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東方凛理観  作者: のんの
9/25

第四話 友達の条件  上

『紅魔館メイド掲示板』


○月△日


・次のろう下掃除は掃除4半です。掃除3半副長

 ↑判だし(笑 戦闘5判副長

  ↑班です。メイド長


・全戦闘班へ

 今週の配置は4-4です。戦闘全班長


・そういえば、見たことない人間の男がうろついてた! 食堂3班

 ↑私も見た。掃除1班←私も。食堂2班

 ↑メイド長が連れてたよ。戦闘4班

  ↑ついにメイド長も男に…。戦闘6班長

   ↑あなた達仕事なさい。それと戦闘6班長はお嬢様就寝後、紅魔館裏の墓地に来るように。メイド長


 カツカツカツ。いや、コツコツコツの方が合ってるかな。

 一定のリズムで音を立てながら、十六夜さんは紅魔館の廊下を瀟洒に歩く。


 俺はそれについて行きながら、これから遊ぶことになるフランちゃんの事を考える。

 あのスカーレットの妹なのだから子どもであるのは間違いない。吸血鬼であるという事に気を付ければ大丈夫であろう。

 問題はどう遊ぶか、なのだが……。


「えっと、十六夜さん。そのフランちゃんの好きな遊びって何ですかね?」


 やはり一緒に遊ぶのだから、楽しませないといけない。そのためにもどんな遊びが好きなのかは知っておきたい。

 ……まぁ、吸血鬼という存在の気を損ねさせたくない、というのもあるけど。


「……弾幕ごっこよ」

「え?」


 弾幕ごっこ?

 十六夜さんの口から出た聞いたことのない単語に思わず聞き返してしまう。

 名前からどんな遊びなのか全く想像出来ず、それが何なのか質問しようとすると、十六夜さんが足を止める。


「妹様の部屋はここ」


 気を付けてね、弾幕ごっこが何なのか聞く前に、十六夜さんは立ち去ってしまう。

 ……一体何に気を付けろというんだろうか。


「弾幕ごっこってなんだよ……」


 十六夜さんが去って行った方を見るが戻ってくるわけもなく、仕方なく視線をフランちゃんの部屋の扉に移す。

 スカーレットの部屋のと違い何の装飾も施されていない、至って普通のドアだ。

 唯一他のドアと違いがあるとすれば、『フランの部屋』と可愛らしい文字で書かれたプレートが掛けられていることのみ。


 どうやら思っていたよりも普通の女の子みたい。

 俺はそのことにほっと息を吐きながらドアノブに手をかけ、扉を開いた。


 ……やべっ、ノックし忘れた。

 俺は自分の失態に軽く後悔しながらも、部屋の中に目を向けた。そして――


「だれ? お兄さん?」


 部屋のベットに腰かけている少女と目が合った。


「……ッ」


 瞬間、俺の身体の全機能が一時的にストップした。


 この子が全身から醸し出している圧倒的な孤独。

 そして、その眼に宿る禍々しい狂気に、身体が押し潰されてしまいそうな圧迫感を覚える。


 なんだ、これは……。


「お兄さん何? 新しいおもちゃ?」


 この子、フランちゃんはスッと立ち上がる。

 だ、ダメだ。呑まれるな……。


「い、いいや、違うよ……」


 生唾を飲み込み、辛うじてそうとだけ答えた。


 フランちゃんは一歩一歩、ゆっくりとこちらに歩み寄る。

 いくら部屋が広いと言っても、もうすぐにでも俺の元までたどり着いてしまうだろう。


「じゃあ、なに?」


 ……実感した。

 これが運命の分かれ道、というやつだ。


 ここで返答を間違えてしまえば、俺は間違いなく殺される。

 喉がカラカラに干上がって脳みそが沸騰する。なんとか、なんとか生き延びないと……。


 俺は息を吸い込み、震える息をゆっくりと吐いた。

 それからこの部屋を見渡す。部屋にはベッドと跡形もなく壊された家具達。それから腕や腹を引き裂かれたぬいぐるみがたくさん転がっている。


 俺は静かに瞳を閉じ、先ほどのこの子の言い様のない孤独感を思い起こす。


「……」


 この子とこの部屋を見比べると、何故だろうか、唐突に一つの単語が頭を過ぎった。


 それはあまりにもこの状況に似つかわしくないもので、その脳裏に浮かび上がった言葉を言ったところで助かる見込みなんて万に一つもないだろう。

 

