30.笑芸大会、始まる
笑芸大会の会場は超満員で熱気に溢れていた。
観客は誰が優勝するのかの議論を交わし開会式を待っていた。
「今年もやっぱり爆笑サーカス団だろ! あの完成度は反則級だ!」
「いやいや、今年の台風の目は”うさぎドラゴン”だって! 予選の映像見たか? 腹よじれたぞ!」
「でも大トリって緊張するぞ? あの順番で笑いを取るのは簡単じゃねぇ。」
「あの白いモフモフ着たラミアのボケが最高なんだよ!」
「いや、ドラゴニュートのツッコミが鋭くて好きなんだ!」
「俺は昔から爆笑サーカス団一筋!」
「あー、開会式が待ちきれねぇ!」
会場中が笑い声と期待に包まれ、あちこちで好きな芸人や優勝候補の話題が飛び交う。
「私は『おしゃべり三兄弟』を応援してるの!」
「俺は『鉄板ブラザーズ』だな。」
「優勝はともかく、今年はどんな新ネタが出るか楽しみだ!」
売店では温かい飲み物を片手に談笑する者、記念旗を振る子供たち、芸人の名前を書いた応援うちわを掲げるファンまでいて、まるで祭りそのものだった。
そんな中、
「女王陛下、ご到着です!」
会場入口に響き渡る衛兵の声。
ざわめいていた観客が一斉に振り向く。
そこに現れたのは、氷雪都市クリアフォルを治める女王、フロスティア。
純白と水色を基調とした豪奢なドレスに、氷結晶を模した王冠。
歩くたびに裾から淡い氷の粒が舞い、まるで雪そのものが彼女を祝福しているかのようだった。
観客たちは慌てて道を開ける。
「女王陛下だ……。」
「お美しい……。」
「今日は直々に観戦されるのか。」
フロスティアは誰にも微笑まず、静かな足取りで歩く。
その青い瞳は冷え切った湖のように澄み、周囲を一瞥する視線もどこか冷たく見える。
「…………。」
威厳に満ちた無表情。
近寄りがたい空気に、誰も軽々しく声を掛けられない。
しかし。
(始まる……! いよいよ始まる!今年はどんな芸人が私を笑わせてくれるのかしら!爆笑サーカス団も楽しみだし、噂のうさぎドラゴンも気になる!今日は絶対に最後まで見る!ああっ、もう開会式が待ち遠しいっ!)
心の中では、子供のように飛び跳ねたいほど大興奮していた。
だが、そんな感情は表情に一切出さない。
「……。」
相変わらず氷のような無表情のまま、ゆっくりと特別席へ向かう。
側近たちはその姿を見て、
(今日も陛下は実に威厳がおありだ。)
(さすが氷の女王……。)
と感心していた。
もちろん、その胸の内で「早く始まってください!」と必死に叫んでいることなど、誰一人知る由もない。
フロスティアは特別席の玉座に静かに腰を下ろえる。
脚を優雅に組み、頬杖をつきながら舞台へ視線を向けた。
その姿はまさに冷厳なる氷の女王。
しかし心の中では
(お願いだから一組目から面白い人たちが来ますように……!今日はいっぱい笑いたい……!)
期待で胸を躍らせながら、開会式の始まりを今か今かと待ち続けていた。
しばらくして
ドォォォン!!
色とりどりの魔法花火が昼空へ打ち上がり、会場全体に祝福の光が降り注ぐ。
同時に、巨大な魔道拡声器から勢いよく声が響いた。
「レディース・アァァァンド・ジェントルメェェェン!! そして笑いを愛する全ての皆さぁぁぁん!!」
照明魔法が一斉にステージを照らし、一人の派手な燕尾服を着た司会者が飛び出してくる。
「ようこそお越しくださいましたぁぁ!! 年に一度! 笑いの頂点を決める祭典――『笑芸大会』開幕でぇぇぇぇす!!」
ワァァァァァァァァァァッ!!
