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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: コバチ
第7章 大発明?

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番外編④ 今年のSクラス

今回は番外編です。書きたいことを書いていたら結構長くなってしまいました笑

 夕方の学院は、昼間とは別の静けさを持っている。


 授業を終えた生徒たちの足音も、訓練場の掛け声も、今はだいぶ遠い。

 王立学院本棟の最上階。

 学院長室の窓からは、夕暮れに染まる王都の屋根がよく見えた。


 その部屋に、ローヴェンは呼ばれていた。


「座りなさい」


 学院長がそう言って、自ら茶を注ぐ。

 長年学院にいる者なら誰でも知っていることだが、この男が自分で茶を用意する時は、たいてい少し長い話になる。


 ローヴェンは無言で向かいに腰を下ろした。


 机の上には、今年度入学生の資料がいくつか置かれている。

 その一番上には、Sクラスの名簿。


 学院長は湯気の立つ茶器を置きながら、小さく息を吐いた。


「今年の一年は粒ぞろいだ、とは前から聞いていたが」


「はい」


「実際に蓋を開けてみると、予想以上だったな」


 ローヴェンは短く頷いた。


「同感です」


 それは学院長への追従ではなく、事実だった。


 王立学院は毎年、各地から優秀な子どもを集める。

 貴族の子、王族、商家の跡取り、地方で神童と呼ばれた者、平民出身の秀才。

 粒のそろった年は、これまでも何度かあった。


 だが今年のSクラスは、その「粒ぞろい」という言葉で済ませていい集まりではない。


 学院長が名簿へ目を落とす。


「特に上の六人だな」


「ええ」


「今年のSクラスは、あの六人だけで一つの年代を作れる」


「例年なら、誰が首席でもおかしくありません」


「むしろ、その年の代表として学院の歴史に残っただろうな」


 学院長はそこで、資料を一枚手に取った。


「では順番にいこうか。まずはヴァレスト公爵家の令嬢からだ」


 ローヴェンも異論はなかった。


 ◇


「セレナ・ヴァレスト」


 学院長がその名を口にする。


「入試総合二位。長い学院の歴史でも、かなり上位に入る成績だった」


「極めて優秀です」


 ローヴェンは迷いなく言った。


「筆記、実技、判断、どれも高水準ですが、特に魔法理論の理解が際立っています。教えられた内容を飲み込むだけではなく、構造として把握している」


「公爵の娘らしい冷静さもある」


「はい。感情で前へ出るタイプではありません。場の流れを見て、必要な時だけ確実に言葉を置く。学院に慣れた今でも、その姿勢は崩れていません」


 セレナは目立つ。

 当然だ。容姿も家柄も成績も、すべてが人の目を引く。


 だが本当に厄介なのはそこではない。


「魔法理論に関しては、同学年で頭一つ抜けています」


 ローヴェンは続けた。


「理屈の積み上げが速い。しかも、ただ理屈に強いだけでなく、自分の理解していない部分を誤魔化しません。わからないものはわからないままにせず、必ず押さえに行く」


「プライドが高いだけの秀才とは違う、か」


「ええ。あれは負けず嫌いですが、それ以上に“見誤ること”を嫌うのでしょう」


 学院長が小さく笑った。


「さすがヴァレスト公の娘だな。父親によく似ている」


「似ています。ただ、父君よりもう少し真っ直ぐです」


「まだ十二だからな」


 それはそうだ、とローヴェンも思った。


 セレナは完成度が高い。

 だがまだ若い。

 だからこそ、時々わずかに見える苛立ちや対抗心が、逆に彼女を年相応に見せる。


「弱点を挙げるなら?」


 学院長が問う。


 ローヴェンは少しだけ考えた。


「優秀すぎることです」


「ほう」


「周囲が見えていないわけではありません。ですが、自分が見えるものを相手も当然見るべきだ、と無意識に置くところがある。Sクラスなら大きな問題にはなりませんが、今後、人を率いる立場に立てば覚えるべき差異でしょう」


