表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: コバチ
第7章 大発明?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

79/126

第74話 勝ち筋

 翌日の放課後、俺たちはまた学院の応接室に集められていた。


 学院長。

 ローヴェン。

 工房担当の教師。

 そして、洞窟で青輝石を見つけた時の面子――俺、セレナ、ヴィクトル、ナディア、エドガー、ガイル。


 実演会までは、灯りをどう作るかの話だった。

 今は、灯りを誰がどう扱うかの話に変わっている。


 机の上には、ラウグレン公家から届いた正式な申し入れの文書が置かれていた。


 学院長が言う。


「昨日の件を受けて、学院としても方針を定める必要がある。

 学生であるお前たちに最終判断を委ねるつもりはない。だが、発見者であり、研究の中心でもある以上、意見は聞いておきたい」


 そこで一度、視線が巡る。


「まず確認しておく。

 ラウグレン公家は、研究成果そのものを奪うとは言っていない。

 だが、旧ラウグレン家王都屋敷の敷地に由来する実習洞の資源管理、採掘、開発、流通に関して、関与の権利を主張している」


 言い方は穏やかだ。

 けれど要するに、主導権の話だ。


 最初に口を開いたのはガイルだった。


「だったら、こっちも引かなきゃいいだろ」


 椅子にもたれたまま、いつもの調子で言う。


「見つけたのは俺たちだ。

 作ったのも俺たちだ。

 ラウグレン公が何言おうが、簡単に渡す必要はない」


 まっすぐだ。

 いかにもガイルらしい。


 セレナもすぐ続いた。


「少なくとも、ラウグレン公家だけに主導権を握らせるのは駄目です。

 加工と量産には工房が必要ですし、部品の精度を安定させるには、公爵領側の鋳造技術の方が現実的です」


 ヴィクトルはその横で指を組んだ。


「流通まで考えるなら、なおさらですよ。

 石を掘るだけじゃ終わらない。

 選別して、部品を作って、組み立てて、運んで、売って、修理する。

 そこまで一貴族家だけで抱えようとしたら、どのみち歪みます」


 エドガーは少し間を置いてから言った。


「王家に上げるしかありません。

 ここまで来た以上、学院とラウグレン公家だけで決められる話ではない」


 ナディアも静かに頷く。


「争えば必ず遅れます。

 ただ、何も決めずに譲るのも危険です」


 全員、言っていることは違う。

 でも根っこは同じだった。


 ラウグレン公家に取られるか。

 それともこちら側で押さえるか。


 部屋の空気が、自然とその二択へ寄っていく。


 学院長も、その前提で考えている顔だった。

 ローヴェンも、工房教師もそうだ。


 でも俺は、その流れを聞きながら、ずっと別のことを考えていた。


 ……違う。


 いや、違うはずだ。


 そうやって「どっちが取るか」にした瞬間、この話は一気に小さくなる。


「リオン?」


 セレナが怪訝そうに俺を見る。


「さっきから黙ってるけど、何かあるんでしょう」


「ある」


 俺は机の上の紙を一枚引き寄せた。


「たぶん、みんな前提がずれてる」


 その一言で、部屋の視線が全部こっちへ集まった。


「どういう意味だ」


 学院長が問う。


 俺は紙に線を引き始める。


 中央に一つ、大きな丸を書く。


 王家


 その下に二本、線を分ける。


 左に、高級灯具。

 右に、普及灯具。


「俺たち、ラウグレン公側が取るか、こっち側が取るかで考えてますよね」


「そうね」


 セレナが答える。


「でも、その考え方をやめた方がいいと思う」


 ガイルが眉をひそめた。


「何でだよ」


「皆が自分のところでやろうとするから、争いの火種になるんだ」


 俺は左の枝に、さらに書き足した。


 原料:実習洞由来の上級青輝石

 製造:ラウグレン公家側受託


 そして右側に書く。


 原料:ハル領産の中級青輝石