 しかし、何故だろう。その言葉で自分は助かると、そしてそれをこの子が欲しているのだと、自分は確信した。

 根拠のない、しかしながら絶対的な自信。


「ねぇ、答えてよ。お兄さんは、何?」


 俺の元までたどり着いたフランちゃんがこちらを見上げる。

 それと同時にフランちゃんの右手が光を集め、赤く淡く発光しだす。優しく、暴力的な光だ。


 俺はフランちゃんの目を力強く見つめながら、その言葉を口にした。


「俺は――友達だよ」


 ……そう、友達。この子が欲しているのは一緒に遊べる、友達。

 孤独感溢れるこの部屋とこの子を見て、そう思った。


「……え? お兄さん、友達なの?」


 “友達”という単語に反応したフランちゃんは、可愛らしく首を傾げる。


 それと同時に右手に集められていた光が四散した。

 俺をまさに押し潰そうとしていた圧倒的なプレッシャーがなくなる。


 た、助かった……。

 思わずへたり込んでしまいそうになるのを我慢して、平静を装う。

 俺は今からこの子と友達にならないといけないんだから、恐れを見せては駄目だろう。


「いや、えっとね。正確にいうと、友達にならない? ってことかな」


 腰をかがめて視線をフランちゃんに合わせてから、出来るだけ優しい笑みで言う。

 ……自分は、しっかりと笑えているだろうか。


 するとフランちゃんは、さっきと同一人物とは思えないほどの笑顔を浮かべた。


「ほんと!? 友達になってくれるの!? 私ね、フラン! フランっていうの!」


 お兄さんは? 笑顔で尋ねるフランちゃんに安堵して息を吐く。

 この調子ならば、殺されずに済みそう。後は友達のふりをして遊ぶだけだ。


「俺は凛っていうんだ。よろしくね」

「うん! よろしくね凛! えへへ、これで友達だ!」


 フランちゃんは嬉しそうに手を広げた。

 俺はそれに対して首を横に振った。


「いや、それだけじゃ友達にはなれないんだ。友達の条件って知ってる?」


 こんな化け物染みたモノと友達だっていうのはおぞましいものを感じるが、それを表に出してはいけない。

 俺は今からこの子の友達にならないといけないんだから。


 フランちゃんは俺の質問に対して、知らない、と首を振る。


「友達の条件、それはね。一緒に楽しんで遊べるってこと!」

「そうなんだ!」


 そうするとフランちゃんは、楽しそうににパチパチと拍手した。それから、思いついたように口を開いた。


「よし、わかった! じゃあ弾幕ごっこしよ!」


 ……でた、弾幕ごっこ。

 俺はせっかく機嫌のよくなったフランちゃんの神経を逆なでしないように、笑顔で話しかける。


「あのさ、俺って弾幕ごっこ知らないんだよね。教えてくれない?」


 そう言うとフランちゃんはきょとんとした顔をし、それから子どもが自分だけが知っている知識を友達にひけらかす時のような、得意げな顔をして言った。


「もう、仕方ないなぁ~。じゃあ私が特別に教えてあげる」

「そっか。ありがとなフランちゃん」


 フランでいいよ、とはにかみながらフランちゃんは手を前に出した。

 すると――


「これが弾なの」


 その手の先に、漫画に出てきそうな光の球が現れる。

 赤色のそれは微かに光っており、まるで某漫画のエネルギー弾みたいだ。

 紅い光弾はその場にふよふよと停滞している。その姿はまさにあの悟空が出す気弾そのもの。


 それを見て、俺の思考は完全に停止した。



 ……え? まじで?



 漫画でしか見ることが叶わないと諦めていたものが目の前に。思わず声を荒げてしまう。


「す、すげぇ……! なにこれすげぇ!」


 こんなものを間近で見てしまっては、男の子ならば否が応でもテンションが上がってしまうというもの。

 俺は上がったテンションをそのままに、フランに話しかけた。


「ちょっ……マジやべぇだろこれ! マジなんだこれ!?」


 ふぁ、ファンタジーだ! 異世界! 異世界だ! 幻想郷は思ったより異世界だ!

 これからはこの子のことをフラン先生と呼んだ方がいいんじゃないだろうか! 明らかにフランは俺よりハンパねぇ!


 いきなりハイテンションになった俺に引き気味なりながらフランが答える。


「え、こ、これは弾だよ」

「弾……!」


 弾、これが! よし! 俺にも出せるかな。

 少し呆れ気味のフランを横目に、俺もこの子の真似をして手を前に出す。


 が、もちろん何も出ない。

 しかし、こんなものを見せられて諦める俺じゃあない!


