到着?
ようやくヒロインが……
長かったな……
懐かしい夢を見ていた。俺がまだ小学生だったころの出来事だ。
母親と少し遠くのショッピングモールに来た時に迷子になったことがあった。
俺は母親がなぜか外にいると思い込みショッピングモールを飛び出して1人知らない街をさまよっていた。
知らない街なため当然知り合いの家など無く、俺は家にも帰ることが出来なかった。
しかし足は絶えず動かして、否、勝手にどこかへ動いていった。
どれくらい歩いただろう。気が付くと俺は山奥の神社にいた。石の階段を何十段と上ったところにその神社はあった。ひっそりとした簡素なつくりの神社だった。特にこれと言った特徴も無く、気に留めることはない。
しかしどうしてかそのころの俺はそれが何故か気になった。不思議と恐怖心は無かった。
勝手に扉を開けてお堂に入ると、そこには1柱の木彫りの像があった。
仏様などの類だろうが、俺はなんのためらいもなくそれに近づいていきそっと触れた。
目が覚めたら俺はショッピングモールのベンチで眠っていた。そしてすぐに母さんと合流することが出来た。母親には目を離したすきにすぐどこかに行ったことを怒られたが、不思議なことに母親とはぐれてから10分ほどしかたっていなかった。
夢だったのかとも思ったが、靴には土汚れが付いており、あの神社に俺がいたことを明確に示していた。
子供心ながら、母親に相談してはいけないような気がして俺はその不思議なことについて言及することはなかった。
中学、高校に上がってもそのことを忘れたことはなく、たまにその神社を探しに来たこともあったが見つけることはできなかった。
そこに住む人にも聞いてこともあったが、石段のある神社など近くには無いということだった。
もしかしたらそれは本当に夢だったのかもしれない。
靴の汚れも実はもともとついていたもので、それっぽい夢を見たからあの神社の土であると感じたのかもしれない。
結局、その神社は見つけることは叶わなかった。
しかし時々聞こえるのだ。誰かが助けて、という声が。
そしてその声が聞こえるといつもあのお堂の湿った、そしてむれた木の匂いが微かにする気がした。
「知らない天井だ」
目を開けると黒い天井が見えた。俺は、辺りを見渡す。
カーテンのような薄い布の仕切りで区切られたベッドに横たわっていた。どうやら俺は助かったらしい。いや、もしかしたらここは天国なのかもしれない。
そんなことを考えているとカーテンのような物があけられメイド服をきたケモ耳お姉さんが入ってきた。
「あら、目が覚めたのね?体はどう?痛くはない?」
「は、はあ、大丈夫ですけど……?」
「うふふ、まだ寝ぼけているのかしら。簡単に説明するとあなたは倒れているところをレティシアちゃんに連れてこられたのよ」
「それはどうもありがとうございます」
「いえいえ、どういたしまして」
俺とケモ耳お姉さんが頭を下げ合うという奇妙な光景が出来上がった。
「あの、ところで質問なんですけど、あなたはどちら様ですか。あとその、レティシア?さんっていうのは」
「あらそういえば自己紹介がまだだったわね。私はフィアーナ。魔王軍の医療班隊長をしているわ。ちなみにレティシアちゃんは四天王って呼ばれていて、とってもかわいい子よ」
「魔王軍……」
てことはここは魔王城とかなのかな。なんかあっさりついてしまったな。
「あなたの名前も聞いていいかしら。それともお姉さんには教えてくれないのかしら」
そういってフィアーナさんは目を潤ませてこちらを見てくる。
「俺は相沢宗司って言います。こちら風に言うならソウシ アイハラってとこですかね。ソウシでいいです」
「可愛らしい名前ね、ソウシちゃん。いやソウちゃんの方が呼びやすいわね、ソウちゃんって呼ばせてもらうわね」
なんなんだこの人。無駄に距離感が近いな。
「あのそれでここってもしかして魔王城だったりしますか?」
「ええ、ここは魔王城の中にある兵士用の医務室よ」
本当に魔王城だった。これはどうするのが正解なんだ。
分からない以上しょうがない。ここはドストレートに行ってみるか。
「あの魔王様っていたりするんですか」
「ええ、いるわね」
「できれば会ってみたいんですけど会えたりしませんか?」
「ええ、会えるわよ」
「そうですよね、やっぱり無理です……」
「会えるわよ」
「……え?」
「ん?」
今何て言った?会える?
