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見習い騎士だって大変ですよ!  作者: 先輩.


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2/22

第一話 晴れて見習い騎士になりまして。 

挿絵(By みてみん)


私の名前は“マナ・カトレア” 性別、女。


士官学校を卒業したばかりの18歳。


最終学歴はウェストン女子士官学校卒業。


そして今、私が所属しているのは、ワグナー伯爵直属騎士団の『黒羊騎士団』。


騎士団のランクとしては、二流と三流の間くらいの所。


本音を言えば『中央王都騎士団』とまではいかなくても、三大騎士団や、憧れの人がいる銀獅子騎士団など、世にいう一流騎士団と呼ばれる所に入り、両親を安心させたかった。


しかし、三流の士官学校出身で女ともなれば、それはなかなか厳しい話だった。


でも、騎士大国と言われるほど騎士が溢れかえっているここ“デュランディア王国”では、女騎士も少なくはない。


さらに、騎士全員の憧れ“六門騎士”の中に女流騎士がいるのもまた事実である。


ちなみに私も、その人に憧れて騎士を目指した一人なのだ。


まぁ、その話は置いといて。


ともかく私は、理想とは違えど、昔からの夢だった騎士になれたのだ。


だが、その実態はこれまた理想とはかけ離れていた。


そして、私が牛の乳を搾っていた話に戻る。


「うげぇ。べちゃべちゃじゃん」


私は飛び散ったミルクをタオルで拭く。


軽装ながらもしっかり『黒羊騎士団』の紋章が入った鎧。

立派な剣も帯刀している。


昔から思い馳せていた騎士の姿だ。


しかし、今の私は騎士の姿をしながら、牛の乳搾りの不始末で鎧に飛び散ったミルクを拭いている。


昔の私が、今の滑稽で不格好な私の姿を見たらどんな反応をするだろう。


きっと、ショックで卒倒してしまうという結論に至った。


「もーっ! 嫌っ!」


色々な感情が入り混じって、気付けば声を荒げていた。


「モーッ」


「うるさいっ! 真似すんなし!」


「うるさいのはお前だよ」


私が牛を罵っていると、宥めるような声が聞こえてきた。


「あによ、アレク。なんか文句ある?」


横槍を入れてきた優男風の騎士は、私の先輩騎士にあたる。


名前は“アレク=ロートレック”。年は23歳。


どことなく、ふわふわしている感じがあり、あまり先輩っぽくないが、見習い騎士の私とは違い、立派な『正騎士』であり、私の教育係でもある。


「先輩には敬語な。後、牛くせーから早くしろよ」


アレクがだるそうに言う。

先輩っぽくないくせに、やたら先輩をアピールしてくるのはいつものことだ。

口癖は「先輩を敬え」である。


「アレクこそ突っ立ってないで手伝ってよー。あとそこのバケツで終わりなんだから」


私は駄々をこねるように言ってみる。

別に私はアレクをなめてる訳ではないのだが、アレクと喋るといつもこんな感じになってしまう。

アレクがふにゃふにゃしていて親しみやすいからかもしれない。


「はぁー? やだよ。お前の仕事だろ? んなんじゃ出世できねーぞ。正騎士なれねーぞ」


語尾に「やーい、やーい」と、まるでいじめっ子の少年Bみたいな喋り方でやじってくる。

私には全くノーダメージだが。


「うるさいなー。アレクがなれたんだから、私もなれるもん」


