完璧超人、その名も月島沙羅
時は令和、かつて小野小町のいた平安時代から千年以上が経ち近代化した時代である。時は進みあらゆるものが便利になり進化の止まらないこのご時世。
そんな令和の時代にも日本人の美は未だ失われておらず、巷で令和の小野小町と呼ばれる人物がいるそうな。
そんな美少女の名は月島沙羅。成績優秀、スポーツ万能、人格完璧。そんな全ての名声をものにする月島沙羅はビジュアル方面も完璧で同じクラスの生徒や年上の生徒、はたまた学校の先生までがその容姿を褒め称えていた。
そんな月島沙羅が通う普通の学校である御園高校。この物語は御園高校の月島沙羅を中心にそれを取り巻く人達で構成される。
そんな令和の恋物語をご賞味あれ!
『キーンコーン、カーンコーン』
「やばいよ、予冷鳴ったって!」
「ほら、早く教室入らないと。うちの担任の渡辺マジで怖いんだから。」
いつものように学校のチャイムが鳴り生徒が慌て始めこの時間。学校のグランドや廊下、そして教室。あらゆるところが騒がしい中一人の生徒はせっせと静かに廊下を歩きながら教室に入って行く。
「は、はあ。何とか間に合ったよ。おはよう、二人とも。」
サラサラと綺麗な白色の髪を三つ編みにしておしゃれな眼鏡をかけた女の子。平均よりも身長が少し高く胸もかなり大きい。彼女の名は楠ほのかといいこの御園高校に通う普通の女の子だった。
ほのかはゼエゼエと息を吐きながら自分の席に座りほのかの元にやって来る数少ない友人達に挨拶する。
「ほのちゃんおっはー。今日も遅いけどまた電車で揉まれて来たの?」
「あっうん。やっぱりこの時間の電車は人が多いから。」
ほのかが自分の席に座って休んでいるとほのかの友人の一人である早乙女美緒がほのかめがけて抱きついてくる。
早乙女美緒は茶髪に日に焼けた褐色のとても明るい女の子である。早乙女というとても可愛らしい名前とは裏腹に美緒はやんちゃでクラスの問題児だ。
この前も授業中に平気で寝たり宿題を一瞬間連続でやってこなかったりと悪い意味で注目されている。
そして何より美緒はスキンシップが多くほのかにもよく抱きついて来る。
「美緒ちゃんってばいきなり抱きつかれると困るよ。ほら、びっくりするから。」
「そうよ、美緒ってば落ち着きがないのよ。女の子なんだからもっと落ち着きなさい。」
美緒はクラスでもよく中心にいる人物でいろんな人から愛されている。美緒の元気さにはほのかも若干呆れているがそれでも美緒は大事な友人なのは間違いなかった。
「むぅ、瑠奈ちゃんってば硬いなあ。女子高生は元気な方がいいんだよ!」
「いや、美緒は元気すぎるのよ。今日だってどうせ宿題もやってないんでしょ?」
瑠奈は美緒の肩を掴みながら鋭く睨んだ。瑠奈の眼差しに美緒も堪らずに目を逸らした。
この黒髪でとても綺麗に整えられたロングの堅苦しい雰囲気の女の子はほのかのもう一人の友人である青木瑠奈だった。
瑠奈はこのクラスの委員長でとても真面目な女の子だった。少し校則やルールに厳しいがとても真面目で優しい。
更に身長もクラスの女子の中で一番高く、その真面目な性格もあってクラスのお母さんの様な存在だった。
そして美緒と瑠奈は小学校からの幼馴染でよく一緒にいる。性格は真逆と言ってもいいほどに違うが仲は良くコンビネーションは抜群だった。
「えぇ、だって宿題なんて面倒なだけだもん。後でほのちゃんにノート見せて貰うし。」
「ダメよ、宿題は自分でやるから意味があるんじゃない!ただ他人のを写してるだけでは何も得れないのよ?」
「別にそんなのどうでもいいもん。僕は先生に怒られなかったらそれでいいんだから。」