 製造:ヴァレスト公爵家側受託

 流通:ローデン商会受託


 最後に中央の下へ、もう一つ。


 研究:学院継続


 部屋が静まった。


 ヴィクトルが最初に言った。


「……待て。

 それ、どういうつもりだ?」


「こういうこと」


 俺は紙を指で叩いた。


「王家が中心になって国営事業として扱う。

 その上で、商品別に役割を分ける」


 誰も口を挟まない。

 だからそのまま続けた。


「上級青輝石は数が少ない。

 でも光量も安定性も高い。

 なら、貴族向けや王都向け、軍や高級用途の灯具に回すのが自然だ。

 ここはラウグレン公家に原料と製造を受託させればいい。

 向こうは“歴史的経緯”と“資源管理への関与”を主張してる。

 だったら、その顔は立つ」


 次に、右の枝を見る。


「逆に、平民向けや工房向けに広く流すなら、必要なのは上級じゃない。

 量があって、ある程度品質の揃う中級青輝石だ」


 俺はそこで少しだけ息を置いた。


「それなら、ハル領産の方が向いてる。

 上級は少ないけど、中級がまとまって出る可能性が高い。

 販売価格を抑えて、安定した品質で広く流すなら、原料はハル領側を使った方がいい」


 セレナの目が少し変わる。


 もう、俺が何を考えているのか見えてきた顔だ。


「製造は、公爵領の工房技術が一番現実的だと思う。

 外枠や受け具、導線溝付きの部品を安定して揃えるには、ヴァレスト公爵家側の鋳造技術が必要だ。

 そして平民向けの流通は、ローデン商会に国から受託させる。

 南の商圏に強いし、広く回すなら一番速い」


 ヴィクトルの眉が上がった。


「……うちの実家まで、最初から組み込むのか」


「入れない理由がないだろ。

 広く流すには流通網が要る。

 貴族家だけで回したら絶対に詰まる」


 最後に、中央の丸をもう一度指した。


「学院は引き続き、研究機関として関わる。

 灯具の改良、等級基準の見直し、光力値の測定、規格化。

 ここは学院が握っていい。

 むしろ学院が握るべきだ」


 部屋は完全に静まり返っていた。


 最初に動いたのは工房教師だった。


「……お前、それを今ここで言うのか」


「言います」


「本気で?」


「本気です」


 学院長が低く問う。


「つまり、ハルは“どちらが取るか”の争いに乗るなと言うのだな」


「はい」


「代わりに、王家を中心にした体制を作れと」


「そうです。官民協力体制というやつです」


 ガイルが腕を組んだまま、少し不満そうに言う。


「何でそんな面倒なことするんだよ。

 向こうに取られるくらいなら、こっちで押さえた方が早いだろ」


「早いけど、すぐ詰まる」


 俺は即答した。


「高級品だけで終わる。

 一部の貴族だけの便利道具になる。

 それじゃ、この灯りは王国の生活を変えない」


 ガイルは黙った。

 言われていること自体は理解した顔だった。


 セレナが静かに聞く。


「……王家がそんな前例のない形を受けると思う?」


「簡単じゃないと思う」


「ラウグレン公が、“高級路線だけ”で納得するとも限らないわ」


「それもわかってる」


「それでも、その形が一番いいと?」


「ああ、そう思う」


 俺は紙を見たまま言った。


「競業じゃなくて、最初から協業にした方が技術革新は絶対に速い。

 皆が自分の取り分だけを考えてぶつかれば、研究も製造も流通も全部止まる。

 でも役割を切れば、前へ進む」


 ナディアが小さく息を吐いた。


「……生活のための灯りを、貴族同士の取り分争いで遅らせるのは本末転倒ですね」


「うん」


 エドガーは、ずっと黙っていた。

 だがそこで、ようやく口を開く。


「建国以来初の官民協力体制、か」


 静かな声だった。


「前例はない。

 だから重い。

 だが、王家にとっては“全体を統括する名分”になる」


 学院長が眉を寄せる。


「前例がないからこそ、簡単には通らん」


「でしょうね」


 ヴィクトルが苦笑する。


