感じだったんでしょ」
「まあ、実行委員の頃はな」
そんな会話を交わしながら、俺と結菜は昇降口で靴を履き替えた。外はもう夕方の色に染まっている。
「明日、楽しみだね」
「準備、ちゃんと動くといいけど」
「大丈夫でしょ、ここまでやったんだから」
結菜はそう言って、いつも通りの調子で笑った。俺たちは並んで歩き、いつもの分かれ道まで来たところで、それぞれの方向へ別れた。




