02:vsジュスターと戦い方
オスタリア学園では、授業は主に講義系と演習系の二つに分けられる。教室で授業を受ければ良いのと、実際に身体を動かすもの。だいたいどの分野でもこの二つが用意されている。
魔法の講義と演習、武術の講義と演習、意外なところでは教養の講義と演習っていうのもある。教養の演習って……マナー教室的な感じか、嫌だな……。
で、その授業ごとにだいたい先生が変わる。専門的な知識とかも必要だからなんだろうな。担任のスヴェン先生は教養かと思ってたんだけど、武術の講義担当だ。
何やるんだろうって思ってたけど、武器の手入れとかチームでの連携のとり方とか、実践的な内容でためになる。何度か受けたけど分かりやすいし面白いし、楽しみな授業なんだよな。
「リドくん、今余所見してましたねー。ダメですよぅ、ちゃんと先生を見てくださいー」
「……はい」
現実逃避してたのに、くそぅ。
入学式と顔合わせも終わり生活にも慣れ始め、いよいよ始まった演習授業の一発目。武術の演習、担当は案の定というかなんと言うか、エーフィ先生だった。ロックオンされてる……。
「では武術演習を始めますよー。えっとまずはー、簡単な組み手から始めたいと思いまーす。好きな人と組んで、一対一で5分間ですよー。魔法はダメですー。あ、武器は使っても良いですけどぉ、学校の備品を使ってくださいねー」
では相手が決まったら先生のところに来てくださーい、とエーフィ先生の気の抜けた声が聞こえる。とりあえず、期待した目でこっちを見てくるティルは止めよう。勇者と組み手なんかやってたまるか、死ぬわ。
「ね、ねぇ、リド……」
「ティル、お前を誘いたがっているやつもいるみたいだし、俺はジュスターの方にでも行くよ。じゃあな」
「え、え……!?」
捨てられた子犬みたいな目で俺を見るな。信頼してくれるのは嬉しいが、それでもどつき合うのは勘弁な。っていうか後ろのリリーアンジェの目が怖いんだよ。
「ティート・ディラーグ、覚悟しなさい。どれほどの実力か知らないけど、私をがっかりさせないでよね」
「え、えぇー……」
おお、嫌そうな顔。困惑と嫌悪が五分五分ってところか。
最近はだいぶ慣れてきたのか、怖がる以外の顔も見せるようになってきた。俺やジュスターに対しては結構笑顔も見せるようになってきたし、……リリーアンジェにはあからさまに嫌そうな顔だ。
美少女に話しかけられるたびに嫌そうな顔するもんだから、ティルは男女ともに敵が多い。あいつ、意外と人気あるんだよなぁ。第一貴族ってのもあるだろうけど、まぁ、ちょっと性格キツイけど可愛い顔してるしな。
「相変わらずだな……ティル、大丈夫か?」
「んー、俺も良く知らないけど……まぁ大怪我はしないだろ」
隣のジュスターの言葉に適当に返す。ジュスターは準備よく、木製の剣を二本持ってきていた。気配りが出来る良いやつだ、第一印象って本当に当てにならない。
あ、ジュスターとは結構いい友達だ。俺つながりでティルとも仲が良い。最近は男三人で遊びに行ったりしている……別に寂しくなんかない、ジュスターにばっかり黄色い声があがっても辛くなんかない。
チクショウ、どうせ一番小さいよ。ティルよりも実は身長低いよ!
「よし、ジュスター。俺たちもやるか!」
「……なんか、力が入ってないか」
「気のせいだ。別にお前が憎いわけじゃない……!」
「憎しみたっぷりに言う言葉じゃないぞ!?」
ジュスター、凶悪な見た目で意外と突っ込みキャラだった。なんつーか、ティルと一緒にしておくと面白い。ボケとツッコミ、うん、俺が楽で良い。
「ま、冗談はこれくらいにしておいて……お、場所空いたな、行くか」
「あぁ」
エーフィ先生の監督する、開けた場所に向かう。枠線が引いてあって、ちょっとテニスコートみたいな感じだ。
まぁ一気に全員でやったら先生も困るもんな、一度に3~4組しか出来ないみたいだ。足のつま先で抉って触ってみると、ちょっと柔らかい地面。固い地盤で倒れたら怖いし、確認だ。
前の組が終わったところに入り、剣を構える。エーフィ先生が気付いてニヤリと笑った。ちょ、なんだその笑顔。
「リドくんー、期待してますよー?」
「……しないで下さい」
明らかにジュスターの方が強いって。何気なく聞いたら、ギルドで既に3級だそうだ。この年で一人前の冒険者だぞ? 俺は才能があるわけじゃないし、せめて怪我しないようにがんばろう。
「じゃ、ジュスター。よろしく」
「あぁ、お手合わせ願う」
剣を構え、ジュスターと目を合わせる。あぁ、やっぱり紅い目が禍々しくて怖い。戦うときはより鋭くなるから、こうして向き合うと更に怖い。
ジュスターが使うのは両刃の剣。やや大きいから普通は両手で扱うけど、ジュスターはそれを片手で振り回す。かといって力押しってわけでもなく魔法も使えるらしいけど……まぁ今は魔法禁止だ、気にしないでおこう。
対する俺は、やや細身の片手剣を右手に、左手は小型の盾をつけて握りこぶしだ。本当はジュスターみたいな両手剣がいいけど、いかんせん腕力がなー。
身長もだけど、リドヴェルトって発達遅い気がするんだよな……くっ、早くもやし脱却してぇ。
「ではリドくん対ジュスターくん……はじめっ」
「……っ!」
エーフィ先生の声と共にジュスターが動く。速い……っ、空けておいた距離が一気につめられた! 慌てて下がりながら、剣を横にして受ける。握った左手の手首で刃を支える、木製だからできる受け方だ。
この世界じゃ一般的じゃないから、ジュスターの顔が少し驚いていた。その顔に――目に、左手に握りこんでおいた土を投げつける。
「な……っ」
声を無視。片手じゃ支えきれない剣を体勢を崩したジュスターごと滑らせて、ジュスターに背を向けた身体を半回転。ぐり、と固く尖らせた足が回る――後ろ回し蹴り!