「会えるんですか?」
「ええ、会えるわよ。ただし謁見という形になるとは思うけど」
そんなに簡単に会わせて良いのか?それとも罠か。
「うふふ、そんなに警戒しなくても大丈夫よ。こんな簡単に会えるなんておかしい、ってとこかしら。たしかに他の国何かでは無理かもしれないわね」
「それならどうして」
「ソウちゃん、ここは魔王国よ。いくら人間の、しかも異世界からの勇者だからといって簡単に勝てるほど魔王軍も弱くはないのよ。それに魔王様はもっと強いんだから」
そうだった。目の前の奇麗なお姉さんでも魔王軍の1員なんだ。しかもあの万年亀と同じ隊長クラスを任されているんだ。いつ殺されてもおかしくない。俺なんかよりもはるかに強いからこそこんなに余裕をもって接することが出来るんだ。
ここは敵地。いくら俺が説得に来ていたとしてもそもそも俺は魔王軍にとっては敵でしかないんだ。
その油断が命取りになる。
俺は気持ちを締めなおしてフィアーナさんを見る。
「あら、そんなに熱のこもった目で私をみてどうしたの。惚れちゃったのかしら?」
「フィアーナさん、俺はダリア帝国からの使いです。今回は魔王軍とダリア帝国の戦争を止めに、いえ、誤解を解きに来ました。魔王様に会わせていただきたく思います。どうかお目通りを」
俺はベッドから降り、フィアーナさんに頭を下げる。
「あら、どうして私に?」
「俺はここに来る前に魔王軍の防衛隊長と戦いました。いえ、戦いと呼べないほどに一方的なものでした。隊長クラスの強さを目の当たりにしました。隊長と言うぐらいなら恐らく地位は高いのだと思います。私は一刻も早く魔王様に会って伝えないといけないことがあるんです」
「それは自分のため?それともまさか正義のためなんて冷めたことは言わないわよね?」
なんのため、か。フィアーナさんの視線が鋭くなる。
そんなの
「救いたいからですよ、自分が救えるものを」
「救えるもの?」
「ええ。今回の件は、いえ、今回の件も昔の事も実際は些細な勘違いで起きたことなんです。お互い大好きでそれを伝えればよかっただけなんですよ。そんな簡単なことが出来たらこんな悲劇は起こってなかったんですよ。もしかしたら仲良くなれていたかもしれない。それなのにお互に本心をかくして引き戻せない1歩手前まで来てしまった。ある意味でこれは俺のためです。俺は本心を隠してほしくない。少しのすれ違いでこんなことが起きているだけなのに、本当は大好きでしょうがないのに、それなのに周囲のせいでそれが言えないなんて間違ってる。俺はそんなの嫌だ。認めない、認められるわけがない。もうお互い充分苦しんだんだ。だったらもういいだろ。周囲のせいで自分のしたいこと、言いたいことが言えないんなら俺がそれを取っ払ってやる。俺は魔王国もダリア帝国にも争って欲しくない。俺のかってなエゴだ。ある子に、2人に、姉たちにまた昔みたいに仲良くしてほしいって託されたんだ。もう一度言う。これは俺のエゴだ。俺とその子の願いだ。だから俺を魔王様に会わせてほしい」
思いを告げるのに少々熱くなってしまったが、それでもこれは俺の本心だ。これでだめならしょうがない、そう言えるくらいには思いのたけをぶつけたつもりだ。
フィアーナさんは少しの間目を瞑って、そして一言。
「合格」
「……へ?」
「だから、合格よ。少なくとも私はそう思ったわ。あなたたちはどうなの?」
そう扉のほうに声を掛けると、扉が開かれ誰かが入ってきた。
1人は俺が気を失う直前に見た白い人であろう。白銀に輝く大きな耳としっぽが生えており、目は切れ長で鋭く、とても美人だ。しかし鑑定しなくてもわかるほどの強さだ。体中から強者の風格が漂っている。
もう1人は筋骨隆々の白髪の老人であったが、こちらもまた強者の風格が漂っていた。そしてなぜか大きな甲羅を背負っていた。まるで亀〇人のように。
「あの、フィアーナさん、こちらの方々は?」
俺が訪ねると爺さんの方がにかっと笑い話しかけてきた。
「おいおい旦那、俺とやり合ったってのに忘れちまったのか?もしかして頭でも打っちまったか?いやーすまんな、話もろくに聞かずにやっちまって。すまなかった、この通り、な」
そういって軽く頭を下げながら謝ってくる。
「お前、もしかしてあの亀か…」
「おう、俺は魔王軍防衛隊長のタートゥールってんだ。気軽にウル爺って呼んでくれや。そういえば旦那はなんで俺が隊長だって知ってたんだ?」
「え、ああ、それは俺が鑑定をしたからだけど」
「何?旦那は鑑定が使えるのか?すごいな、魔王軍では2人しか使えないんだぜ。ちなみにその1人は魔王様なんだぜ」
「お、おうそうか」
なんだこいつ。こんな奴だっけ。
「なあ、フィアーナさん、ウル爺ってこんな感じだったか」
小声でそう聞くと
「ああ、たぶん冷静になったところにさっきの言葉をきいてソウちゃんのことを気に入ったんじゃないかしら」
と返された。まじか。
異世界に来て女の子より先に爺さんに好かれてしまった。別に爺さんを差別しているわけではないが、特に俺は爺さんが好きだとかの特殊性癖を持ち合わせているわけでもないからこれ以上の関係はぜひ遠慮したいところだ。
「ところでなんで今はその姿なんだ?」
「ん、これか。よく聞いてくれたな。これは人化といって人型になるものである程度高位の魔獣なら使えるものだ」
「てことはフィアーナさんやそこの子も人化してるってことか?」
「違うわよ。私とレティシアちゃんはもともと人型の魔族なの。レティシアちゃんは厳密には獣人なんだけど人間は獣人も魔族ってくくりにしているわ」
「2人はなんて種族なのか聞いても大丈夫か?」
「私は夢魔、いわゆるサキュバスってやつよ」
「サキュ……バス……(ゴクッ)」
まさか本物のサキュバスを拝むことが出来るとは。
俺がフィアーナさんに釘付けになっていると、レティシアからすごい剣幕で睨まれた。
「私は魔王軍四天王のレティシアだ。誇り高き白狼族だ。貴様の事は完全に信用したわけではないからな。あまり調子に乗るなよ」
そういってフンっと顔を背けられてしまった。
「あら、そんなこと言って傷や魚をくれたお礼にここまで護衛していたのはどこの誰だっけ?」
「な、そ、それは言わにゃいやくそくでしょ」
顔を真っ赤にしてレティシアは手をアワアワさせている。
「じゃああの子犬はレティシアだったのか」
「子犬って言うな。それにこれは借りを作りたくなかっただけだからな。勘違いするなよ。けっして魚がおいしかったとか、傷を治してくれたのがうれしかったとかじゃないからな」
なんか可愛いな。ペットを見ているみたいだ。
俺がほほえましい顔で見ているとキッと睨まれてしまった。
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