手紙
コウジくんと付き合うことになった日の夜、私はスケジュール帳を見ながら濃いアイメイクの彼女と会った日を思い出していた。その日々はいつも雨が降った。彼女は赤い傘をちゃんと取りに喫茶店へ戻ったのだろうか。何故、名前を教えてくれないのだろうか。コウジくんに未練があるのだろうか。様々な疑問が浮かんでも、答えなんて当然わからない。けれど、もう一度会いたいと思った。
時は巡り夏休みが明けて、後期の授業が始まった。コウジくんとは相変わらず、自然体で付き合えた。マホも私たちの交際に驚いていたが祝福してくれた。ゼミの同期も「最近変わったね、話しやすいし楽しい」と言う。確実に、変わった。世界が変わった。毎日がとても楽しかった。それでも、濃いアイメイクの彼女の存在は忘れられなかった。コウジくんと会っていても、マホと話していても、講義を受けていても、どこかで彼女のことを気にしていた。彼女に会って、久しぶりにミルクティーが飲みたい。
講義が終わって、私は喫茶店に向かった。ドアベルを鳴らして店内に入ると、待っていたよというようにマスターが手招きした。だから、いつもと違ってカウンターに座った。マスターは黙って紅茶の準備をする。私が店内を見渡すと、視界に赤い傘が飛び込んできた。
「マスター、傘……」
私が言うと、マスターは紅茶を私の前に置いて、その隣に白い封筒も置いた。
「これ、私に?」
マスターは黙って頷いた。私は紅茶にミルクと砂糖を入れて、かき混ぜながらその封筒を見つめた。直感的にその手紙は濃いアイメイクの彼女からだと思ったから読むことが怖かった。
「あなたに渡してと頼まれたんだ」
マスターが言った。読むように促されてるんだとわかった。白い封筒は丁寧に封がしてあり、私は慎重に開ける。中からは便箋が二枚出てきた。
『私が誰だか、わかるでしょう。
彼とは上手くいってますか。
世界は変わりましたか。
あなたならこれからも楽しい日々が過ごせるでしょう。
彼は私を元カノと言うでしょう。私のこと面倒な女とでも言っていると思います。それは強ち間違いではありません。去年までの私はあなたのようにつまらない毎日を過ごしていました。彼氏はいたものの、嫌われたくないから相手の顔色を伺って会話やLINEをしていました。ちょっと前のあなたのように。
傘はあなたにあげます。それはあなたのものだから。そして、一つあなたに嘘をついていたことがあります。私はあなたと同じ大学、学科に在籍していません。ついこの間、退学届を提出しました。もうあなたに会うことはないでしょう。彼とお幸せに。』
一枚目の便箋はここまでだった。二枚目の便箋はたったの一行しか書かれていなかった。
『最後にあなたの名前を当てましょう。あなたは……』
そこに書かれていた名前は私と同姓同名だった。マスターに話しかける。
「傘を、見せてください」
マスターは私に彼女の赤い傘を差し出した。刺繍を見ると、そこにはコウジくんの名前と私の名前が&で結ばれて書かれていた。