「っりゃぁ!」
「ぐっ!」
固い感触。剣で受けられたか。振りぬいた足が地面につくまでやたら長く感じる。ジュスターは体勢を整えて剣を構えなおしていた。下を向いていた剣を直すまでもなく、ひゅぃん、と耳元に風。ジュスターの剣が、空気を切った音。
「勝者、ジュスターくんですねー」
「っはー、やっぱ強ぇー」
先生の声に剣を捨てて、降参とばかりに両手を挙げる。ジュスターは険しい顔のまま、ため息をついて俺に言った。
「お前……なんだあれ。チンピラみたいな動きだったぞ……」
「いや、普通にやったんじゃどうせ勝てないだろうと思って。一矢報いたって感じかな」
リドヴェルトは貴族だ。使う武器も一般的な片手剣と小型の盾。なら貴族らしい、型にはまった戦い方をするだろうと、そう思ってくれると思った。
だから意外性をつけば勝てるんじゃないかと思ったんだけど。うーん、負けたから微妙だ。
「リドくんは可愛い顔してえげつないですねー。先生的にはすごく好きですけどー」
「負けましたけどね」
あと可愛いっていうな。気にしてるんだから。つかえげつないって……そんなにえげつないか? アガタ先生はもっと卑怯で外道な戦法教えてくれたりしたけど……し、しばらく封印しておくか。呪術で卑怯キャラが板についてるのに、これ以上にリドヴェルトを外道な人間にしたくない。
「……負けたかー、はぁ」
「十分に意表を突かれたし、悪くないと思うぞ?」
「はは、ありがとジュスター」
とりあえず場所を空けるために離れ、木陰で少し休みながらジュスターと考える。
スヴェン先生の授業で習ったんだが、初等部のうちに信頼できる仲間を作らなければならないんだそうだ。いわゆる、パーティー。前衛や後衛、補助人員など、6人前後が一般的らしい。
「ジュスターもティルも俺も、基本的に前衛っぽいしなぁ……後衛やってくれそうな人間を引き込むか」
「俺は魔法も使えるぞ。……だが、やはり補助に徹した人間がほしいな」
「だよなぁ」
ティルは話から考えるとガッツリ前衛だ。そして俺とジュスターは魔法と武術バランス型。あぁ、まあどちらかといえば俺は魔法よりでジュスターは武術よりか。
「全体の指揮が出来る人間もできれば欲しいし……今のところ、リドが一番後衛向きだが」
「それは暗に俺が貧弱だといいたいのか」
「……すまん」
「否定しろよ!」
冗談だ、と笑うジュスターにむっとして小突く。目の色は凶悪だけど顔立ちは整ってるから、なんかむかつく。いや、美少年が言えた話じゃないかもしれないけど。
と、ジュスターがエーフィ先生の方に目を向けた。俺も視線を向けると、ずっかり見慣れた2人の姿。
「……ん、ティルがようやくやるようだな」
「ずいぶん時間がかかったな。ティルのヤツ、ごねたのか」
「いや、多分リリーアンジェが難癖をつけたんだろう。ティルは無手だしな」
「あー……」
素手でやるなんていったら「なめてるのか!」って怒りそうだな。ティルの場合、なめてるっていうかボケてんだろうけど。
ティルは短剣、リリーアンジェは細身の片手剣と短剣の二刀流。2人とも身軽そうだし、防具もない。速さと手数で攻めるタイプか。似たような戦い方だったら長引くかもな。まぁティルの戦闘を見るのは初めてだ、できれば今後の参考になれば良いんだが。
さて、勇者のお手並み拝見といこうか。




