現実とは思い通りにいかない
「あ、あ、アラ。ごごごきげんヨウ、王太子ででんか?」
そしてサヨウナラ王太子殿下。今すぐ部屋から出ってってロリアンヌをかっさらってハッピーエンドになってくれと心で願いつつ、早く王太子殿下を部屋から追い出す次の言葉をローゼンマリアは必死で探す。
「ごきげんよう、僕の愛しいマリア。で、僕が誰とどうなればいいってさっきはつぶやいていたの?残念な事に君の鳥のように美しいさえずりを僕は聞き逃してしまったようだ」
そんな愚かな僕にどうか慈悲を。
そうサブいぼが立つほどの気障なセリフを吐き出しながら王太子はローゼンマリアへと歩みを進めてきたため。ローゼンマリアは声にならない悲鳴を上げていた。
「ヒッ!い、い、や。いや、あの、べ、別に聞かなくていいです、わ。あの、むしろ」
ちょっ!いや、近づいてくるな。
私、まだ話し終わってないじゃん。人の話を聞けよ!
声に出せない悲鳴と叫びを胸に、じりじり近づいてくる王太子に比例してローゼンマリアはじりじりとあとずさる。
「そんな無慈悲な事を言わないで、僕の愛しいマリア」
あっという間に距離を詰められるどころかローゼンマリアは壁際に追い込まれた。
(近い!近い!近い!)
そっと顔の横に王太子の手がおかれ、ローゼンマリアは壁ドンされている状態に気付き額から、脇からと大量に冷や汗を流す。
「どうしたの、マリア?」
目の前に極上のイケメン。しかも耳元で囁かれる低く男らしいのに甘い声。
「やっ、あ、ああ。あのー、近い、近いですからね」
近すぎるから離れましょーと、一応王太子相手なのでやんわりと押し退けようとすれば、その手は遥かに逞しい手に押さえられる。
「ん?近すぎる?そう?僕はもっと君に近づきたいといつも思ってるんだけどね。だって僕の愛しい君は――」
すぐ逃げようとするからね。
「っ、ひゃん!」
囁きと共に甘噛する様に耳朶を噛られローゼンマリアは小さく身動ぐ。
そんなローゼンマリアを見てクスリとこぼす王太子の笑みはほの暗い。
「可愛いねマリア。いつもそんなに素直ならいいのに」
「お、お戯れを…」
(腰、腰砕けるうう)
記憶の限りではこのゲームは安心安全大国日本で全年齢指定の健全ゲームだったはずだ。
そしてローゼンマリアに近いこの男もうぶでピュアな生き物だったはずだ。そしてそして、今はゲームの終盤で本来ならばローゼンマリアは今頃鼻歌交じりで平民の世界に旅立つ準備をしていたはずなのに!
「マリア、駄目だよ。僕がいるのによそ見しないで」
くいっと今度は顎を持ち上げられ、無理やり麗しい顔と向かい合わされれば、ローゼンマリアの心臓の鼓動は爆発寸前まで早くなるのは仕方のない事だろう。
「よよよよそ見も何も…。あ、あ、あ、貴方様はロ、ロリアンヌ様を追いかけてく、くだしゃい!」
……くだしゃい。
思いっきり噛んでしまった恥ずかしさも加わり、勢いよく抑えられた腕を開放して容赦なく王太子を何とか少し押し返す。それだけの事なのに、すでにローゼンマリアのHPはもうすでに0に近い気がしていた。
それでも思いはただ一つ。
早くこの王太子をここから追い出し、シナリオを悪役令嬢追放の方へ戻す。
それなのに、ローゼンマリアの目の前の人物は全力で押し返されているにも関わらず、今度はうつむいて肩を震わせているだけであった。
「くっ、ふふ。ふふふ、あはは。僕のマリアは本当にかわいいね」
ひとしきり肩を震わせた王太子は明らかに面白そうな顔をして再びローゼンマリアの手を取る。
「っ、だ、だから!」
早く行けよ。そう言いたかったのに、ローゼンマリアの唇は言葉を遮るように温かく柔らかいそれで軽く塞がれてしまった。
本当に軽く、そしてすぐに離されたのに。その一瞬の事がそれ以上何も言えないくらいローゼンマリアの頭の中や心臓をオーバーヒートさせてきたのだ。
「ふふ。可愛いマリアの唇は柔らかいし、甘いね」
赤い舌がチロリと唇を舐める仕草にはっとローゼンマリアはさけんだ。
「ききききききききききききききっつ!あ、あ、あ、あ、あ、あなた!わわわわた、私にっ!」
「軽くキスしただけだよ。うぶな反応が可愛いねマリア」
「んっなっ!ななななな」
「あ、そうそう。マリアが可愛がっていたロリアンヌ嬢だっけ?彼女はすごくすっごーく僕が妬けちゃうくらいマリアによくしてもらったって最後に僕に自慢しに来たよ」
「は?」
「あと、マリアと出会えてよかったって。マリアが彼女に目をかけて優しく導いてくれていたおかげで道をふみ外さず幸せな人生が送れるんだって。感謝していたよ」
「はああ?」
(可愛がってた?自慢?感謝??)
