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花婿図鑑〜もふもふ姫が真実の愛を掴むまでの研究記録〜  作者: もちもちしっぽ
三章 パン職人のオス/味覚と舌の研究
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キラキラ


「フェリチェ、おつかいを頼んでもいいかな? オムレツを作るのに、卵を買ってきてくれる?」

「ああ、いいぞ」


 バスケットを片手に、フェリチェは元気よく踵を鳴らす。

 イードの作るオムレツは、ふんわりした見た目の美しさと、ぷるぷるとろとろの半熟具合がたいへん美味で、フェリチェもお気に入りの一品(ひとしな)だ。


「たまご屋の近くには、()()()が買ってきてくれたパンの店があるな」

「ベーカリー・グウタンだね」


 店名の書かれた包み紙には、まだ三分の一ほどバゲットが残っている。


「そこの主人は若いオスだ。堅実そうで、家庭的な雰囲気がいい。グンタみたいにどっしりした体も頼りになりそうだ」

「へえ、今度はアモンさんに興味があるんだ?」


 付き合っている人物はいなかったはずだと、イードは心の中で確かめる。


「夫にするなら、ああいう感じがいいのかもしれん。おつかいついでに、ちょっと観察してくるぞ!」

「はいはい、行ってらっしゃい。お釣りで買っていいのは、まんまるパン一個までだよ」

「承知した。では行ってくる」



 ※ ※ ※



 しばらくして、フェリチェはロロの時と同様に、すっかり元気をなくして帰ってきた。


「おかえり、卵は買えた?」

「……おう。ばっちり新鮮で、いいものを買ってきた。美味いオムレツが作れるぞ」

「そのわりには、しゅんとしてるね」


 ボウルに卵を割り入れるのを手伝いながら、フェリチェはがっくりと肩を落とした。


「フェリチェは、自分が嫌いになった。フェリチェは浅ましいメスなんだ」

「急にどうしたの。ちゃんと聞くから、一つ一つ話してみて」

「だってだな……」


 卵を買った後、フェリチェはグウタンのパン屋に寄って、まんまるパンを選びながら店主のアモンを観察した。

 逞しい腕でパン生地を捏ねる姿が力強くて、心ならず胸がきゅんと熱くなった。

 容姿はそれほど華やかでもなく、話ぶりが洗練されているわけでもない。だが工房から投げかけられる優しげな笑顔が魅力的で、彼の作るパンにはその人柄が滲み出ていた。


 素朴で安心感のあるアモンを、次の恋の相手にするのもいいかもしれないと満足げに会計に向かったフェリチェは、そこでふと売り子の娘に目がいった。

 おとなしそうだが、丁寧な手つきとはにかんだ接客が愛らしい娘だ。それだけなら、特に気にも留めなかったのだが、イードのもとですっかり人間観察の目を磨いたフェリチェには、娘が店主を見つめる眼差しが他とは違うことにすぐに気付いてしまった。


「キラキラしていた。すごく純粋に、あのオスを想っていることが伝わってくる目をしていたんだ。その時、窓ガラスに映った自分の目を見て、フェリチェは思ったんだ。フェリチェの、あいつを見る目は全然キラキラじゃない。

フェリチェは、ふさわしい(つがい)を選ぶことに目が眩んで、大事なことを忘れるところだった。恋とはあれこれ考えてするものではない、縁が結ぶものだ」


 イードは黙って卵を混ぜる。フェリチェの声と、空気を含んだ卵が混ざる音以外、キッチンは静かだ。


「あの娘の純心に、フェリチェは屈したんだ。フェリチェに、本当の恋はまだまだ難しいのかもしれん」


 すべての卵を割り終えると、フェリチェは買ってきたまんまるパンにかじりついた。


「……今日のパンは硬い気がする」

「今日は昨日より肌寒いから、発酵が足りなかったんじゃない?」


 イードは本音なのか慰めなのかわからない調子で、ボウルから視線を上げることもない。


「……すまない、オムレツは後で食べる。少し部屋で休みたい」

「そう。お腹が空いたら出ておいで」


 熱したフライパンに、卵液が滑り込む音が背後でしたが、フェリチェの耳はぴくりとも動かなかった。


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