「ねぇ、フランはこれ、どうやって出してんの?」

「うん? 簡単だよ?」

「ほんと!?」


 きた。きたきた! これを教えてもらえれば友達に自慢できる! 一躍有名人だ!

 俺は一字一句聞き逃さないようにフラン先生の言葉を待つ。


 俺の注目を一身に受ける中、フランは口を開いた。


「まずはね、自分の魔力を――」


 うぇ……。

 魔力、その単語が出た瞬間、俺は自分の興奮が一気に冷めるのを感じた。


「あ、はい。おけおけ、魔力ね魔力」


 霊力や魔力、それらについてならちょっとだけ知っている。所謂、ゲームで言うMPってやつ。

 博麗神社は霊力とやらで明かりを灯していたので、その時に霊夢から聞いたのだ。


 そして、俺はそのついでに自分でも出来るかと霊夢に尋ねた。

 それで霊夢がなんて言ったかというと――――


『霊力も妖力も神力も魔力もゼロ。あんた才能ないから』


 これである。

 何かもっとオブラートに包んで伝えてほしかったが、逆にそれで踏ん切りがついたのだからそれはそれでよしとしよう。


 まぁ、つまるところ、俺に霊力的なものは具わっていないのである。

 なので、魔力、という単語が出た時点で俺はこの弾を出すことを諦めなければならないということだ。


「ど、どうしたのさ?」


 急に落ち込んだ俺に戸惑いながらフランちゃんが話しかけてきた。 


「いや、なんでも……。

……あぁ、それで弾幕ごっこって?」


 このままグチグチ言ってても仕方ない。弾についてはもう諦めよう。


 フランちゃんは首を傾げたが、話を進めようと判断したのか、さらにもう一つ弾を出した。

 それからそれらをお手玉するように回す。


「えーとね。まずこんな感じで弾をいっぱい出して、それを撃ったり避けたりするの」


 とうっ、と可愛らしい声で弾を壁に向けて放つフラン先生。

 すると壁は派手な爆発音と共に粉砕され、人が一人通れそうな穴が開いた。そこから無人であろう隣の部屋が窺える。


「……おぅふ」


 マジか……。

 この弾の予想外な威力に唖然とする俺をおいて、フランちゃんは説明を続ける。


「それでねスペルカードっていうのがあってね。それは――」

「よしわかった。把握した。思いだしたわ~。あれね、弾幕ごっこね。弾幕ごっこ。OKOK」


 わかった。あれだ。弾幕ごっこは人外専用だ。だって俺こんなん当たったら死んじゃうもん。


 ……なんとかフランちゃんと弾幕ごっこをやる流れを打ち切らなければ。


「え~、私まだ話し終わってないよう」


 フランちゃんは駄々っ子のように頬を膨らませる。自分が知っている知識をまだお披露目したいんだろう。


 うん、でもダメ。こんな遊びしちゃったらお兄さん死んじゃうからね。 


「いやぁ~、だってさフラン。弾幕ごっこって有名なあれじゃん? だからさ、なんていうかインスピレーション? な感じで伝わったわ。

いや、すげぇなフランは。そんなスタイリッシュな感じで弾幕ごっこについて説明しきるなんてさ」

「そ、そう?」


 俺自身、自分で何を言っているのかは分からないが、褒めている、というのは伝わったんだろう。フランちゃんは照れたようにはにかみんだ。


 そしてフランちゃんは、じゃあさっそく! と手をいっぱいに広げる。


「……えっと、ちょっと待とうねフラン。俺ってさ、弾出せないじゃん? だけさ、別の遊びにしない?」

「え~」

「頼む! お願い!」


 必死にフランちゃんに頼み込む。

 なんだか、女の子に対してそうしている自分が酷く情けないが、自分が生きるため仕方ない。


 そうすると、フランちゃんは下を向いてボソッと言った。


「でも私、弾幕ごっこ以外知らないもん」

「え……?」

「私、あんまり他の人と遊んだことないから……」


 フランちゃんのその言葉に返す言葉を失くしてしまう。


 俺は何も言葉が出てこず、フランちゃんは俯いて黙っている。

 葬式並みに重い空気がその場を支配した。


「……」

「……」


 うわー、やっちゃったわー。地雷踏んじゃったわー。これやばいわー。

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