観客席が揺れるほどの歓声。
司会者は両腕を大きく広げ、さらにテンションを上げる。
「今年も全国各地から腕自慢、いや! 笑わせ自慢の芸人たちが集結しました!! 本日の出場者は総勢十五組!! 栄えある優勝を勝ち取るのは一体どのコンビ、どの団体なのかぁぁぁ!!」
「うおおおおお!!」
「待ってましたー!!」
「優勝しろ、うさぎドラゴン!」
「爆笑サーカス団ー!!」
あちこちから応援が飛び交う。
司会者はニヤリと笑い、一本の巻物を広げた。
「それでは皆様!! 本日の出演順をご紹介いたしましょう!!」
巨大な魔法スクリーンにも名前が映し出される。
「トップバッター! 一組目!!
『おしゃべり三兄弟』!!」
歓声と拍手。
「二組目!!
『鉄板ブラザーズ』!!」
「おおー!」
「三組目!!
『ドタバタ商会』!!」
「四組目!!
『月夜のピエロ団』!!」
「五組目!!
『笑門一座』!!」
「六組目!!
『激辛トーク』!!」
「七組目!!
『ぺんぎん急便』!!」
「八組目!!
『爆走コロッケ隊』!!」
「九組目!!
『七色ステージ』!!」
「十組目!!
『腹筋クラッシャーズ』!!」
会場は紹介のたびに拍手と歓声に包まれる。
フロスティアも表情は変えないまま、
(腹筋クラッシャーズ……名前からして期待できる。)
と、ひそかにメモするような気持ちで聞いていた。
司会者はさらに声を張る。
「十一組目!!
『笑神見習い』!!」
「十二組目!!
『風来ボケ旅団』!!」
「十三組目!!
昨年度王者!!
『爆笑サーカス団』!!」
ドォォォォォン!!
紹介と同時に金色の花火が舞い上がる。
「待ってましたぁぁ!!」
「今年も優勝だぁぁ!」
「王者ーー!!」
圧倒的な歓声。
司会者はその熱気をさらに煽る。
「そして十四組目!!
『銀河コメット』!!」
再び大きな拍手。
そして会場が少し静まったところで、司会者はわざと間を作る。
「さぁ……そして……。」
照明が少し落ちる。
観客全員が息を呑んだ。
「本大会、大トリを務める十五組目は――」
ドンッ!!
巨大スクリーンいっぱいに、一匹の白いうさぎと一頭のドラゴンを描いた可愛らしいロゴが映し出される。
「今大会最大の話題!!
予選で観客を笑いの渦に巻き込み、一躍優勝候補へ名乗りを上げた新星!!『うさぎドラゴン』ーーーッ!!」
その瞬間、
ウォオオオオオオオオオオオオッ!!
本日一番と言っていいほどの歓声が会場を包み込んだ。
「ビルムー!!」
「ミリアちゃーーん!!」
「優勝してくれーー!!」
「大トリ頼んだぞーー!!」
期待の声が四方八方から飛び交う。
玉座に座るフロスティアも、相変わらず涼しい顔のままだったが、
(きゃあああ! 本当に最後なのね! ますます楽しみ! 噂のうさぎドラゴン……一体どんな漫才を見せてくれるのかしら!)