「なるほど」


 学院長は頷く。


「それでも、あれほどの生徒はそう多くない」


「ええ。例年なら、間違いなく首席候補でした」


 学院長は、次の紙へ手を伸ばした。


 ◇


「エドガー・アルスレイン」


 王家の次男。

 王国期待の王子。

 そして、セレナと同率二位。


「こちらも、例年なら首席だったな」


「間違いなく」


 ローヴェンは即答した。


「筆記、実技ともに申し分ありません。総合力なら、今年の一年でも最上位層です」


 エドガーは隙が少ない。

 剣も魔法も高い水準でまとまっている。

 しかも、それを年相応の誇示に使わない。


「昔から神童と呼ばれていたそうだが」


「納得できます。頭の回転が速いだけでなく、常に全体を俯瞰しています。自分一人の勝ち負けより、場がどう動くかを先に見ている」


「十二歳らしくないな」


「ええ」


 ローヴェンはそこで、少しだけ声を落とした。


「おそらく、小さい頃から大人を見て育ったのでしょう」


「……跡継ぎ争い、か」


 学院長の声は静かだった。


 王家の内情を、学院長も知らないわけではない。

 表向き穏やかでも、王族の子どもが“ただの子ども”でいられる時間は短い。


「常に冷静です」


 ローヴェンは言う。


「自分が何を言えばどう受け取られるか、どこまで踏み込めばいいかを把握している。言葉数は多くありませんが、必要な時に必要なだけ出す。あれは訓練で身につくものではありません」


「育ちの中で覚えたのだろうな」


「はい」


 学院長はしばらく資料を見ていたが、やがて口を開く。


「欠点は?」


「完成されすぎていることです」


「それは、欠点か?」


「十二歳としては、です」


 ローヴェンは言葉を選びながら続けた。


「無茶がない。崩れもない。見事ですが、年若い時期にしかできない失敗まで先回りして抑えているように見えることがあります。将来的には長所でしょう。ですが、生徒として見れば少し空恐ろしい」


 学院長は小さく笑った。


「教師泣かせだな」


「ええ。教える余地がないという意味ではなく、どこを伸ばすべきか見失いやすい」


「それでも王家は安心だろう」


「少なくとも、王国の将来を担う器ではあります」


 学院長はそこで茶を一口飲み、次の名を見た。


 ◇


「ナディア・セルヴァン」


 その名が出た瞬間、少しだけ空気が変わった。


 同盟国の王女。

 しかも、交換留学の形ではない。

 単身で王立学院へやってきた少女だ。


「よく来たものだな」


 学院長が静かに言う。


「こちらの教育水準を高く評価しているのでしょう」


 ローヴェンは答えた。


「向学心が強い。最初からそう感じました」


 ナディアは目立つ。

 異国の王女だから、というだけではない。

 静かなのに、妙に存在感がある。


「授業中の姿勢もいい」


 学院長が言う。


「ええ。よく見ています」


 ローヴェンは頷いた。


「前へ出ることは多くありませんが、常に周囲を観察している。自分の理解だけで満足せず、他者の発言や反応まで含めて拾っている。演習でも、一歩引いた位置から全体を読むのが上手い」


「王族らしいな」


「それだけではありません」


 ナディアの強さは、単なる品格や礼儀ではない。


「異国の学院に一人で来るというだけで、すでに相当な覚悟があります。しかも、こちらのやり方に無理に逆らわず、それでいて埋もれもしない。あれは柔らかいようで、芯が強い」


 学院長は資料へ指を置いたまま言う。


「セルヴァン王家には王子が三人いたな」


「はい。王位継承の可能性は高くないのでしょう」


「だから学びに来た、と?」


「断定はできません」


 ローヴェンは首を振る。


「ただ、向学心の強い彼女からすれば王立学院を選ぶのは自然です。加えて、将来的に他国へ嫁ぐ可能性まで見据えれば、ここで学ぶ意味は大きい。そう考えても不自然ではありません」