「じゃあ、先輩の仕事を取るくらいの勢いでこいよ」


「先輩の仕事って草刈りのこと?」


私は皮肉を込めて言う。

アレクの担当は庭の草刈りだった。


「そーだよ。でも、俺はお前より仕事早いからな。正騎士だからな。もー終わったんだよ」


アレクは私の皮肉を軽く受け流すと、木陰に座り紙を広げる。


「けーっきょく手伝ってくんないのね」


「あぁ。俺が先に報告書書いとくから、さっさと終わらせてくれよな」


そう言うと、アレクはスラスラと報告書にペンを走らせる。


アレクが手伝ってくれないのを察した私は、作業に戻ることにした。


まぁ、アレクが早く上がれるように報告関係をやってくれてるのは、ありがたいことだし。


私もその思いを無駄にするほど、人の思いが汲めない人間ではない。


やりますよ。

牛の乳搾りくらい。

騎士の誇りにかけてねー。


「もーちょいだからね。頑張ってね、牛さん」


「モー」


私が語りかけると、牛が勢いよくミルクを出す。


この調子だと、思ってたより早く終わりそうだ。


でも、早く帰れる希望が湧けば、あと一人のパーティーが何をしてるのか気になってくる所だ。


「ねぇ、アレク。シド何してるの?」


「あぁ? 知らねぇ」


アレクは報告書から目を離すことなく答える。


「知らない!? じゃあ、シドがちゃんとやってなかったら意味ないじゃない!」


私は声を荒げる。

それと同時に、搾乳に力が入り過ぎて、勢いよくミルクがバケツに注がれる。


バケツがいっぱいになる。

ミッションコンプリート。


「あぁー! 疲れたー」


私は自分の役割を終えて、その場に横になると、どっと疲れがきた。


帯刀した剣を使うこともない。

鎧は牛のミルクでべちゃべちゃ。

私が思っていた騎士らしいことは何もしてない。


なのに、私の体は疲労感に包まれていた。


私……何やってんだろ。


晴れ渡った青い空は何も答えてはくれない。


気持ちの良い風が頬を撫でる。

瞼が重くなってくる。

私も抵抗することなく、それに従う。


「ハハハー! 待てよー、ツンツンの兄ちゃんー!」


無邪気な子供の声に、私の意識が少し戻る。

それより気になるワードが、私の頭に反響する。


“ツンツン”。


「待たねーよ! お前ら本気で叩くから嫌だもんねー!」


それより無邪気な、聞き覚えのある声に、私の意識は覚醒する。


「こらっ! シド! あんた何遊んでんのよ!」


私は立ち上がって、目の前で子供達とチャンバラに興じるシドに声を荒げる。


「よぉ、マナ。お前ドロドロだな。てか、牛臭せーな」


シドは子供達の木刀の連打を軽く捌きながら答える。


シド=ハーグリープス。


アレクと同じ正騎士で、もう一人の私の教育係。

ツンツンの黒髪に、ライトブルーの瞳。


性格は、はっきり言ってバカ。

でも、それに全然自分で気付いてない。


はっきり言って、アレク以上に先輩扱いしていない。

でも、シドは全然気にしていない。

いつも自然な態度は、私にとっては好印象だ。


でも、だからって、こいつの天然を全て許していい訳ではない。


「シド! あんた薬草取りが仕事でしょ? 終わったの?」


「んあ。まだやってない。こいつらと遊んでたからな。後で一緒に取りに行こうぜ」


ニカッと白い歯を見せる。


「丘サーファーみたいに笑ってんじゃないわよ!」


ドカッ!