心の中では今にも拍手を送りたい衝動を必死に抑えていた。
司会者は会場を見渡し、大きくうなずく。
「以上、栄光を懸けて戦う十五組です!! 本日は果たして、誰が会場中を爆笑の渦へと巻き込み、笑芸大会の頂点へ立つのか!!」
その言葉に、観客席の熱気はさらに高まり、いよいよ笑芸大会本番の幕が上がろうとしていた。
舞台袖。
出場者たちはそれぞれ最後の準備を整えていた。
深呼吸を繰り返す者。
相方と小声で最終確認をする者。
一人で目を閉じ、精神を集中させる者。
誰もが、この大舞台に懸ける思いを胸に秘めている。
その一角では、
「……あかん。」
ドラゴニュートのビルムが額にうっすら汗を浮かべながら呟いた。
「思っとった以上に人おるやん……。」
舞台袖の隙間から客席を覗く。
ぎっしり埋まった観客席。
二階席も三階席も立ち見席まで満員。
さらに特別席には、氷の女王フロスティアが静かに座っている姿まで見える。
「こんなん……緊張せぇへん方がおかしいやろ……。」
尻尾が落ち着きなく左右に揺れる。
「大トリやぞ……。しかも優勝候補とか言われとるし……。もしスベったら、どうしよ……。」
珍しく弱気な声だった。
そんなビルムの隣では白いふわふわの防寒装備を着たラミアのミリアが、いつも通りの涼しい顔で温かいお茶を飲んでいた。
「ずずっ……。」
一口飲む。
「……美味しい。」
「そこちゃうやろ!」
ビルムが思わずツッコむ。
「なんでそんな落ち着いとるねん!」
「え?」
ミリアは首を傾げた。
「緊張しても、お客さんが増えるわけでも減るわけでもないし。」
「いや、そういう問題ちゃうねん!」
「それに。」
ミリアはにこりと微笑んだ。
「ビルムとなら大丈夫。」
「……。」
「いつも通りやれば、きっとみんな笑ってくれる。」
その一言だけだった。
だが、不思議とビルムの肩から少しだけ力が抜ける。
「……ほんま、お前は。」
苦笑しながら頭をかく。
「肝据わっとるなぁ。」
「うん。」
ミリアは小さく頷く。
「もし失敗しても。」
「うん?」
「その時は二人で一緒に謝ろ。」
「最初から失敗前提やないか!」
バシッ!
軽快なツッコミが入り、近くにいた芸人たちから小さな笑いが漏れた。
「ははは。」
「本番前でもあの調子か。」
「なるほど、あれがうさぎドラゴンか。」
その空気に、ビルムも少しだけ表情を和らげる。
「……せやな。」
大きく息を吸う。
「いつも通りや。」
一方その頃、観客席ではガエンたち五人も、その圧倒的な熱気に目を丸くしていた。
オーガのガエンは腕を組みながら感心したように唸る。
「すげぇな……。」
勇者マイトも客席を見渡しながら口笛を吹く。
「ここまで人が集まる大会とは思わなかった。」
ダークエルフのラーシャは舞台を見つめながら微笑む。
「みんな本当に笑芸大会を楽しみにしていたのですね。」
ピクシーのナラは空中をふわふわ飛び回りながら目を輝かせる。
「わぁーっ! すっごーい! 人、人、人だよー!こんなに大勢が一緒に笑うなんて、きっとすごく楽しいんだろうなぁ!」
ガエンは客席のあちこちから聞こえてくる歓声に耳を傾ける。
「爆笑サーカス団ー!」
「うさぎドラゴンー!」
応援の声は途切れることがない。
ガエンは思わず笑みを浮かべた。
「ビルムたち……いつの間にこんな人気者になったんだ。」
マイトも肩をすくめる。
「一か月前に別れた時は、まさか漫才師になってるなんて夢にも思わなかったけどね。」
ダグラスが軽く溜息を吐く。
「しかも優勝候補とか。」
ナラは両手をぎゅっと握りしめた。
「ビルムー! ミリアー! 頑張ってー!」
その声は舞台袖までは届かなかったが、五人の期待と応援の気持ちは、会場の熱気とともに確かに大きく膨らんでいくのだった。
司会者が高らかに宣言する。
「それでは皆様、お待たせいたしましたぁぁぁ!! 今年の笑芸大会!!開幕ですッ!!」
ドォォォォン!!