「本人もそのくらい先を見ている、か」


「見ているでしょう」


 ナディアは静かだ。

 だが、受け身ではない。

 むしろ自分の立場を理解したうえで、その中で最大限に動いている。


「弱点は?」


「本心が見えにくいところです」


「隠している?」


「隠しているというより、出す必要がない時は出さない。王女としては正しい振る舞いです。ですが、同級生の年齢では少し静かすぎる」


 学院長は頷く。


「それでも優秀だ」


「ええ。例年なら、彼女もまたトップを争っていました」


 ◇


「ヴィクトル・ローデン」


 学院長がその名を読み上げたところで、わずかに口元を緩めた。


「君の胃に一番悪そうな生徒だな」


「否定はしません」


 ローヴェンは正直に答えた。


 学院長が笑う。


 だが、冗談で終わらせる生徒でもない。


「ローデン大商会の跡取りです」


「らしい目をしているな」


「ええ。調子のいいところもありますが、商売への嗅覚はずば抜けています」


 ヴィクトルは、いかにも商家の子だ。

 人懐こくも見えるし、軽くも見える。

 だが、その実かなり鋭い。


「入試では、筆記だけならセレナに匹敵しました」


 学院長の眉がわずかに動く。


「そこまでか」


「要領がいいのでしょう。情報の整理と切り分けが速い。問題文の意図を読むのも上手い。必要な答えへ最短で行く頭の使い方をしています」


「武は?」


「悪くありません。むしろ良い部類です。ただ、エドガーやガイルと比べれば見劣りする。あの二人が規格外寄りなだけですが」


 学院長は小さく笑った。


「たしかに比較相手が悪い」


「ええ」


 それでもヴィクトルはSクラスだ。

 武が弱いわけではない。

 ただ、同じ教室にいる二人が強すぎる。


「学院管理の洞窟でも、面白い動きをしていたな」


「うまく立ち回っていました」


 ローヴェンはあの時の顔を思い出す。


 戦闘で前に出るわけではない。

 だが、全体の流れを見て、どこに危険があり、誰が何を欲しているかをすばやく読む。

 あれは商人の息子という言葉で片づけるには惜しい。


「前線に立つより、盤面全体を利益で見るタイプか」


「はい。しかも、本人はそれを隠す気があまりない」


「そこも商人らしいな」


 学院長が資料を閉じかけ、また開く。


「弱点は?」


「本気の底が見えにくいところです」


「というと」


「手を抜いている、という意味ではありません。ただ、常に余裕を残して動きます。損の出る無茶を嫌う。商人としては正しいですが、学院では時に思い切りのよさも必要になる」


