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因果応報の宴

 僕はしきりに腕をさすっていた。

 真夏のはずなのに、病室はクーラーが効きすぎていて寒くて仕方がない。


「確かに、最終世界というゲームの開発者だった女性が、先日飛び降り自殺をして、すでに亡くなってますよ。でも、あなたが先ほどからおっしゃってる女性とは名前が違うようですが」


 うんざりしたような顔をした刑事が僕を見ている。

 塔島と名乗った刑事は、数えきれないほど何度もため息をついている。初めて会ったはずなのに前から知っている気がするのはなぜだろう。


「そんなはずはないんです。僕の小説教室に来て、僕を脅迫するような原稿を見せてきたんですよ」

「原稿ねぇ。一応、事務の方に確認したところ、あなたの教えていたというコースに、その名前の方は登録されてませんでしたが」

「偽名です。きっと偽名を使ったんだ」


 また刑事はため息をついた。きっと本当はため息ではなくて、舌打ちがしたくてたまらないのに我慢をしているに違いない。なぜだかそんな考えが頭に浮かぶ。


「わざわざ偽名を使って、あなたに自作小説を見せて、それが何か問題があるんですか」


「だから僕を脅迫したんだって、何度も言ってるだろうが。あの女は、僕の本名をバラした。僕が偽名で書いてたブログも暴露した。匿名掲示板や通販サイトのレビューで僕がほかの作家をこき下ろしてたのもバラされた。マンションの住人に嫌がらせをしていたのも含めて全部だ。僕を陥れて社会的に抹殺して、僕が二度と小説家としてやっていけないようにしたんだっ!」


 何度も繰り返している話に飽きてきているのか、刑事はさきほどから右手で壊れかけて変な音がする携帯電話を何度も無意識に開け閉めしていた。貧乏ゆすりのかわりかもしれない。刑事がその手を止めて、哀れむような表情で僕のことを見た。


「素朴な疑問なのですが、一連の出来事はその女性がどうのということよりも、バラされて困るようなことをしていた宮野さん自身に問題があるということではありませんか」


「違う……」

「なんというか、それはいわゆる自業自得のような気がするのですが」

「うるさい、黙れ」


「そもそも宮野さんが教えている小説教室というのは、昨年あなたが受講者ともめ事を起こして以来、別の小説家が担当するようになったと、事務の方からお聞きしました」

「嘘だ。僕の授業だ。みんな僕の話を聞きにきているんだ」


「いつも勝手に授業に入り込んで来て、教えている先生に対して、その理論は間違っているとヤジを飛ばしたり、日によっては勝手に登壇して授業をしたり、いろいろと迷惑行為をされているということで、何度も問題になっていると」

「黙れって言ってんだろうがっ!」


 うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい。


 僕は机を何度も叩いた。その衝動は止められなくなった。

 なんで僕だけこんな目にあわないといけないんだ。

 みんなやってることだろう。


 誰かをネットで非難してこき下ろして自己満足に浸ったり、自分のために誰かを蹴落とすなんて誰でもやってることじゃないか。


 どうして僕だけ裁かれないといけないんだ。

 不公平だーーーー!


 何度も何度も、あの女の顔が頭をよぎる。

 あの女に対する憎しみをぶつけるように、机を叩き続ける。


 ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな。


 あの日以来、ネットのありとあらゆるニュースや匿名掲示板、SNSが僕に対する誹謗中傷で炎上しまくって、収拾がつかない状態になっていた。


 もちろん僕はすでに失いかけていた小説家としての立場を完全に失い、本格的に仕事がなくなった。

 だから、ムカつくのはあの女だけではない。ネットで僕のことをバカにした奴らも同罪だ。どいつもこいつも僕のことをバカにしやがって。


 僕はベストセラー作家なんだぞ。

 お前達底辺とは違うんだ。底辺のバカどもは、みんな僕の言うことを聞け! 僕のことを敬え!! 僕のことを賞賛しろ!!!


 顔を見たこともない、どこのどいつかもわからない、自分の方こそ底辺のくせに、叩いてもいい相手を見つけた途端に、相手がどうなろうとお構いなしにブチのめすことだけを生きがいにしている最低のクズ野郎どもだって、全員この手で殺せるものなら殺したい。


 しねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしね。


「宮野さん! 落ち着いてください」


 刑事が止めるのも無視して、僕は机を蹴り、椅子を投げ飛ばして、窓を破壊した。

 結局あの日に宅配便を受け取ってから、僕は訪問者の誰にも会えなくなり、普通のハガキや手紙の郵便物すら恐ろしくなった。


 勝手に起動するパソコンは部屋から投げ捨て、部屋のブレーカーはすべて落として引きこもっていた。眠るに眠れないままノイローゼ状態で部屋を破壊しまくっているところを発見され、この病院に搬送されたらしいが、僕自身にほとんど記憶がなかった。


 あの女からもらったはずの原稿はいつのまにか姿を消していた。証明するものがなにもない。何度となく刑事や医師に説明しても、わかってもらえない。


 犯人はあの女なのに。

 全部僕が悪くて、僕の頭がおかしいことになっている。どうすればいいんだ。


 もう終わりだ。どうしようもない。

 助けてくれ。





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