天井近くで色鮮やかな祝砲の魔法花火が弾け、無数の光が雪の結晶のように舞い散る。
観客席からは割れんばかりの拍手が巻き起こった。
「うおおおおお!!」
「始まるぞー!!」
「笑う準備はできてるぞー!」
会場全体が期待と興奮に包まれる。
司会者は舞台中央へ進み、勢いよく腕を振り上げた。
「まず最初に舞台へ上がるのは―!」
一拍置く。
「トップバッター! 『おしゃべり三兄弟』ーッ!!」
大きな拍手。
舞台袖では、三人組の芸人が顔を見合わせた。
「……来たな。」
長男役の男が小さく呟く。
「一番手かぁ……。」
次男役が乾いた笑みを浮かべる。
「トップバッターは空気を作る役目だ。プレッシャー半端ないぞ。」
三男役は両手をぎゅっと握り締めた。
「……でも。」
三人は同時に頷く。
「ここまで来たんだ。」
「やるしかない。」
「行こう。」
深呼吸、胸いっぱいに空気を吸い込み、ゆっくり吐き出す。
張り詰めた緊張を押し殺すように、三人は笑顔を作った。
「よし!」
舞台へ飛び出す。
スポットライトが三人を照らした。
「どうもーーーっ!!」
元気よく頭を下げると、客席から温かい拍手が送られる。
「頑張れー!」
「トップバッターだー!」
「笑わせてくれー!」
三人は顔を見合わせ、小さくうなずいた。
長男役が一歩前へ出る。
「今日は笑芸大会ということで、朝から気合い入れて来たんですよ!」
次男役がすかさず聞き返す。
「へぇ、どんな気合い?」
長男は胸を張る。
「朝五時に起きて、鏡に向かって百回『今日はウケる』って言いました!」
「自己暗示か!」
客席からクスッと笑いが漏れる。
三男役が腕を組みながら言う。
「でも結果は?」
長男は真顔で答えた。
「家族しか笑わなかった。」
「家族優しいな!!」
パシン!
軽快なツッコミが響き、今度は笑い声が少し大きくなる。
「はははは!」
「いいぞー!」
「その調子!」
三人はその反応に少しだけ肩の力が抜けた。
(よし……。)
(笑ってくれた。)
(ここからだ。)
トップバッターの重圧はまだ消えてはいない。
それでも三人は顔を上げ、会場中の期待を受け止めながら、さらにテンポよく漫才を続けていくのだった。
三人の勢いはそこからさらに増していった。
長男が勢いよく叫ぶ。
「俺、この前占い師に『あなたには王の器があります』って言われたんだ!」
次男が目を丸くする。
「おお! すごいじゃないか!」
長男は照れくさそうに頭をかく。
「でも、そのあと『チェスの駒だけど』って言われた。」
「キングじゃなくてポーンかい!」
「器ちっちゃ!!」
三男の鋭いツッコミに、客席から大きな笑いが巻き起こる。
「はははははっ!!」
「うまい!」
「それ好きだ!」
三人は息の合った掛け合いを続け、次々と笑いを重ねていく。
言葉のテンポ。
絶妙な間。
息ぴったりのツッコミ。
序盤こそ様子をうかがっていた観客たちも、気づけば腹を抱えて笑っていた。
「もうだめ!」
「最初から飛ばすなぁ!」
「最高だ!」
舞台袖で見守る他の出場者たちも思わず感心する。
「……やっぱりトップバッターを務めるだけあるな。」
「会場の空気を完全に温めた。」
「これなら後の組もやりやすい。」
そして、
「ありがとうございましたーーーっ!!」
三人は深々と頭を下げる。
その瞬間。
ドォォォォォッ!!