「だが、いざとなれば踏み込むだろう」


「ええ。価値があると判断すれば」


 学院長は笑った。


「君はあれを少し気に入っているな」


「教師としては面倒です」


「質問に答えていないぞ」


 ローヴェンは少し黙ってから、諦めたように言った。


「……面白い生徒ではあります」


 ◇


「ガイル・ベイルン」


 学院長の声が少しだけ低くなる。


 東の武門の大貴族、その嫡男。

 いかにも、という出自だ。


「剣も魔法も、この学年では最上位です」


 ローヴェンははっきりと言った。


「武門の出を差し引いても、よく鍛えられている。身体の使い方がいい。瞬発も判断も早い。戦場に近い場で育った者の動きです」


「学問は?」


「この六人の中では霞みます」


 ローヴェンは率直に言った。


「ただし、それでもSクラスの中では上位です。単純に周囲の基準が高すぎるだけで、低くはありません」


 ガイルは前へ出る。

 その印象は誰にでもあるだろう。


 だが、本質はそれだけではない。


「やや前のめりなところはあります」


「あるな」


「ですが、見えていないわけではありません。むしろ対極までよく見ています。目の前の敵だけでなく、自分が踏み込んだ先に何があるかを把握している」


「ほう」


「だから、あれはただ突っ込むだけの生徒ではありません」


 ローヴェンははっきり言った。


「主役にも補佐にもなれる。自分で前へ出る力があり、必要なら他者を立てることもできる。武人としてはかなり器用です」


 学院長は満足そうに頷いた。


「ベイルンの未来は安泰、というわけか」


「今のところは」


「慎重だな」


「まだ十二ですから」


 ローヴェンは言う。


「今後、力で押し切れる時期が長く続けば、雑になる危険はあります。自分が強い者ほど、早く答えを出しすぎることがある」


「弱点はそこか」


「ええ。前へ出る判断が速いのは長所ですが、時々それが結論の速さにもつながる」


 学院長は軽く目を細める。


「だが、矯正しがいはあるな」


「あります。あれは伸びます」


 ここまでで五人。


 学院長はしばらく黙っていた。


 夕暮れがさらに深くなり、窓の外の光も少しずつ色を変えている。


「……大したものだな」


 学院長が小さく言う。


「この五人だけでも、例年なら学院の顔になっていた」


「ええ」


 ローヴェンも同意した。


「誰をその年の代表にしても、おかしくありません」


「だが、今年はそこにもう一人いる」


 学院長の指が、最後の紙へ置かれる。


 ローヴェンも、自然と背筋を正した。


 ◇


「リオン・ハル」


 その名が出た時だけ、ほんのわずかに部屋の空気が変わった気がした。


 学院長も、それを感じたのだろう。

 手元の資料ではなく、窓の外を一度だけ見てから、ゆっくりと視線を戻した。


「君は、あれをどう見ている」


 ローヴェンはすぐには答えなかった。


 優秀だ。

 異質だ。

 危うい。

 底知れない。


 そういう言葉はいくらでも浮かぶ。

 だが、どれも少し足りない。


「比較対象がいません」


 結局、一番正確なのはそれだった。


 学院長が、わずかに口元を緩める。


「私も同じ結論だ」


 リオン・ハル。


 入試での筆記満点。

 そして、無詠唱で学院長の施した防御魔法を打ち砕いた謎の火魔法。


 あれだけでも、十分に異常だった。


 だが、その後がさらにおかしい。


「青輝石を見つけ、灯具の開発まで持っていった」


 学院長が言う。


「それだけならまだ、“発想の飛んだ天才”で済ませられたかもしれん」


「ですが、あれはそこで終わりませんでした」


 ローヴェンが引き継ぐ。


「その後の政治的な駆け引きまで含めて、十二歳としては常軌を逸しています。資源、研究、製造、流通、王家、貴族家、商会――そこまで切って見せる生徒は見たことがない」


 学院長は静かに頷いた。


「しかも、自分の立場の弱さまで理解している」


「ええ。だから先に公爵を動かし、学院を動かし、大人を前へ出した」


 それが何より異質だった。


 ただ頭がいいだけなら、珍しくはない。

 魔法がずば抜けていても、数年に一人はいる。

 技術の発想に優れた子どもも、探せばいるかもしれない。


 だがリオンは、それらを一人の中に持ち込んだうえで、なおかつ“自分が今どこまで出ていいか”を見誤らない。


「どこか達観しています」


 ローヴェンは言った。


「子どもらしい反応がないわけではありません。ですが、物事を見る距離が妙に遠い。十二歳の目線ではない」


「授業中はどうだ」


「やや気の抜けた姿もあります」


 学院長が笑う。


「やはりか」


「ただし、怠けているというよりは、退屈しているのでしょう。おそらく、彼の理解が授業の先にあります」


 実際、そうとしか思えない場面が何度もあった。

 説明を聞きながら上の空のように見えて、問えば正確に答える。