「しかも、皆が自分の得を一回抑えないと成立しない。

 大人が一番嫌うやつだ」


「でも、成立したら?」


 俺が言うと、ヴィクトルは少しだけ笑った。


「……めちゃくちゃ強いな」


 そこだった。


 成立すれば強い。

 だからこそ、今ここで出す価値がある。


 工房教師が机を指で叩く。


「リオン。

 その案が通らなかったらどうする」


 俺は一瞬だけ黙った。


 でも、答えはもう決めていた。


「この灯りを、私益の奪い合いに使うなら」


 俺は机の上の設計図へ手を置いた。


「量産用の設計図はここで廃棄します」


 空気が凍った。


 セレナが目を見開く。


「……リオン」


「貴族の玩具にするために作ったんじゃない。

 一部の家が独占して威張るために作ったわけでもない」


 自分でも、声が少しだけ硬くなっているのがわかった。


「この灯りは、王国の生活のあり方を変えるものだ。

 夜の仕事も、工房も、診療も、巡回も、家庭の暮らしも変える。

 だったら、最初から“国全体でどう使うか”を考えるべきだと思う」


 学院長が低く問う。


「……本気で言っているのだな」


「本気です」


 紙の上に置いた手に、少しだけ力が入る。


「皆が乗れないなら、ここで止める。

 少なくとも、次の段階には進めない」


 沈黙が落ちた。


 重い。

 でも、引けない。


 ここで曖昧にしたら、結局は早い者勝ちになる。

 そして灯りは、広がる前にどこかの家のものになる。


 それだけは嫌だった。


 エドガーが、ふっと息を吐いた。


「……ようやくわかった」


「何が?」


「君は、取るか取られるかで考えてない」


 その言葉に、少しだけ肩の力が抜ける。


「最初から、もっと大きい形で見てる」


「そうじゃないと、この話は小さくなる」


 エドガーは小さく頷いた。


「たしかに」


 セレナも、やがて口を開く。


「無茶苦茶よ。

 でも……嫌いじゃないわ」


 ヴィクトルは額を押さえながら笑った。


「無茶苦茶だな。

 でも、その無茶苦茶を通したら、たしかに一番でかい」


 ナディアは静かに言う。


「争うより、役割を分ける。

 理想としては正しいです」


 ガイルは少し考えたあと、短く言った。


「つまり、軍で使うなら俺たちも噛めるんだな」


「そういうこと」


「なら、悪くない」


 学院長は、しばらく何も言わなかった。


 やがて、紙の上の線をじっと見つめたまま言う。


「……学生の思いつきとしては、重すぎる」


「でしょうね」


「だが」


 そこで初めて、学院長の口元がほんの少しだけ動いた。


「単なる思いつきで切って捨てるには、筋が良すぎる」


 部屋の空気が、わずかに変わった。


 まだ通ったわけじゃない。

 むしろここからが本番だ。


 王家。

 ラウグレン公家。

 ヴァレスト公爵家。

 商会。

 学院。

 全部の利害を、一つの形にまとめなきゃいけない。


 簡単な話じゃない。

 誰だって、自分の取り分を多くしたい。

 自分の家が主導権を握りたい。

 それが普通だ。


 でも――それをぶつけ合った瞬間、この灯りは遅れる。


 遅れて、削られて、いずれどこかの家の都合のいい形でしか広がらなくなる。


 それじゃ駄目だ。


 リオンにとって、ビジネスで「勝つ」というのは、誰かが一方的に得をすることじゃない。

 それぞれが役割を持って、誰も「負けない」形を作ること。

 それこそが、一番強い勝ち筋だ。


 奪い合うより、早い。

 争うより、遠くまで届く。


 そしてたぶん、この灯りに必要なのは、その形だった。


 俺は紙の中央に書いた“王家”の文字を見つめた。


 卓上灯の青白い光が、その上に静かに落ちていた。


最後まで読んでいただきありがとうございます!

続きが気になったら、ブックマークで応援いただけると執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