会場中を包み込むような拍手と歓声が響き渡った。
「面白かったー!」
「最高ー!」
「いいスタートだ!」
「ナイストップバッター!」
三人は顔を見合わせ、安堵の笑みを浮かべる。
(……やった。)
(ちゃんと笑ってもらえた。)
(この大会の幕開けを飾れた。)
胸をなで下ろしながら、三人は大きな拍手に送られて舞台袖へと戻っていった。
その頃、特別席。
氷雪都市クリアフォルの女王、フロスティアは相変わらず背筋をぴんと伸ばし、氷像のように美しい無表情で舞台を見つめていた。
周囲の貴族や護衛たちは、その冷静な横顔を見て、
(さすが女王陛下……。)
(まったく表情を崩されない。)
と感心している。だが、その胸の内では、
(ふふっ……面白かったわ。最初からちゃんと笑わせてくれるじゃない。今年も期待できそうね。)
心の中では満足そうに小さく拍手を送っていた。
(トップバッターがこれだけ会場を温めてくれたなら、この先はもっと盛り上がるはず。さて……次はどんな芸を見せてくれるのかしら。)
表情だけは氷のように凛としているものの、その心は子どものような期待で満たされていた。
そして司会者が再び舞台中央へ飛び出し、会場へ向かって大きく声を張り上げる。
「素晴らしいスタートを切ってくれました『おしゃべり三兄弟』に、もう一度盛大な拍手をーーっ!!」
再び大きな拍手が鳴り響き、笑芸大会はさらに熱気を増しながら、二組目の出番へと進んでいくのだった。
司会者は勢いそのままに高らかに叫ぶ。
「さあ続いて二組目!! 熱いツッコミと鉄壁のコンビネーションで会場を沸かせる実力派!! 『鉄板ブラザーズ』!!」
ドォォン!!
派手な花火魔法が打ち上がり、赤と金の紙吹雪が舞う。
「うおおおおおっ!!」
観客席から大歓声が響いた。
二人は息ぴったりに深々と一礼した。
「どうもー!! 鉄板ブラザーズです!!」
テンポよく畳み掛ける二人の漫才に、会場の笑いはどんどん大きくなっていく。
兄の豪快なツッコミ。
弟のどこまでも自由なボケ。
長年コンビを組んできた兄弟だからこその息の合った掛け合いに、観客は引き込まれていった。
特別席では、フロスティアが表情一つ変えず舞台を見つめている。
(……安定している。基本に忠実。それでいて間の取り方が巧み。観客を温めるには十分な実力。)
心の中では静かに高く評価していた。
舞台では最後のオチにツッコミが入る。
バシィィン!!
「もういいよ!」
一拍の静寂のあと、
「アッハッハッハッハッ!!」
「最高!!」
「さすが鉄板ブラザーズ!!」
割れんばかりの拍手と歓声が会場を包み込んだ。
二人は笑顔で深々と礼をし、大きな拍手に送られながら舞台袖へと下がっていく。
司会者が興奮気味に叫ぶ。
「素晴らしい漫才でしたー!! 会場は開幕から大盛り上がり!! さあ、この熱気のまま三組目へ参りましょう!!三組目!『ドタバタ商会』!!」
歓声が沸き起こる。
「いけーっ!」
「毎年楽しみにしてるぞー!」
舞台へ飛び出してきたのは、荷物を抱えた三人組。
「配達でーす!」
「違う! うちは八百屋や!」
「じゃあ野菜届けまーす!」
「だから商売変わっとるやないか!」
勢いだけで突っ走る勘違いコントに、次々と小道具が壊れ、箱がひっくり返り、最後には全員まとめて転倒。
ドカーンッ!
「「「うわぁぁぁぁ!!」」」
観客席は大爆笑。
「バカだーっ!」
「テンポが速すぎる!」
「考える暇もなく笑っちゃう!」
舞台袖でも芸人たちが笑いをこらえていた。
「身体張るなぁ……。」
「勢いがすごい。」
大きな拍手に包まれ、『ドタバタ商会』は笑顔で舞台を後にした。
司会者が間髪入れず叫ぶ。
「続いて四組目! 『月夜のピエロ団』!!」
照明が落ち、幻想的な青い光が舞台を包む。
静かな音楽の中、二人のピエロが無言で現れる。
最初はしんみりした空気。
だが、一人が風船を膨らませようとすると、どんどん巨大になり、
「……?」
観客が見守る中、
パンッ!!
