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はじめまして

「ねー、ボクのこと、なんだと思ってんの?」


呆れ返っているいつものため息。

コイツが『何者』なのか、私だって心得ている。

でもだからといって、使おうなんて思わない。

だから…


「え?馬鹿?」


鼻で笑ってやった。


顔を真っ赤にして、何かまくしたてているが、文句と反論など聞く耳を持つ必要はない。

彼はもう総てを終わらせる『最後の最終兵器』などではない。


私は彼を兵器にさせないと、決めたのだから。





彼と出会ったのは、私が研究室に来て早々。

これから大学のゼミの実験準備中、備品室から持ってきた課題の為に使うシャーレを落とした時。

ガラスが割れる音と…誰かが着地する音が聞こえて。


視線の先には、もう彼がいた。

赤色の髪は長く風に揺れ、袴のような着物と深緑色の襟巻き。


戸惑う私に、彼は慣れた口ぶりで、それがまるで挨拶のように、笑って言った。


『やぁ、あんたが新しい主か。

聞いてやる。今度滅ぼすのはなんだ?』


最初は彼のことをただの派手な不審者だと思い、その場を立ち去った。

友人に道すがら連絡し、体調を崩したことにしてすぐさま大学近くの寮に帰宅。

変な人がいたな、と思い返しながら部屋の鍵を閉めた時。


『無視するなんて、ボクのことなんだと思ってるの?』


すっかりむくれた彼が、いつの間にかリビングのこたつに座っていた。

思わず凍りつく。


……なんだ、彼は?一体…

どこから、入ってきた?


『あー、…あんた、ボクの事を知らないのかな?

そんならお願い、しなよ。

あんたが気に入らない存在をなんでも殲滅してあげる』


なにそれ、まるで殺し屋みたい。

そんな映画や漫画みたいな世界の話、信じられるか。

不法侵入と危険思想犯罪者のレッテルが私の中で貼り付けられる。


『ほら、いるでしょ?

なんだか気に入らない国とか憎んでいる奴とか…人間ってのは、飽きずに他者を恨むから。

まぁだからこそボクみたいな兵器が生まれたんだろうけど』


「…兵器?」


引っかかった。

彼の言葉の中に見えた、自嘲するような態度。

自嘲なのか、蔑みなのか。

まるで人間じゃないみたいに笑うから。


「貴方は、モノじゃないわ。それに、名前は?」


もしかしたら犯罪者かもしれない危険人物に名前を聞くなんて、我ながら大胆だな。

彼も少し驚いたように黙ってから、名前を口にした。


「…ボクの名前はリステム」


「ふぅん、どこの国から来たの?

あたしは箱崎カノン。カノンって呼んで」


もういいや。私は開き直った。

彼がなんだろうといいや。友達になろう。

笑いかけた私に、リステムはとても嬉しそうな目をしていた。


「とりあえず…貴方、どこから入ってきたの?」


『うーんと、あの扉からだけど。

まぁ見えなかったのも当然か、あんたの反応速度じゃそう見えるだろ。

とにかく、あんたがボクの主になったんだから安心していいよ』


一体何の話か分からない。

奇抜な服装からして普通じゃないと思ってはいたけど、外国から来たみたいな…このすれ違い感。


「まぁ、なんでもいいけど…。

あ、貴方、ご飯食べてく?

鍋くらいならできるけど」


『ごはん…ボクに?』


「そうよ、なにその驚いた顔…。

いらないなら、別にいいわよ」


気づかいを見せたのに、そんな顔をされるなんて心外だ。頷く彼に、こたつで待つように促して、私はエプロンを手に取る。


もしリステムが指名手配犯とかなら私は何の罪に問われるのだろう。

庇ったり匿ったりするのも罪になったような気がする。

…でも、彼の声はどこか寂しそうに感じて、放ってはおけなかった。それに私を探しているみたいだったし。

もし危害を与えるつもりなら、今まさにチャンスなはず。背を向け、野菜を洗う姿は無防備そのもの。

でも彼はこたつで、じっと私の動きを見ている。珍しい物を見るかのように。

鍋って…食べたことなかったのかしら?