 しかも、ただ正答するだけでなく、本質に近いところを先に押さえている。


「剣技ではエドガーとガイルに後れを取るな」


「今のところは、です」


 ローヴェンははっきり言った。


「自主的に鍛えているのでしょう。入学時と比べても進歩が目に見える。飲み込みが速い。身体の使い方はまだ粗いですが、改善の速度が異様です」


「一学期末試験は?」


「一位候補です」


 学院長は黙って聞いている。


 ローヴェンは続けた。


「筆記、応用、判断はおそらく最上位。実技で剣の分だけ少し落とす可能性はありますが、それを差し引いても総合一位候補に入る」


「飛び級は」


「本人がその気なら、可能でしょう」


 学院長の目が少しだけ細くなった。


「その気なら、か」


「ええ」


「狙うと思うか?」


「まだわかりません」


 ローヴェンは正直に答えた。


「ただ、あれは“Sクラスに残ること”そのものにはあまり執着していません。どこにいればより多く学べるかで動くでしょう」


「……まるで研究者か実務家だな」


「学生らしくない、という意味ではそうです」


 学院長はしばらく黙っていた。


 部屋の中に、夕方の静けさが満ちる。


 やがて、学院長が低く言った。


「私は長くこの学院にいる。君も多くの生徒を見てきた」


「はい」


「だが、リオン・ハルは異質すぎるな」


「ええ」


「優秀、では足りない」


「足りません」


「天才、でも少し違う」


「違います」


 学院長はそこで、小さく息を吐いた。


「比較するなら、歴代の誰だと思う?」


 ローヴェンはわずかに考えた。


 だが、すぐに首を振る。


「いません」


「断言するか」


「できます」


 ローヴェンの声は静かだった。


「剣ならあの生徒、魔法ならこの生徒、政治感覚ならあの卒業生、発想力ならあの研究者――そういう分解ならできます。ですが、あれは一人の中で混ざりすぎている」


 学院長の口元に、かすかな笑みが浮かんだ。


「やはり同じ結論だ」


 ローヴェンは、ようやく少しだけ肩の力を抜いた。


「正直に言えば、担任として困ります」


「ほう」


「測り方が定まらない。何をどこまで与えるべきか、まだ掴みきれない」


「だが、面白いだろう」


 その言葉に、ローヴェンは一瞬だけ黙った。


 否定しようと思えばできた。

 教師としては頭の痛い生徒だ。

 比較不能。規格外。予想の外側。

 しかも、本人はそれを誇示する気もなく、時々妙に気の抜けた顔で座っている。


 だが――。


「……ええ」


 ローヴェンは、珍しく素直に認めた。


「面白いです」


 学院長は満足そうに笑った。


「だろうな。今年のSクラスは、君にとって当たり年だ」


「当たりすぎています」


「まあいい。教師冥利に尽きると思って諦めなさい」


 ローヴェンは小さく息を吐いた。


 諦める。

 たしかに、その通りかもしれない。


 これだけの生徒が一つの教室に集まる年など、そう何度もあるまい。


 セレナの理論。

 エドガーの完成度。

 ナディアの静かな芯。

 ヴィクトルの嗅覚。

 ガイルの武。

 そして、リオン・ハルという比較不能。


 今年の一年は粒ぞろいだ、とは前から言われていた。

 だが実際は、その言葉では足りなかった。


 傑出した生徒が六人。

 しかも、誰一人として同じ方向を向いていない。


「……面白い時代になりますね」


 ローヴェンがそう言うと、学院長は窓の外へ目を向けた。


 夕暮れの王都に、少しずつ夜が落ちていく。

 やがて灯りがともり始める時間だ。


「なるだろうな」


 学院長は静かに言った。


「少なくとも、“平年通り”では終わるまい」


 その声には、長年学院を見てきた者だけが持つ確信があった。


 ローヴェンもまた、窓の外へ視線を向ける。


 磨かれれば王国を支える力になる。

 だが、育て方を誤れば、歪みもする。


 才能は、放っておけば勝手に育つものではない。

 少なくとも、ローヴェンはそう思っている。


 学院長が静かに言った。


「さて、忙しくなるな」


 ローヴェンは小さく息を吐いた。


「ええ。……ですが、教師としては悪くありません」


「ほう?」


「これだけの生徒が揃ったのです。骨は折れるでしょうが、見届ける価値はある」


 学院長は、少しだけ口元を緩めた。


「なら、しっかり見てやりなさい」


「そのつもりです」


 今年のSクラスは、平年通りでは終わらない。

 だからこそ、自分たちがいる。


 あの未完成な才能たちが、どこまで伸び、どこへ向かうのか。

 教師として、それを見極め、導き、必要な時には止める。


 それもまた、王立学院の役目だった。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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