風船ではなく服だけが破裂し、中からさらに派手な衣装が現れる。
「なんでそうなる!」
そこからは無言のまま繰り広げられる勘違いと連鎖事故。
喋らないのに笑いが止まらない。
「ははははは!」
「言葉がなくても面白い!」
「芸が細かい!」
幻想的な雰囲気とドタバタを見事に融合させ、惜しみない拍手を浴びた。
「五組目! 『笑門一座』!!」
今度はベテランニ人組。
息の合った漫談に会場は引き込まれる。
「最近の若いもんは便利やなぁ。」
「便利すぎて財布忘れてもスマホだけ持ってきよる。」
「それはまだええ。」
「スマホ忘れたら本人が絶望しとる。」
「魂抜けた顔になるからな。」
年齢問わず共感できる話題が続き、
「わかるー!」
「うちの息子もそう!」
と客席から笑いと拍手が何度も起こる。
派手さはない。
だが確かな実力で、会場全体を温かい笑いに包み込んだ。
そして六組目。
「続いては『激辛トーク』ーーっ!!」
二人組が登場すると、開始早々、
「お前、その髪型どうした!」
「美容師に『お任せで』って言った結果や!」
「責任重大やな!」
「美容師も途中で迷子になっとったわ!」
切れ味鋭いツッコミと毒舌の応酬。
ギリギリを攻めながらも嫌味にならない絶妙な掛け合いに、
「そこまで言うかーっ!」
「でも面白い!」
と客席は何度も爆笑。
怒涛の勢いで笑いを積み重ね、最後は見事なオチで締めくくると、会場は再び大きな拍手に包まれた。
ここまで六組。
どの芸人も持ち味を存分に発揮し、笑芸大会はまさに絶好調。
司会者も興奮を隠せない。
「いやぁぁぁーーっ!! 今年は本当にレベルが高い!! ここまで一度も笑いが途切れません!!」
客席からも期待のざわめきが広がる。
「次は誰だ?」
「まだまだ強豪がいるぞ!」
司会者は舞台中央で大きく腕を振り上げた。
「それでは七組目!! 空を飛び! 海を渡り! 笑いまで届ける三羽組!! 『ペンギン急便』ーーーっ!!」
軽快な音楽とともに、青い制服に身を包んだ三人が、小さな荷物を抱えて元気よく飛び出してくる。
「ペンギン急便でーす!」
「超特急のお届け物でーす!」
「今日も元気に配達しまーす!」
最初から三人の息はぴったり。
「こちらにお荷物をお届けに参りました!」
「ありがとう! 何が入ってるの?」
「夢と希望です!」
「軽っ!」
「いや、希望は重いです!」
「どっちやねん!」
テンポの良いボケとツッコミが次々と炸裂する。
荷物を渡そうとすれば別のペンギンが横取りし、追いかければ全員が同じ方向へ転び、起き上がった瞬間にはなぜか荷物が観客席に届いている。
「早すぎる!」
「配達成功してるのか失敗してるのかわからん!」
さらに三人が「時間指定でーす!」と言った直後、全員が腕時計を見比べて一斉に首をかしげる。
「……指定された時間、誰も覚えてません!」
「仕事やめろーっ!」
ツッコミが炸裂した瞬間、
ドォォォォッ!!
これまでで一番大きな笑いが会場を揺らした。
観客は涙を流しながら腹を抱え、
「ははははは!!」
「もうダメ! 息ができない!」
「今年一番笑った!」
という声があちこちから飛び交う。
舞台袖では次の出番を控える芸人たちまでもが笑いをこらえきれず肩を震わせていた。
「すげぇ……。」
「完全に会場を持っていった。」
特別席ではフロスティアも相変わらず凛とした表情を崩さない。
しかし心の中では、
(ふふっ……これは反則ね。三人とも動きも間も完璧じゃない。思わず笑ってしまったわ。今年は本当に当たり年ね。)
と、誰にも気づかれないよう心の中で大きな拍手を送っていた。
ペンギン急便が深々と一礼すると、割れんばかりの拍手が会場を包み込む。
「ありがとうございましたーっ!!」
三人は最後まで元気いっぱいに手を振りながら舞台をあとにした。
司会者も興奮で声を張り上げる。
「すごい! すごすぎる!! ここまで七組連続で大盛り上がりです!! それでは八組目、いってみましょう!」
会場の照明が赤く染まる。
「アクセル全開! 笑いも全開!! 『爆走コロッケ隊』ーーーっ!!」
ドラムの音とともに、ヘルメット姿の三人が猛ダッシュで登場。
「ブレーキ壊れましたー!」
「最初に言うことちゃうやろ!」
「安心してください! 笑いにはちゃんと止まります!」
「止まれるんかい!」
勢いだけかと思わせながら、絶妙なタイミングでボケを重ねていく。
「目的地は?」
「コロッケ屋です!」
「なんでレーサーがコロッケ買いに行くねん!」
「揚げたては待ってくれへん!」
「命よりコロッケ優先か!」
舞台を右へ左へ駆け回るドタバタ劇に、
「ははははは!」
「動き回りすぎ!」
観客は大笑い。
最後は全員が豪快に転倒したかと思えば、その拍子にコロッケだけがきれいに皿へ着地。
「コロッケだけ無事かーい!」
ドッ!!