仲は良くコンビネーションは抜群?いきなり疑いたくなるほどに二人は激しく言い争いをしており真ん中にいるほのかはあわあわとしながら二人を見守るしかなかった。
ほのかは陰キャでコミュ症の引っ込み思案。こういった時に率先して前に出れるような性格ではなかった。
「えっと、みんな見てるから一旦落ち着いて?ほら、もうすぐ先生が来ちゃうから。」
ほのかは慌てながらも二人を落ち着かせようと必死になるが一度スイッチが入ると二人とも中々落ち着いてくれなかった。
騒がしい二人をどうにかして止めようとほのかが考えていると綺麗な足音と共に沙羅がやって来る。歩くたびにふんわりといい匂いがして美しい姿が目に映る。
「貴方達、教室内で騒ぐのはやめて貰えないかしら?もうすぐ朝礼が始まるのだけれど。」
沙羅は綺麗な長い髪の毛を靡かせながらクールにそう言い放つ。沙羅の発言と共に周りは歓喜し盛り上がっていた。
「おいおい、やっぱり月島さんは可愛いな。彼氏とかいたりすんのかな?」
「いや、あの完璧超人の月島さんだぜ?月島さんに釣り合う彼氏なんているわけないだろ。」
教室の至る所から沙羅を褒める発言や沙羅を羨む発言が聞こえてくる。教室の視線も今や全て沙羅に向いていた。
月島沙羅、それはこの教室で一番人気のある優等生でクラスの中心にいる人物だった。
月島沙羅は何をするにも完璧で沙羅の右に出るものはいない。頭も良ければ運動センスも抜群。それでいて容姿も完璧。客観的に見て沙羅に弱点など見当たるわけがない。
綺麗でサラサラな黒髪、宝石の様に輝く真紅の瞳、そして平均より少し低い身長に華奢な体。これこそ正に黄金比だった。
「うぅ、月島さんにそう言われると何も言えなくなるよ。それじゃあ僕は自分の席に戻ろうかな。」
「・・・そうね、アタシも一旦頭を冷やすとするわ。それじゃあほのかもまたね。」
「う、うん。二人ともまた後で。」
沙羅の手助けもあって二人は正気を取り戻すとそのまま自分の席へと向かって行った。あまりに早い出来事にほのかは目を疑った。
「ふふ、それでいいわ。それじゃあ、楠さんも頑張りなさい。」
「う、うん。沙羅ちゃ・・・月島さんもまたね。」
ほのかの目を見ながら優しく微笑む沙羅にほのかも優しく笑いかけた。
ほのかと沙羅は性格も正反対で陰と陽だが一つだけ確かな関わりがあった。それはほのかと沙羅が幼馴染ということだ。
家が隣同士で幼い頃からいつも一緒にいた。そんなこともあり沙羅と仲のいいことはほのかにとっては唯一の誇れることだった。
もちろんそのことを誰かに言うことはなくあくまで二人の間での秘密なのだが。
沙羅の周りには今もたくさんの人がいてそのクラスメイト全てに天使のような微笑みで笑い返していた。これこそが月島沙羅という人物だ。
『キーンコーン、カーンコーン』
「皆さん席に着いてください。それでは今から朝礼を始めますね。」
少し時間が経つとチャイムが学校全体に鳴り響き、それとほぼ同時に先生が教室に入ってくる。
朝から一悶着あったが無事に普段通りの学校生活が始まるのだった。
『キーンコーン、カーンコーン』
「おや、チャイムが鳴りましたね。それでは午前の授業はここまでにしておきましょうか。」
歴史の先生はそう言いながら教科書を閉じてそのまま授業を終えた。
「しゃあ、やっと午前の授業が終わった!」
「ったく、中島の授業バカつまんないから嫌だわ。」
授業が終わるのと同時にクラスのみんなは騒ぎ始める。グループで集まって話したりご飯を買いに外に出たり様々だ。
ほのかも午前の授業で体力を使いお腹が空いているため早速ご飯を食べようとする。しかし、その瞬間ポケットにあるスマホが軽く振動する。
ほのかはスマホを見てその送られて来た内容に動揺する。
「おーい、ほのちゃん。三人で一緒にご飯を食べようよ!」
