↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第20章 王立学院五年 三学期

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
547/556

第524話 大会前日

 それからの日々は、本当に早かった。


 朝は大会へ向けた訓練。


 ガイルとは一日おきに木剣を合わせ、ベルンハルト先生にも何度か相手をしてもらった。


 同じ動きを続けない。縮地だけに頼らず、火、水、風、身体強化。


その時に使えるものを組み合わせる。


 ベルンハルト先生から学んだ、相手の力を真正面から受けずに流す動きも試した。


 当然、すぐにはうまくいかない。


 ガイルの木剣を流そうとして、そのまま吹き飛ばされたこともある。


先生がやると簡単そうに見えたけど、実際にやってみると難しかった。


 それでも、少しずつできることは増えていった。


 昼は授業。放課後はベルン金工房。


 暖房の試作品も、管を長くし、温水を二方向へ分け、長時間動かすところまで進んだ。


 失敗もした。


 水の流れが片方に偏ったこともあったし、長く動かしているうちに温度が下がりすぎたこともある。


 そのたびにルッツさんと原因を考え、一つずつ直した。


 夕食の前と後は、ミラと試験勉強。


 政治、歴史、領地経営。


 苦手なところを何度も問題にされ、ピコにも見張られる。


 朝から夜まで、やることは途切れなかった。


 それでも以前ほど苦しくはない。


 やる時間を決める。終わる時間も決める。今日できなかったことは、明日やる。


 そうやって一日ずつ過ごしているうちに、王都武闘大会までの日は一日、また一日と減っていった。


 そして気づけば、大会前日になっていた。


 ◇


「十六人か」


 五年Sクラスの教室。


 机の上に一枚の紙を広げる。


 王都武闘大会の対戦表だ。


 本大会へ出場するのは十六人。優勝するには四回勝たなければならない。


 対戦表自体は数日前に渡されていたけど、改めて見ると名前の並びだけでも少し緊張する。


「リオン、また見てるのか?」


 横からガイルが覗き込む。


「一応ね」


「もう覚えたぞ!」


「全部?」


「俺とリオンのところはな!」


「それ、全部じゃないでしょ」


 ガイルが気にしている場所は分かっている。


 俺も同じだ。


 まず、自分の名前を見る。


『リオン・ハル 王立学院代表』


 その隣には、一回戦の相手。


『ダリウス・ケイン ローヴェル伯爵領騎士団』


 ダリウス・ケイン。


 二十一歳。


 ローヴェル伯爵領の騎士団に所属しているらしい。


 特別有名な人というわけではない。ただ、騎士としてある程度の経験があると聞いた。


「騎士か……」


「何がだ?」


「騎士としての経験」


「強いのか?」


「多分」


「そうか!」


 何で嬉しそうなんだ。


「楽しみだな!」


「俺の相手だけどね」


「勝ったらどんな感じだったか教えてくれ!」


「もう勝つ前提なんだ」


「勝つだろ?」


「そのつもりだけど」


 十五歳の学生と、騎士。


 学院の中なら、こんな組み合わせにはならない。


 でも、これは学生の大会じゃない。


 経験も年齢も関係なく、同じ場所で戦う。


 対戦表を見ていると、そのことを改めて実感する。


「ガイルは……」


「ここだ!」


 言われる前に、ガイルが自分の名前を指した。


『ガイル・ベイルン 王立学院代表』


 そして、その隣。


『エルマー・ディーン 王宮魔術士』


「王宮魔術士か」


「魔法をいっぱい使うんだろ?」


「魔術士だからね」


「楽しみだ!」


「だから何で全部楽しそうなの?」


「強そうだからだ!」


 分かりやすい。


 でも、ガイルにとって簡単な相手ではないと思う。


 ガイルは近づけば強い。それは誰が見ても分かる。


 だったら相手だって、わざわざ近くで戦おうとはしないはずだ。