気持ちのいいオチで締めくくり、大きな拍手を浴びながら舞台を降りていった。
司会者は笑いながら息を整える。
「まだまだ止まりません! 九組目! 色とりどりの笑いをお届けします! 『七色ステージ』ーーーっ!!」
七色の衣装をまとった男女コンビが華やかに登場する。
「今日は皆さんの気分を色で表現します!」
「今の会場は?」
「爆笑色です!」
「そんな色あるんか!」
一人が魔法で舞台に虹を描くと、もう一人がその虹を階段代わりに登ろうとして派手に転ぶ。
「虹は登れません!」
「見た目がそれっぽかった!」
さらに色の名前を使った言葉遊びが次々と飛び出す。
「真っ青になる出来事って?」
「財布を落とした!」
「真っ赤になる出来事は?」
「好きな人に名前を間違えられた!」
「それはつらい!」
観客席からは、
「うまい!」
「発想が面白い!」
と感心混じりの笑いが起こる。
最後は七色の光が会場中を包み込み、美しい演出と軽快な漫才を融合させた見事な締め。
拍手は長く鳴りやまなかった。
そして司会者が少し間を置く。
「さぁ……ここで登場するのは優勝候補の一角!!」
観客席がざわめく。
「来たぞ!」
「待ってました!」
司会者が思い切り叫ぶ。
「十組目!! 笑いで腹筋を破壊する最強コンビ!! 『腹筋クラッシャーズ』ーーーっ!!」
ドォォォッ!!
今日一番とも言える歓声。
二人は堂々と舞台中央へ歩き出る。
「どうもー!」
「今日は皆さんの腹筋、責任持って壊しに来ました!」
「修理代は出ません!」
開始三十秒。
「昨日、健康診断行ってきた。」
「どうやった?」
「医者に『運動してください』って言われた。」
「普通やな。」
「だから全力で病院から逃げてきた。」
「それは運動ちゃう!」
会場が一気に爆発する。
「ははははは!!」
さらに、
「最近筋トレ始めた。」
「何回できる?」
「一回始めたら満足する。」
「始めただけかい!」
「継続は気持ちが大事。」
「気持ちだけや!」
テンポ、間、表情、すべてが一級品。
ボケを重ねるたびにツッコミが倍返しで返り、笑いが途切れない。
最後は、
「皆さん、腹筋は無事ですかー!」
「「「無事じゃない!」」」
という観客との掛け合いで締めると、
ドォォォォォンッ!!
