↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
静寂の城〜魔王は世界征服をしたい〜  作者: 赤井六舷
魔族領氷雪都市、クリアフォル

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/171

69.笑芸大会、終盤戦になる

笑芸大会は十一組を終えて残り四組、その中には前回優勝の爆笑サーカス団、そして大トリにはビルムとミリアのうさぎドラゴンが控えている。

会場全体が、ここからが本番だと言わんばかりの熱気に包まれていた。

司会者が大きく息を吸い込む。


「さあーーーっ!! いよいよ大会も終盤戦!! 残るは四組のみ!!」


観客席から大歓声。


「ここから一気に優勝候補が続くぞ!」

「最後まで目が離せねぇ!」


特別席で静かに見つめるフロスティアも、内心では高揚を隠せなかった。


(……ここからが楽しみ。)


表情はいつも通り冷静。

しかし心の中では、期待で胸が弾んでいた。

司会者が次の組を紹介する。


「十二組目ーーーっ!!全国を笑いながら旅する自由人コンビ!!『風来ボケ旅団』ーーーっ!!」


ドォォォン!!


軽快な旅の音楽が流れ、二人組が大きく手を振りながら舞台へ飛び出してくる。


「旅の途中で財布なくしましたー!」


「それ旅じゃなくて事件や!」


開始一秒で笑いが起こる。


「宿代がないから大道芸しようと思ったら、お客さん全員同業者やった!」


「誰が誰を笑わせるねん!」


テンポのいい旅ネタに会場は終始笑顔。

世界各地を旅したという設定を生かし、各地の文化や珍事件を次々と笑いへ変えていく。


「雪国で『熱いですねぇ』って言ったら追い返された!」


「空気読めや!」


「砂漠で迷ったらラクダに道聞いた!」


「ラクダが知るか!


客席は爆笑の連続。

ガエンは腹を抱えて笑う。


「こいつらも面白ぇな!」


マイトも笑いながら拍手を送る。


「レベル高すぎるよ、この大会。」


ラーシャは口元を押さえながら肩を震わせ、ナラは空中をくるくる飛び回るほど笑っていた。

最後は二人が旅人らしく荷物を背負い直し、


「それじゃ次の町でも笑わせてきます!」


「ここが最後の町やけどな!」


という締めで大きな拍手を浴びながら舞台を後にした。


「ありがとうございましたーーーっ!! 風来ボケ旅団!!」


惜しみない拍手と歓声が会場を包む。

そして司会者は、ここで一度間を置いた。

照明がゆっくりと落ちる。

観客席がざわつき始めた。


「……来るぞ。」

「前回王者だ。」

「あの爆笑サーカス団がついに……!」


期待と緊張が入り混じる空気の中、司会者が声を張り上げる。


「さあ皆様、お待たせいたしました!! ここで登場するのは――前回大会優勝!! 圧倒的な完成度で王座を掴み取った笑いの王者!!」


会場のボルテージが一気に上がる。


「十三組目!!」


一拍置いて、


「『爆笑サーカス団』ーーーーーっ!!」


その名前が響いた瞬間、会場は今日一番とも言える歓声と拍手に包まれた。

舞台中央に、スポットライトが一斉に集まる。


ドォンッ!!


華やかなファンファーレと共に、色鮮やかな衣装をまとったピエロの姿の爆笑サーカス団の二人が、大きく前転しながら登場した。


「待たせたなぁぁぁぁっ!!」


「待ちすぎて客席が一歳くらい年取っとるわ!」


開幕から完璧な息。

客席は一瞬で笑いに包まれる。


「さすが王者だ……!」

「あのテンポ、全然衰えてない!」


二人は漫才だけでなく、曲芸やジャグリング、パントマイムまで笑いに変えていく。

ボールを五つ投げながら、


「俺、これ得意やねん!」


「その顔で言われても信用できへん!」


次の瞬間、一つ落とす。


「ほら失敗した!」


「今のは予定通りや!」


さらにもう一つ落とす。


「それも予定通り!」


「予定多すぎるわ!」


ドッ!!


