01:クラスメイトと先行き不安
「リドヴェルト・フォトリア・ヴァーミトラです。剣を主に使って、魔法も少したしなんでいます。今後長いお付き合いをよろしくお願いします」
頭を深く下げて、十分に間を取って顔を上げた。こっちを見る顔はどれもつまらなそうな表情、悪かったな平凡な自己紹介で。他の奴らみたいに特筆すべきこともないんだよ。
ある意味あるといえばあるけど。呪術とかバラすわけにはいかないからな。
質問もないようなのでさっさと座って、内心でため息をついた。教室に入るまでは普通だったんだ。仲良くなるために、ティルと一緒にメシ食ったり登校したり。
……いや、食事をナイフ一本で食べようとしたのは普通じゃないな。フォークとスプーンも使えっての。豪快すぎるだろ。
まぁそんな感じで、ティルのフォローをしながらの登校。教室には結構見たことのある顔もちらほらいた。ジュスターとか、同じ寮で見かけた奴らだ。だからまぁ、なんとかなるかなーと思ってたんだけど。
「リリーアンジェ・フォアン・ノールディリアよ。特技は剣を使った近接格闘。中途半端な実力で近づくやつは容赦しないでぶっとばすから。女だからって甘く見ないでよね」
「わたくしはオリヴィエ・ラル・ベルナデット。皇国から来ましたの。補助魔法と鞭を得意としてますわ。欲しい方は声をおかけになってね、どちらでもよろしくてよ」
「僕はレベッカ・ハーゲン。知ってると思うけど、ハーゲン商会のハーゲンだよ。何か入用だったらぜひウチから買っていってね! あ、僕は剣と盾を併用して戦う騎士スタイルかな、よろしくね」
何、この、クラス。
第一貴族に皇国の留学生、勢力を伸ばしつつある商家。ジュスターは安心安定の強さだし、ティルも奨学生ってことは恐ろしく強いはずだ。
……俺、このクラスで生き残っていけるかな……ティルのフォローとか言ってらんないかも。自分のことを――ヴァーミトラ家の名前を売ったりとかもしないと。本当の“リドヴェルト”を奪ってしまったから、両親に罪悪感があるんだよなぁ。勇者と行動することで少しでも罪滅ぼしになれば良いけど。
と、順番が回ってきたのか、隣に座っていたティルが立った。あ、ちなみに席順とかは決まってない。だから隣に座ったんだけど。
「ティート・ディラーグ、です。素手で戦うことが多くて、えっと……よ、よろしくお願いします」
言い終わってすぐに座り、ぎゅうっと目をつぶって黙る。本当に人が怖いんだな……もうちょっと友達作ってやらなきゃと思ってたんだけど、すぐには難しいか。
反応は平民ってことで見下すやつがほとんど、興味を失うやつが少し、むしろ興味を抱くやつが数人。できれば純粋に仲良くなってくれるようなヤツが良いんだけどな。
俺自身、全く裏がないってわけじゃないし、マトモな友達ってのも作ってやりたい。あ、ジュスターとかなら仲良くなってくれるかな。
ティルの後にも何人か自己紹介をして、一通りが終わった。教壇に立つ先生は、危惧していたエーフィ先生ではなくロマンスグレーの髪と紫の目の穏やかそうなおじさん。なんだろう、すごくセバスチャンってあだ名をつけたくなる、そんな見た目だ。
「これで以上ですね。最後に、私はスヴェン・オスト・マクシミリアン、このクラスの担任です。初等部にいる間は私が責任者となり、皆さんを監督していきますのでよろしくお願いします」
オスト……ってことはこの学園の卒業生なのか。しかも成績優秀者。
すっと頭を下げる姿もりりしい。笑うと目尻の皺が出て、凄く優しそうだ。良かった……エーフィ先生は美人だけど、担任になるならスヴェン先生の方が頼りがいがあって良い。
「今年は奨学生もおり、実力者の多い学年です。皆さん切磋琢磨し、力を伸ばしていってください。さて……」
スヴェン先生は言葉を切り、ぐるりと教室を見回した。不意に俺のほうを見て目が止まった。え、俺?
「君はやはりこのクラスでしたか、ディラーグくん。分からないことも多いでしょうが、級友に助けを求め協力していってください」
「は、はい……」
あ、ティルか。ティルは困りながらも返事をしてスヴェン先生の方を見た。ん、知り合い、なのか? 入学前に接点なんてなさそうだけど……。
「マクシミリアン教員、一個人の生徒を優遇するつもりですか?」
りん、とした声が教室に響いた。
見ると、さっき自己紹介をしていた第一貴族の女の子が立ち上がって、ティルを深い青の目でにらみつけていた。呆れたように首を振ると、ツインテールにした薄水色の髪がきらきらと輝く。
「ここオスタリア学園では個人の実力を重視して教育がなされていると聞きましたが、どうやらそうでもないようですね。見るからに弱そうなこの子をひいきする理由でもあるんですか? マクシミリアン教員」
弱いって、酷い言い草だな。一応、凄い強い……はずなんだぞ、こいつ。自分が馬鹿にされたみたいに腹が立つ。いやほら、保護者みたいな気分だし。
不機嫌そうに言い放つ彼女に、スヴェン先生は目を細めた。
「リリーアンジェ・フォアン・ノールディリア嬢、私は理由もなく彼を名指ししたわけではありませんし、彼は決して弱くはありませんよ。今年の奨学試験をトップで合格した実力者です」
「な……っ!? こ、こんな間抜けな顔の子がトップ!?」
正直だなオイ。でも俺もそう思う。
同じことを思ったヤツも多いらしく、ざわっとティルに視線が集まった。当本人は急に集まった視線に緊張して泣き出しそうになってるけどな。あ、小さく「かえりたい……」って聞こえた。弱い、弱いぞ勇者……。
リリーアンジェは泣き出しそうなティルに顔をしかめ、スヴェン先生に視線を戻した。
「何かの間違いでは?」
「いえ、この私が試験監督でしたから間違いありません。彼は天性の才能を持っています。おそらく、このクラスの誰よりも強くなるでしょう」
なるほど、試験監督。それならティルも顔見知りになるはずだ。穏やかそうな人だし、人嫌いのティルを上手くフォローしてくれるだろう。
っていうか強い、じゃなくて強くなる、か。発展途上の段階……今は弱いのかもしれないけど、強くなるって太鼓判だ。まぁ、神様がわざわざ用意したんだし、とんでもないチートスペックに間違いはない。
リリーアンジェはそれでも納得がいかないようで、キッとティルをにらみつけた。が、スヴェン先生と何度か見比べ、不承不承に「申し訳ありませんでした」と言った。が、ティルに向かって恨みのこもった声で吐き出す。
「……これから、きっちり実力を見定めてやるわ。覚悟しなさい」
「う……」
怒気っつーか殺気っつーか。いくら平民とはいえ、そんなに怒るかってぐらいに怒っている。何か因縁かトラウマでもあるのか?
ティルは突然の展開におろおろしっぱなしだ。他の奴らも半信半疑って感じで、ティルのことを疑うような目で見ている。思いっきりアウェーだ。
こりゃ、俺がいなかったら、人類滅亡ルートまっしぐらなのも納得だ。神様の言ってた「環境のせい」ってこれか。こんな環境に何年もおかれたら、そりゃぁ憎くなるのも当然だ。
ま、今回は俺がいる。仲良くなって友達も作ってやるから、今度は世界を滅ぼさないでくれよ、勇者サマ。