 距離を取りながら魔法を使ってくる。


 ガイルがどうやってそこを突破するのか、少し見てみたい。


「それよりリオン!」


「何?」


「ここだ!」


 ガイルの指が対戦表の先へ動く。


 俺の一回戦。その次の準々決勝。


 さらに先へ進むと、準決勝で反対側から伸びてきた線と合流する。


「二人とも二回勝ったら当たるぞ!」


「そうだね」


「絶対勝ってこいよ!」


「ガイルもね」


「当たり前だ!」


 すごい自信だ。


 でも、俺も戦ってみたい。


 今のガイルと。


 最近は何度も戦っている。それでも、大会で本気で勝ちに来るガイルはいつもとは違うはずだ。


「でも、その前に二回だよ」


「二回勝てばいいんだろ?」


「簡単に言うなあ」


 準々決勝の場所を見る。


 俺が一回戦を勝った場合、反対側から上がってくる可能性が高いと言われている人がいる。


『リゼット・カルナ A級冒険者』


 二十歳。


 王都を中心に活動している冒険者で、俺でも名前を聞いたことがある。


 大型魔物の討伐。


 商隊護衛。


 盗賊討伐。


 若いのに、いくつも実績を持っているらしい。


「この人も強いんだよな?」


 ガイルが聞く。


「A級だからね」


「リオンと戦うかもしれないのか」


「俺も向こうも勝てばね」


「いいな!」


「何が?」


「俺も戦いたい!」


「トーナメントだから無理じゃない?」


「そうなのか……」


 本気で残念そうだ。


 リゼット・カルナ。


 騎士とは違う。


 決められた場所で、人間を相手に戦うだけじゃない。


 魔物、盗賊、護衛。


 その場で何が起きるか分からない仕事を何年も続けてきた相手だ。


 もし当たれば、俺が最近考えている戦い方とはまた違う経験を持っている相手になる。


 ただ、対戦表の中で一番名前が知られているのは、この人じゃない。


 反対側の山を見る。


「やっぱり、この人かな」


「ああ!」


 ガイルもすぐ分かった。


『アルベルト・グランツ 王宮騎士団第三隊隊長』


 二十二歳。


 前回大会準優勝。


 そして、今大会の優勝候補筆頭。


 王立学院の卒業生でもあり、当時はSクラスだったらしい。


「俺たちと同じSクラスだったんだよね」


「そうらしいな!」


 五年前。


 アルベルト・グランツも、俺たちと同じ王立学院のSクラスにいた。


 卒業後に王宮騎士団へ入り、二十二歳の今、すでに一つの隊を任されている。


 前回大会では決勝まで進み、準優勝。


 その時は十九歳だったことになる。


「すごいな」


「強いんだろうな!」


「そこもだけど」


「何だ?」


「二十二歳で隊長ってところ」


「そうなのか?」


「かなり早いと思うよ」


「じゃあ、やっぱり強いんだな!」


 結局そこに戻るのか。


 でも、少し不思議な感じがする。


 俺たちと同じ学院で、同じSクラスにいた人が、王宮騎士団の隊長。


 前回大会準優勝。


 今大会の優勝候補。


 卒業した後、俺たちもそれぞれ別の道へ進む。


 五年後か。


 俺は何をしているんだろう。


「リオン?」


「何?」


「どうした?」


「いや。何でもない」


 対戦表へ目を戻す。


 他にも聞いたことのある名前はいくつもある。


 地方騎士団の副団長。


 王都で知られた傭兵。


 冒険者。


 王宮に仕える騎士。


 学院代表だから俺たちもここに名前を並べているけど、参加者の中では明らかに一番若い側だ。


「本当に大人の大会なんだな」


「今さらか?」


「分かってたけど、こうやって見るとね」


「俺は楽しみだぞ!」


「それは知ってる」


 何度聞いたか分からない。


 対戦表を畳む。


 明日、ここに書かれた十六人が同じ場所に集まる。


 ◇


 その日の夕方。


「違う」


「え?」


「そこ、前も間違えたよ」


 自習室。


 大会前日でも、やっていることはいつもと同じだった。