次々と起こる不可解な出来事やわけのわからない王太子の言葉の羅列にローゼンマリアの思考はついに考える事を放棄してしまい思わず天井を見上げる。
「しかも彼女最後まで僕にローゼンマリア様を虐めたら絞めるとか脅してきてさー。僕はマリアをこんなに愛しているんだからいじめるわけないのにね」
ねえ、僕の愛しのローゼンマリア。
一瞬だけ天井から視線を目の前の人物に戻せば、ゲーム画面で見た懐かしのスチルが目の前にある。
一見すると優しそうに微笑むこの顔は確か、ヒロインに向けられているもので間違っても悪役令嬢に向けてではなかったきがする。
そして心なしか、どこか浅ましい考えを含んだようなこんなにドロドロな瞳でもなかったようなきがするとローゼンマリアは放棄したはずの思考回路の片隅でぼんやりと考え再びローゼンマリアは天井をむく。
(あ、なんだろう。天使様が微笑んでる)
思考回路がショートしつつあるローゼンマリアはぼんやりとしかかった煌びやかな天井をただただ見つめていた。そのせいか幻覚まで見えてきた気がする。
そうか、これはナニカノ夢カモシレナイ……。
王道ラブストーリーを思い出したりしていたこともあったせいで、夢がこんなすっちゃかめっちゃかになったのだろう。朝が来たら世界は元通り。
あー、追放されたら何しようかなー?
あ、住む場所どこにしよう?広い青空が見れる場所がいいなー。
空気がきれいで。
「あ、そうそう。僕らの新居は良く空も見える広い部屋を城に用意したよ」
あー。畑、畑はどこに作ろうかな?
「うん。庭に好きなように耕せる場所も用意したよ」
……あ、ふ、服。服は動きやすいシンプルで質素な
「ああ、大丈夫。今民間で流行っている薄くて布もそんなに使ってない服もちゃんと用意したよ。ああ、でも。その服は僕の前でしか来ちゃいけないよ?万が一他の男がその服をきた君を見たら、僕国家権力乱用しちゃうかもしれないから」
……。
(ああ、やっぱり天使様が見える)
天使のくせにニヤついてあくどい顔をしているのは気のせいでしょうか?
「さて、もうそろそろ時間だし行こうか僕のマリア」
(あ、お迎えですか?私は天に召されるのですね?)
現実逃避したままの思考回路でローゼンマリアは天使の手を取ったことを後悔し現実に戻ってこれたのはのはこの後。突如として現れた侍女たちの手で真っ白なドレスを着せられたときだ。
悪役令嬢の思いは運命には届かない、そうローゼンマリアが実感した時は再び彼女の前にあくどい顔をした天使が舞い降りた時だった。
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とりあえず、ここで本編終了です。もしかしたら、加筆修正をいつか、するかもです。いつになるかは不明。