会場中が大爆笑。

そこから畳みかけるようにボケとツッコミが連発される。

巨大な一輪車に乗ろうとして転び、


「これは新しい乗り方です!」


「誰が認めるねん!」


ピエロらしいオーバーリアクション。

予想外の展開。絶妙な間。どれを取っても一級品だった。笑いが収まる暇すらない。


「ははははははは!!」

「腹痛ぇぇぇ!!」

「もう無理!」


今日一番と言っても過言ではない爆笑が会場全体を揺らした。

涙を流しながら笑う観客。椅子を叩く者。立ち上がって拍手する者。

まさに王者の貫禄だった。

特別席ではフロスティアは腕を組み、相変わらず冷たい表情で舞台を見つめている。


(…………。)


次の瞬間。


「……ふっ。」


ほんのわずかに口角が上がりかけた。


(……しまった。)


ハッとして、慌てて表情を引き締める。


(危ない危ない……。危うく笑うところだった。)


咳払いを一つ。

何事もなかったかのように再び氷の女王らしい無表情へ戻る。

しかし心の中では、


(……やはり前回王者。見事ね。)


と、素直に感心していた。


一方、観客席ではガエンが腕を組みながら唸る。


「……いやぁ、やっぱり強ぇな。」


マイトも苦笑いを浮かべる。


「これは優勝候補って言われるのも納得だよ。」


ラーシャも静かに頷く。


「あの完成度は圧巻ですね。」


ナラは羽を止めて、小さく息をのむ。


「ビルムたち……大丈夫かなぁ。」


ガエンは笑いながらも、少しだけ真面目な顔になる。


「正直、ちょっと心配になってきたな。」


マイトも視線を舞台袖へ向けた。


「大トリって、あの人たちの次の次なんだよね……。」


ラーシャは小さく微笑む。


「でも、ビルムさんとミリアさんなら、きっと何かやってくれる気もします。」


「確かに。」


ガエンは大きく頷いた。


「あいつらは実力でここまで来た。相手が王者だからって縮こまるような奴らじゃねぇ。」


ナラも元気よく羽ばたく。


「うん! きっと最後に、うさぎドラゴンらしい笑いを見せてくれるよ!」


その頃、舞台袖では。

爆笑サーカス団の歴代王者にふさわしい圧巻の舞台を見届けたビルムが、額にじんわりと汗を浮かべていた。


「……あかん。めっちゃおもろいやん。」


思わず本音が漏れる。

隣ではミリアが白いうさぎ耳を揺らしながら、いつもの涼しい顔で舞台を見つめていた。


「そうね。最高だったわ。」


そして、静かにビルムへ微笑む。


「でも、だからこそ燃えるでしょう?」


ビルムはその言葉を聞き、小さく息を吐くと、ゆっくり笑みを浮かべた。


「……せやな。大トリやからこそ、一番おもろい漫才やったる。」


爆笑サーカス団は鳴りやまない拍手の中、深々と一礼して舞台をあとにした。


「ありがとうございましたーーーーっ!!」


司会者も興奮を隠せない。


「いやぁぁぁぁ!! さすが前回王者!! 会場を笑いの渦に巻き込んでくださいましたーーーっ!!」


客席からは、


「優勝はやっぱり爆笑サーカス団だろ!」

「今年も決まりじゃないか?」


そんな声まで飛び交う。

しかし司会者はニヤリと笑った。


「ですが、まだ終わりではありません!! 残るはあと二組!!」


会場が少し落ち着きを取り戻した、その時だった。


「続いて十四組目ーーーっ!!『銀河コメット』ーーーーっ!!」


拍手の中、銀色と紺色の宇宙服風衣装を着た二人が軽快に登場する。


「どうもー! 宇宙から来ましたー!」


「来る途中、流れ星を追い越してきましたー!」


軽い導入。


……しかし。


「…………。」


客席は静かだった。

二人は一瞬だけ目を合わせる。


(あれ?)


それでも気を取り直して続ける。


「宇宙人って地球に来たらまず何すると思います?」


「知らん!」


「コンビニで肉まん買います!」


「なんでやねん!」


……


シーン。


「……。」


笑いが起きない。

片方の額に汗がにじむ。


(や、やばい……。)