 向かいにはミラ。


 机の上には教科書とノート。その横にはピコ。


「どこ?」


「ここ」


 ミラが教科書を指す。


「ああ……」


「三回目」


「そんなに?」


「そんなに」


「覚えてないな」


「そこが問題なんだけど」


「ごもっともです」


 答えを書き直す。


 明日は王都武闘大会。


 それでも期末試験がなくなるわけじゃない。


 今日勉強しなかったからといって、明日突然何かが変わるわけでもない。


「でも、今日はもう終わりにしようか」


 ミラが俺を見る。


「まだ時間あるよ」


「明日、大会でしょ?」


「そうだけど」


「いつもより早く寝た方がいいよ」


「一日くらい変わらないと思うけど」


「変わるかもしれないでしょ」


「……はい」


 教科書を閉じる。


「素直だね」


「最近、逆らっても勝てないって分かってきた」


「何それ」


 ミラが笑う。


「ピー」


「ピコも笑ってる?」


「ピー」


「絶対笑ってるよね」


 俺もノートを閉じた。


 今日はここまで。


 二人で自習室を出る。


 廊下を歩く生徒は、いつもより少なかった。


「リオン」


「何?」


「明日、応援に行くからね」


「ありがとう」


「セレナたちも行くって」


「みんな?」


「うん。ヴィクトルも、ナディアも、クラウスも」


「そっか」


 それはありがたい。


 ちょっと恥ずかしいけど。


「ちゃんと勝ってね」


「頑張って、じゃないんだ」


「だって、勝つつもりなんでしょ?」


「もちろん」


「だったら勝ってね」


「結構プレッシャーかけるね」


「大丈夫でしょ?」


「何で?」


「リオンだから」


 さらっと言う。


「それ、理由になってる?」


「私の中ではね」


「そっか」


 少し笑った。


 そのまま歩いていると、ミラがもう一度口を開いた。


「でも、怪我はしないでね」


「それは約束できないかも」


「じゃあ、できるだけ」


「うん。できるだけ」


「本当に?」


「気をつけるよ」


「ならいい」


 ミラが頷く。


 明日の相手は騎士。


 その次にはA級冒険者がいるかもしれない。


 さらに勝てばガイル。


 反対側には、前回準優勝の優勝候補。


 簡単な大会じゃない。


 でも、ここまでやれることはやった。


 訓練もした。


 戦い方も考えた。


 できることも増えた。


 あとは戦うだけだ。


 ◇


 寮の部屋へ戻った。


 ピコがベッドの上へ飛び乗る。


「ピー」


「今日は早く寝ようね」


「ピー」


 机の上に、鞄から出した対戦表を置く。


 もう一度だけ広げた。


 十六人。


 その中に、自分の名前がある。


『リオン・ハル』


 少し前までは、こんな大会に出ることになるなんて考えてもいなかった。


 騎士。


 魔術士。


 冒険者。


 学院では戦ったことのない相手ばかりだ。


 不安がないと言えば嘘になる。


 でも、それ以上に楽しみだった。


 対戦表を畳む。


 明日。


 王都武闘大会が始まる。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

少しでも何かを感じて頂けたら評価とブックマークで応援いただけると執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
いよいよ大会が始まるんですね~みんな格上ばかりではたして勝ち抜けるのか?それとリオンは卒業したら各方面からスカウト来てもおかしくないと思うだけどオファーはないのかな?
頑張れw しかし土が使えないのは残念 対個人戦闘なら土はかなーり有効だと思ってます(´・ω・`) スネアエルフリスペクトとかしてません(わかる人は相当な古株)
常に首席のリオンが物覚えの悪い勉強苦手な劣等生に見えちゃう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。