シドの頭を鷲掴みにして、地面に叩きつける。


「うわぁ、ねぇちゃんすげー」


「ツンツンの兄ちゃんより強いんだー」


子供達から熱い眼差しを一心に受ける。


「ちょっとアレク! シドがまだ薬草取り終わってないのよ!」


私は地面に頭がめり込んでいるシドを指差し抗議する。


「はぁ、これだから仕事がおせぇ奴は」


頭をポリポリかきながら答えるアレク。


「あぁ! さっきの騎士のお兄ちゃんだ!」


子供達の視線がアレクの方に向く。


「よぉ、ちゃんとミッションはこなせたか?」


「うん! ちゃんと俺達、兄ちゃんに言われた通り草刈りやってきたよ! だから、俺達騎士になれるんだよね?」


「あぁ、勿論だ。草刈りは立派な騎士の仕事だ。あのねーちゃんより有望だぞ、お前ら」


「ちょっとアレク。まさかこの子達に草刈りやらせたの?」


「あぁ、こいつらが騎士の仕事手伝いたいって言うからな。草刈りは立派な騎士の仕事だからな」


アレクは口が上手い。

きっと騎士に憧れる子供達の純情を弄んだのだろう。


でも、ヘヘッと得意気に笑う子供達の前で、これ以上の追及はできなかった。


「うん? そー言えば一人足りなくないか、お前ら」


アレクが顎で子供達の人数を数えながら言う。


「サニャがいない」


一人の子供がそう言うと、他の子供達も騒ぎ出す。


「最後、サニャをどこで見たの?」


妙な胸騒ぎがして、私が子供に詰め寄るが、子供達は首を横に振るだけだった。


「サニャ、なんか言ってなかったか?」


シドが優しい声色で子供達に尋ねる。


「そう言えば、騎士は勇気がなきゃなれないって話してたら、俺も勇気あるって言ってた」


「勇気……」


「肝試しか」


アレクが座りながら呟く。


「この村の怖い場所は?」


シドが尋ねる。


「東の森だよ。魔物が出るから近づくなって」


魔物。

その言葉に緊張が走る。


「あなた達はお家に帰って、お母さん達にこのことを知らせて、村の中を一緒に探して」


私の言葉に、子供達は分かったと言って小走りで家路についた。


「魔物との実戦経験は?」


アレクが立ち上がりながら聞いてくる。


「アカデミーでインプの討伐くらいは」


アカデミーでの数少ない実戦経験を思い出しながら答えた。


「じゃあ、まぁ、でっかいのが出ないように祈りな」


アレクが私を追い抜かして歩き始めた。


インプの討伐は集団での実戦で、教官帯同での実戦だった。

これが本当の実戦になるかもしれない。


私は剣を強く握り、二人の後を追った。


***


「サニャー! 居たら返事して!」


私と帯同の二人の呼びかけに、未だ反応がない。

森に入ってから数十分。

陽の光はすっかり遮断され、辺りは薄暗い。

道の整備もろくにされておらず、かなり深い森だ。

この森に子供が入ったなら、魔物がいないとしても安否が危ぶまれる。


「かなり深いな」


アレクが私の感じていたことを口にする。


「早く見つけてあげないと」


誰に言うでもない心の声が、小声で出た。


「シド、どうだ?」


アレクの問いに、シドは少し考える。


「これだけ自然があって、野生動物の数がかなり少ない。魔物の住処になっているな」


そのままシドが近くの木に触れる。


「ここに少し焦げた跡がある。放電の痕跡だな。ここの森の主はおそらくライガだな」


ライガ。

雷を司る魔物。

個体差があるが、強個体のライガは騎士が討伐隊を組むほど危険な魔物だ。


「そもそも、魔物は人のいないところでしか生息できない。となると、人の気配がしないこの森は、どんな魔物がいてもおかしくない」


シドはそう言って、また先頭を歩き出す。


騎士になると決めた日から、剣技については寝る間も惜しんで鍛錬を続けた。

その努力の日々に、私は自信を持っている。


ただ、自身の実戦経験のなさが、自分の命、そして守らなければいけない命を失ってしまうのではないかという不安を呼び起こす。


「おっ」


先頭を歩いていたシドが声を上げて、歩みを止める。


その視線の先には――。


「サニャ!」


私が声をかけると、子供が不安そうな顔をして立ちすくんでいた。


「どうして森に入ったの? この森には入るなって言われてるでしょ?」


「ごめんなさい」


「魔物がいるかもしれないんだよ?」


私の言葉に、子供は泣きそうな顔で何も言えなくなっていた。


「もういいじゃん。どうせ家で母ちゃんにしこたま怒られんだから」


シドが頭をかきながら子供を庇う。


「そうだな。引き上げよう」


アレクがそう号令をかけ、踵を返したとき。


背後から、ただならぬ気配。


「アレク、マナ!」


シドがいち早く気付く。


ライガの群れが後方に迫っていた。

7匹。8匹か。