がたん、と音がして振り返る。

振り返ると、リステムはこたつではなく仁王立ちで構えていた。

あ、包丁が怖かったのかな、と片手に持った刃物を見る。

それならば、と私はまた野菜に向き直り、白菜を一口大に斬っていった。

とんとん、と音をたててるのが終わり、刃物を仕舞うと、彼はこたつに入った。不思議そうな顔をしながら。


「ごちそうさま」


『なにそれ?』


「食事の後に言う言葉よ。作物に感謝するの。

さっき言った、いただきますと同じ」


『ふうん、…ごちそうさま』


年上なのかも分からない顔をしてるけど、さすがに子供ではない。でも、素直なリステムが可愛く思えた。


『……カノン』


「な、なに?」


呼んでとは言ったけど、実際呼ばれるとまだ慣れてないのでちょっと恥ずかしい。

でも、リステムはどこか冷たい表情をしていた。


『こいつら、カノンの知り合い?』


「…え?」


ガラスの割れる音。誰かが入り込んでくる…何人も。

でも急に辺りが暗くなって、周りが見えない。

リステムが肩を抱くぬくもりだけが、私を支えていた。


ばちん。

電気がつくと、私たちのいるこたつへ、いくつもの銃口が向けられていた。

銃を持つ人は特殊な黒い服と黒いマスクを被っていて、顔の識別ができない。誰だか分からないけど、知り合いなんかではない。間違いなく。


「目標、捕捉!」


「…千修大学一年、箱崎カノン。

間違いはないか?」


映画の撮影かな。

もう、そうとしか考えられない。今日はなんなの?

リステムといい、この軍団といい…


「本部の要請により、連行する!

抵抗した場合、我々は射撃を許可されている!

また、貴方に拒否権はない!」


強い威嚇するような声。…なに?なんなの?

混乱でようやく頭が回り出す。


「え、一体あたしが何を…」


『だからさぁ、カノン——』


水を打ったように静まり返る。リステムの声によって、男たちが唾を呑むのが分かった。


『事情なんか話ちゃくれないよ、こんな末端共に。

逃げるのか、大人しく従うのかどっちかにしろよってことだよ。

分かりやすく説明してくれてるでしょ?』


私の肩を抱くリステムは、なんだか嬉しそうに笑って目の前の軍団を見ていた。

まるで、こういう事態を待っていたかのように。


『行くの?行かないの?』


「そんな…急に言われても、困るよ!」


それじゃあ、とリステムの笑みがさらに深まる。

私の横で立ち上がり、着物の袖口を前に出した。


『…行かないってことで、抵抗しまぁす』


一瞬、寒気がした。だから目を閉じてしまった。

再び目を開けたら叫び声もしなかったのに、


さっきまで向けていた銃口と腕が、ごっそり『無くなって』いた。

何処かからギロチンでも落ちたかのように、男たちの腕だけが無くなったのだ。

当然、床にはおびただしい流血。


「うわああ!」「腕が!」


耳を塞ぎたくなるような大声をあげて驚き、恐れ、呻いていた。


『どうせボクの力を探る調査も兼ねてるんだろ。

大丈夫、いくら時を重ねてもボクは変わらないよ。

あいつらに伝えておけ。


———このボクの主を雑に扱うな』


リステムは。

…遅すぎたのかもしれないが、私はこの時になってようやく、本気で考えた。


彼は、なんなのだろう。


「くっ、任務中止!撤退する!」


言い放つと、男たちはガタガタと音を立てて、玄関や窓から飛び出していく。

リステムは追撃するかどうか判断するために、私へ視線を向けたが、

…私は言葉に詰まっていた。

頭は冷静のはずだが、自分の指は震え、まともに動けない。

だから、リステムを見つめるしかできなかった。


映画で激しいアクションシーンなど観ても、全然平気。むしろアクションは好きだ。

アニメや漫画にだって、こういう残虐なシーンがあるはず。そんな、か弱い女の子じゃない。

それなのに……


『え、なんで泣いてんの?』


本当に現実なのに、現実離れしたこの状況に私はすっかり混乱していた。


「だって……えと、女の子だし」









「里村隊長部隊が全滅?!」


真っ先に声をあげる若い青年。

会議室の厳粛な雰囲気がざわつく。


「…ああ、五年の特殊訓練も形無しだった」


言葉を返したのは眼鏡をかけたスーツの男。


「出血多量状態が長く、生き残った者も退役するしかないだろう。

だが、調査隊程度の戦力なら全員死亡だろうな」


しん、と静まる会議室。

自分たちが向かい合っている脅威を感じ取っていた。

里村部隊は決して下の鉄砲玉のような部隊ではなく、上位のベテラン兵。

その部隊が再起不能になる…しかも一瞬で。


「目標は箱崎カノン、学生だ。

学生だからこそ、手中にある力に溺れることも、手綱が不安定になることも予想される。

なんとしてでも、捕獲する」


「でも、まだ学生です。どこかの団体に属しているわけでもないのですから、もう少し穏便に…」


がたん、と机を叩く音が響く。


「未成熟な精神の人間が持つには手に余る力なんだ、あの力は…!

諸外国だってこの事実が明るみになれば武力行使に出ることくらい想像つくだろう。

私は警戒しすぎか?…彼女が破壊を望めば、全てが一瞬だぞ!」


もう一度静まり返る一同。

彼の握りしめた拳の音が、聞こえるようだった。


「いいな…? 箱崎カノンの捕獲を第一優先とする!」


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