焦った二人はテンポを上げる。


「ブラックホールに財布落としたんですよ!」


「もう返ってこんわ!」


……


シーン。


客席からは、


「ん?」

「さっきの爆笑サーカス団が凄すぎたかな……。」


という小さなざわめきが聞こえる。

銀河コメットも必死だった。


「宇宙船の燃費が悪くてですね!」


「どんな燃料や!」


「笑顔です!」


「エコやな!」


……


シーン。


空気はますます重くなる。

ボケが空を切り、ツッコミも決まらない。

焦れば焦るほど間が崩れ、言葉が噛み合わなくなっていく。

一人が勢いよく転んで笑いを取りにいく。


「いたたたた!」


「大丈夫か!」


……


パチ……。


どこからか励ますような拍手が数回鳴るだけだった。


「…………。」


舞台袖では、その様子を見ていたビルムの顔色がみるみる青くなる。


「う、うわぁ……。」


ごくり、と唾を飲み込む。


「爆笑サーカス団の直後って……こんな空気になるんか……。」


額から一筋、冷や汗が流れた。


「これ……めちゃくちゃ怖いやん……。」


ビルムは自分の出番を思い浮かべ、思わず頭を抱える。


「十四組目が滑ったせいで、次の空気を変えなあかんやん……!」


震えた声でそう漏らす。


「しかも、その役が……俺らや。」


両手で頬を叩きながら、


「うわぁぁぁぁ! プレッシャー倍増してもうたぁぁぁ!!」


と小さく叫んだ。

そんなビルムを見て、ミリアは相変わらず落ち着いた表情のまま首をかしげる。


「ビルム。」


「……な、なんや?」


「今のを見て思ったことがあるわ。」


「なんや?」


ミリアは真顔で言った。


「つまり私たちは、宇宙に行かなければいいのね。」


「そこちゃうわ!!」


ビルムは思わず全力でツッコんだ。

その一発で、張りつめていた自分自身の緊張が少しだけほどけるのだった。


舞台の空気は、依然として重かった。

銀河コメットは必死にネタを続ける。


「最後のネタいきます!」


「宇宙一おいしいラーメン屋見つけたんですよ!」


「どこにあるねん!」


「月の裏です!」


「営業時間どうなっとんねん!」


……


シーン。


一瞬の沈黙。

どこかで小さく笑う声が聞こえたものの、それは会場全体へは広がらない。

二人は最後まで諦めずに走り切った。


「ありがとうございました!!」


深々と頭を下げる。

客席から送られたのは、温かい励ましの拍手。

だが、それは爆笑ではなかった。


「…………。」


銀河コメットは顔を上げる。

悔しさを押し隠すように笑顔を作り、手を振りながら舞台袖へと戻っていく。

その背中は、どこか小さく見えた。

会場には、妙に冷えた空気だけが残る。

司会者もその雰囲気を感じ取ったのか、一瞬だけ言葉に詰まる。


「え、えー……! 銀河コメットのお二人、ありがとうございましたー!」


パチパチパチ……。


拍手は鳴る。

しかし先ほどまでの熱狂は、まるで夢だったかのように消えていた。


特別席のフロスティアは舞台を静かに見つめていた。

その氷のような美しい顔には、先ほどまでのわずかな余裕すらない。

眉がほんの少しだけ寄る。


(……これは。)


静かな胸中で呟く。


(爆笑サーカス団の後では、誰であっても苦しい……。)


その鋭い視線は、自然と舞台袖へ向いた。


(そして、この空気のまま最後を任されるのが――うさぎドラゴン。)


ほんのわずかに目を細める。


(試されるわね。)


一方、観客席。

ガエンは腕を組んだまま低く唸った。


「……やべぇ空気だな。」


ダグラスも珍しく笑顔を消している。


「これはきついな……。」


マイトは不安そうに舞台袖を見た。


「笑いって、一回流れが止まると戻すのが本当に難しいんだよね……。」


ラーシャも静かに息をつく。


「銀河コメットさんも実力はあったはずです……。ただ、順番があまりにも厳しかったですね。」


ナラは羽を小さく震わせた。


「ビルムたち……大丈夫かなぁ。」


ガエンはゆっくりとうなずく。


「今までで一番の試練かもしれねぇ。」


誰も軽口を叩かなかった。

客席のあちこちからも、小さな声が漏れる。


「さっきまであんなに笑ってたのにな……。」

「空気が変わっちゃった。」

「最後のコンビ、大丈夫かな……。」

「このまま終わるのは嫌だけど……。」


そのざわめきは、会場全体にじわじわと広がっていく。


舞台袖。

銀河コメットの二人が肩を落としながら戻ってくる。

ビルムは何も言えなかった。ただ、小さく頭を下げる。

銀河コメットの一人は苦笑しながら言った。


「……頼んだよ。」


もう一人も無理に笑顔を作る。


「最後、会場を笑わせてくれ。」


そう言い残し、二人は静かに去っていった。

その言葉が、ビルムの胸にずしりと響く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。