「人の気配に吸い寄せられたか」


「隊列を組むぞ。マナは後衛だ。サニャを守って、襲ってくるライガだけ対応しろ」


アレクが剣を抜き、私も続けて剣を抜く。


柄を握る手に、じわりと汗が滲んだ。

鎧の内側で心臓が嫌な音を立てている。


それでも、サニャの前で震える訳にはいかない。


「サニャ、そこの木の影に!」


サニャは急いで影に隠れる。

これで防衛線は張った。

突破される訳にはいかない。


ライガ達が放電しながら距離を詰めてくる。

薄暗い森が、青白い放電で何度も点滅する。


焦げた木の臭い。

湿った土の匂い。

喉の奥が、きゅっと狭くなる。


おぞましい声を上げて、ライガが襲いかかってくる。


前衛のシドとアレクが瞬時に斬りかかり、無効化する。


またライガの放電で周囲が眩しくなる。


「眩しっっ。おい、マナ! 一体いったぞ!」


シドの声に私は前を見据える。


ライガがスピードをつけて迫ってきていた。


怖い。


けれど、見える。


私は一歩、前に踏み出し、剣を振るう。


手応えがあった。

刃が毛皮を裂き、ライガの体勢が崩れる。


止まるな。


自分にそう言い聞かせ、私はそのまま三太刀連続で浴びせる。


ライガはそのまま、目の前で動かなくなった。


息が荒い。

腕が震えている。


でも、倒した。


来る日も来る日も磨いてきた得意な剣技を、なんとか出すことができた。


私が一匹のライガを片付ける間に、前衛の二人は残りのライガを斬り伏せていた。


強い。

アカデミーを出たばかりの私とこんなに差があるなんて。


「主のお出ましだな」


アレクがそう言うと、視線の先には一際大きなライガがいた。


「……グランドライガ」


ライガの強個体をそう言う。

周囲の森を覆い隠してしまうほどの巨体が、目の前に現れた。


ライガが咆哮をすると、その放電量に視界を奪われて、思わず体を伏せる。


周囲の木が、先ほどの放電の衝撃で何本か折れていた。


とても敵わない。

本物の化け物だ。


「アレク! 撤退して応援を!」


私は思わず叫んだ。


「マナ、なんであんな馬鹿でかくて、しかも魔力も持ってる魔物達がこんな森でコソコソと生きて、人は堂々と生きていられると思う?」


えっ?

アレクの問いかけに、私は声が出なかった。


「それは人が魔物より強いからだ。だから魔物達を追い出して、人がそこに住んでる」


アレクから視線を移すと、シドがグランドライガに向かっていく。


「アイゼン・メイデン」


シドがそう呟くと、シドの剣が青白く発光しているように見えた。


「ミスリル……」


正式名称、蒼霊銀。

青白い光を纏い、人の持つエレメントを増幅させる鉱石。


「そう。人はミスリルを手に入れた。ミスリルは人のエレメントを極限まで引き上げる。その力で、人は魔物の領域を奪ってきた」


人は魔力を持たない。

ただ、潜在的な力としてエレメントを持っている。

それがミスリルによって発現し、魔力と同等、あるいはそれ以上の力を出せるようになった。


「お前、雷の魔力使うんだな。俺と一緒だな」


シドは剣を鞘にしまって、間合いに入っていく。


そして、その剣を抜刀する。


瞬間。

閃光。


グランドライガの巨体は二つに切断され、そのまま地面に崩れ落ちた。


轟音。


土煙。


そして、静寂。


……え?


思考が追いつかない。


さっきまで、あれほど恐れていた相手が、まるで最初から存在していなかったみたいに――消えている。


その速さ、威力。

とても人間が出せるものではなかった。


「さて、帰るか」


シドが振り返って、いつもと変わらぬ顔でそう言った。


***


帰り道。


サニャはすっかり元気になって、色々とお喋りしてきた。


「そーいえば、お前。騎士になりたいんだってなー。だから肝試ししたんだろー」


シドが手を繋いでいるサニャに質問する。


「うん! 騎士になりたい! 僕もお兄ちゃんみたいな騎士になれる?」


サニャの質問に、シドがどう答えるか興味があった。


「おー、なれるぞ! アカデミー行って、騎士採用試験合格したらなー」


いや、討伐隊組んで大人数で討伐するグランドライガを一瞬で真っ二つにするやつには、普通の人はなれないぞ。


「ほんと! 頑張る!」


サニャは無邪気に喜んでいた。

シドも一緒に楽しそうに笑っていた。

アレクは書類を無表情で書いていた。


騎士って。


牛の乳を搾って、報告書を書いて、子供を探して、魔物と戦って。


それでも、誰かに憧れられる存在で。


私が思っているより、ずっと大変な仕事なのかもしれません。


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