「そうね、昼ごはんはしっかりとった方がいいわよ。特に美緒はいつも菓子パンしか食べないんだから。」
ほのかがスマホを見ているといつもの様に二人がやって来る。ほのかはこの二人とお昼ご飯を食べるのが通例だった。しかし、今回ほのかには別に行かないといけない場所がある。
「ご、ごめん二人とも。実は今から予定があって。」
「ほのちゃんに予定なんて珍しいね。ってどこに行くの?」
美緒が疑問符まみれでほのかを見る中、ほのかは美緒を無視して急いで屋上へと向かった。今のほのかに時間はない。
この時間は人も多く屋上に行くまでにもたくさんの人とすれ違う。ほのかは人混みが苦手で今にも教室に戻りたいが我慢して屋上の階段を登る。
本来、この学校は事故防止のために屋上を封鎖しているのだが何故か今日は空いていた。その理由もほのかには何となく分かっていた。
ほのかは少し呆れた様子で突然ここに呼び出した沙羅を睨む。
「月島さん、こんな所に呼んでどうしたの?急に呼ばれると困るよ。」
「こら、二人きりの時は下の名前でしょ。ふふっ、会いたかったわ。私の大好きなほのか。」
今の沙羅に普段の様なクールさは微塵もなくふんわりとした表情で優しくほのかを抱きしめた。
「ちょっと、沙羅ちゃんってばいきなり抱きつかないで。匂いとか付いたら後で困るよ。」
「ふん、そんなこと今はどうでもいいでしょうに。私はここでエネルギーを補充しないといけないのよ。」
おそらくクラスメイトが今の沙羅を見ると失望してしまうだろう。それほどに今の沙羅に威厳というものはなかった。
今の沙羅はお母さんの乳を吸う赤ちゃんの様だ。ほのかの胸に自分の頭を擦り付けてすりすりしている。
「あはは、今の沙羅ちゃんを見たらみんなどう思うことか。」
沙羅は小さい頃から何故かほのかにだけはこんな風に甘えて来るのだ。他の人には隙を見せずいつも猫を被っているのに。
「クラスメイトのことなんてどうでもいいわ。私はほのといる時間が好きなのよ。私が唯一弱音を吐ける人なんだから。」
沙羅はそう言いながらにやけるとそのままほのかの大きな胸を勢いよく鷲掴みした。ぷにぷにとした弾力でとても柔らかい。
「うぅ、だからってこんなことしていいとは言ってないよ。こんなこと親友でもおかしいよ。」
「なら私と。・・・いや、別にこれくらいは親友なら普通よ。それに私の苦労はほのかも知っているでしょう?」
沙羅の問いにほのかは静かに頷く。沙羅はいつも人前でキリッとしていて猫被りをしている。だからこそこの様に羽を休める時間が必要なのだ。
昔から沙羅はそうだった。いつも頑張りすぎてストレスを溜め込む。そのストレスを解消するのがいつからかほのかの役目になっていた。
「だとしてもこれは・・・ん。」
「うるさいわ。私の唯一の親友として私を支えるのよ。」
沙羅はそっとほのかの唇にキスをするとそのままそっと屋上のベンチに座った。ほのかも沙羅の隣にそっと座った。
ほのかと沙羅はこんな風に少し大人なことまでしているが別に付き合ったりしてはいない。もちろんほのかは沙羅のことを好きだがそれが叶わない恋なことは何となく察していた。
「もう、沙羅ちゃんは昔からずっと我儘だね。」
「ほのかこそずっととろいままね。今日だって遅刻ギリギリだったじゃない。」
「あはは、それはそうかも。・・・結局私も沙羅ちゃんがいないとダメかも。」
「そうよ、私達はお互いに支え合わないとね。」
ほのかと沙羅はお互いの目を見ながら話に花を咲かせた。二人が学校で話せる時間はこの昼休みと放課後だけだが二人にとってはさほど重要なことではないのだった。
ほのかと沙羅はお互いにとっての最高の時間を共に楽しんだ。