会場全体が揺れるほどの爆笑と拍手。
観客の中には本当に腹を抱えて椅子にもたれかかる者まで現れていた。
「やっぱり強い!」
「期待を裏切らない!」
「優勝候補は伊達じゃない!」
舞台袖の芸人たちも思わず顔を見合わせる。
「完成度が高すぎる……。」
「さすが腹筋クラッシャーズだ。」
特別席では、フロスティアが相変わらず静かに足を組み、涼しい表情のまま舞台を見つめている。
しかし、その胸の内では、
(ええ、本命らしい実力だったわ。テンポも構成も隙がない。観客を笑わせるだけじゃなく、会場全体の空気を支配してしまう……見事ね。)
普段は氷のように冷静な彼女も、その完成された芸には心から満足していた。
(ここまで十組。誰一組として期待を裏切らない。今年の笑芸大会は、本当に歴代最高レベルかもしれないわ。)
フロスティアは誰にも気づかれないほど小さく口元を緩める。
そして会場の熱気は、まだまだ上昇を続けていた。
腹筋クラッシャーズが深々と一礼し、万雷の拍手を浴びながら舞台袖へと消えていく。
それでも興奮は収まらない。
「すげぇぇぇ!」
「もう優勝決まりじゃないか!?」
「いや、まだまだ残ってるぞ!」
観客の期待はさらに高まっていた。
司会者も汗を拭いながら笑う。
「いやーっ!! 腹筋クラッシャーズ、本当に恐ろしい破壊力でした!! ですが! 笑芸大会はまだ終わりません!!」
会場から大きな歓声。
「続いて十一組目!!」
ドラムロールが鳴り響く。
「笑いの神を目指す修行中の二人組!! 『笑神見習い』ーーーっ!!」
パァァン!!
紙吹雪と共に二人が元気よく飛び出した。
「どうもー! 笑神見習いです!」
「まだ神様じゃありません!」
「見習いです!」
「だから失敗しても温かい目で見てください!」
「最初から保険かけるな!」
その一言だけで客席から笑いが起こる。
ボケ役が胸を張る。
「俺、最近占い始めたんや。」
「へぇ、当たるんか?」
「百発百中!」
「すごいやん!」
「昨日、自分を占ったら今日寝坊するって出た。」
「防げや!」
ドッ!!
「しかも見事に寝坊した。」
「未来変えろ!」
笑いが広がる。
さらに、
「俺、魔法も練習してる。」
「どんな魔法や?」
「物を浮かせる魔法!」
「見せてみ。」
ボケ役が必死に杖を振る。
「ふんっ!」
何も起きない。
「浮かへんやん。」
「いや……」
ボケ役は真顔で言った。
「観客の期待値だけ浮いた。」
「下げるな!」
ドォッ!!
ツッコミの鋭い返しに、会場はまたしても爆笑に包まれた。
テンポのいい掛け合いと、どこか憎めない見習いらしい失敗談の連続。
最後は二人そろって拳を突き上げる。
「いつか本物の笑神になります!」
「その日まで応援よろしくお願いします!」
「「ありがとうございましたー!!」」
ビシッ!
二人が頭を下げると、
ワァァァァァァッ!!
客席いっぱいに温かな拍手と笑い声が広がった。
「面白かった!」
「見習いって設定が最後まで生きてたな!」
「また見たい!」
着実に笑いを積み重ねた二人は、大きな拍手に包まれながら舞台を後にした。
一方、観客席ではガエンたちもすっかり大会を満喫していた。
ガエンは豪快に笑いながら膝を叩く。
「ガハハハハ! いやぁ、腹筋クラッシャーズもすごかったが、笑神見習いも面白かった!」
隣のダグラスも肩を震わせる。
「くくっ……あの『期待値だけ浮いた』は反則だ。ああいう返しは好きだ。」
マイトは感心したように腕を組む。
「ここまで全員、本当にレベルが高いね。漫才って同じ形でも、こんなに色が違うものなんだね。」
ラーシャも口元を押さえながら微笑む。
「みんな個性がありますね。同じ笑いでも、全然飽きないです。」
ナラは空中をくるくる飛び回りながら笑う。
「きゃはははっ! もうお腹痛いよー! まだまだあるのに、最後まで笑えるかなぁ!」
五人は顔を見合わせ、再び笑い合う。
歴代最高とも噂される笑芸大会は、前回優勝の爆笑サーカス団やビルムとミリアのうさぎドラゴンの出演をまだ残したまま、大いに盛り上がる。
会場の熱気も、観客の期待も、ますます高まっていくのだった。




